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パラ1年延期「試されている」-JPC河合純一委員長

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
東京パラリンピック日本代表選手団団長の河合純一JPC委員長(2月7日)(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 新型コロナウイルスの感染拡大で、東京五輪・パラリンピックの開催日がほぼ1年延期されたことを受け、日本パラリンピック委員会(JPC)の河合純一委員長は、「ベターを追求した中で導き出された答えだったんだと思います」と述べた。課題山積なれど、「僕らは、試されているんじゃないですか」と言葉に力をこめた。いつもポジティブ。

 「だれに試されているかわからないけれど、(東京パラリンピックの)ゴールがあるわけですから、それに向けて常に準備していくしかないわけですよ。いま、それぞれが、できることをやる。ま、自分(の能力)以上のことはできませんから」

 東京パラリンピックは当初、ことしの8月25日開幕の予定だった。が、来年の8月24日の火曜日に開幕し、9月5日の日曜日に閉幕することとなった。最大の問題は新型コロナウイルスの感染が収束しているかどうか、だろう。また、パラリンピック選手への影響は、五輪選手より、大きいかもしれない。

 東京パラリンピックの日本代表選手団団長を務める河合さんは説明する。

 「選手はもちろん、若手もいれば、ベテランもいます。とくにパラは年齢の幅も大きいし、障がいの種類によっても違いがあると思います。障がいによっては、進行性の病気を持っている方もいるので、そういう選手の立場に立つと、コメントしにくいですが、難しいこともあると思います」

 公平性を担保するため、パラリンピック選手は定期的に国際大会などで、競技ごとの障がいの程度に応じたクラス分けのチェックを受ける必要がある。障がいによっては、進行したり回復したりして、クラス分けが変わる可能性もあるそうだ。

 1年延期となったことで、代表内定選手の取り扱いや、代表選考会の日程変更が課題となっている。内定選手についてはほとんどの競技団体が「変更なし」の方針を打ち出している。当然、選手や指導者にとっては、強化計画の見直しが求められる。

 いわゆる「リセット」か。ただ、いまは練習環境を確保するのも難儀だろう。もちろん、人の命が第一だ。「一番は感染をひろげないこと」と前置きしながら、河合さんは「それぞれの状況によるので一概には言えませんが、リスクを最小化しながら、やることを粛々とやるしかありません。そこで、(選手は)自身で気づくと思います。いままで、あったこと、できていたことが当たり前ではなかったと」

 選手や指導者は、パラリンピックまであと半年と思って頑張ってきたことを、あと1年半も続けないといけない。「(気持ちを)張り続けるのは無理でしょう」と漏らした。

 「インターナショナルのスケジュールがまったく読めない中でどうやっていくんだとなった時、“じゃ”という切り替えは重要でしょう。(代表の)当落線上の選手には焦りがあると思いますけど、本当にやらないといけないことをもう一度、考えないといけない。計画を見つめ直す期間にもなるのでしょうか」

 僕だったら、と河合さん。

 「前例がないから比較のしようがないけれど、いったん、(練習を)休むと思います。家でできることにシフトするとか、ほかのことを考えるしかありません。もちろん、仕事とかいろんな状況があると思いますけど」

 44歳の河合さんは、全盲のスイマーだった。頑張り屋だった。パラリンピックには1992年バルセロナ大会から2012年ロンドン大会まで6大会連続で競泳(視覚障害)に出場し、5つの金メダルを含む21個のメダルを獲得した。かつては練習用のプールを探すのもひと苦労、周りのサポートもほとんどなく、過酷な環境と闘ってきた。

 練習場所がない、収入もおぼつかない。指導者もいない。10年、20年前まで、仕事で練習のための休みをとれない選手はゴマンといたのだった。

 だが、いまや、障がい者スポーツのプレゼンスも上がってきた。うれしいことに、JPCのみならず、競技団体やアスリートにもスポンサーがつく時代となった。ただ、新型コロナウイルスによる経済悪化は、スポンサー企業にも影響を与えるだろう。2008年のリーマン・ショックの際、障がい者アスリートのスポンサーが相次いで離れたと聞く。

 東京五輪・パラリンピックの協賛企業の動向もだが、そういった現場のスポンサーの動きも気になる。大会の1年延期に伴い、企業がすんなり契約を延長してくれるのかどうか。河合さんも心配する。

 「オリパラのレベルもそうでしょうが、競技団体を支えている側、アスリートと契約しているところを含めて、問題が生じる可能性があるのかなって。こういう時って、一番弱いところから切られていきますよね。この先、どう動いていくのかが見えていません」

 先日の東京五輪・パラリンピック組織委員会の理事会では、JPCへの支援強化を求める意見が出た。苦しい時期こそ、JPCの存在意義が問われることになる。

 「強化というものは、やっぱり基盤があっての、上積みじゃないですか。事務局もそうです。“ぶれない”“揺るがない”、そういう体制があって、強化は進んでいくのです。(練習や試合が)できることが日常であって、それを当たり前と思っている選手たちがこういう緊急事態になった時、それすらも難しいと気づくのです」

 だから、「僕らは試されているんだと思います」と河合さんは繰り返した。

 「1年半後、あなたはあの時、“何ができたの”、“何をやったの”と問われるんじゃないんですか。その成果を含めて」

 たしかに、世界の状況をみれば、もはやスポーツどころではないかもしれない。まずは人命、そして安全。でも、東京五輪・パラリンピックを目指すアスリートたちは、未曾有(みぞう)の困難に立ち向かっていくのである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2024年パリ大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。酒と平和をこよなく愛する人道主義者。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『まっちゃん部長ワクワク日記』(論創社)ほか『荒ぶるタックルマンの青春ノート』『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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