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トルコに翻弄される自由シリア軍(TFSA):リビアとシリアで苦難に直面する

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

トルコ占領下で活動を続ける国民軍。「Turkish-backed Free Syrian Army」(TFSA、トルコの支援を受ける自由シリア軍)と呼ばれる彼らは、トルコによって翻弄され、リビアやシリア北部で苦難に直面している。

リビアでトルコがシリアから派遣した傭兵7人死亡

リビア中部のサブハ県では、ハリーファ・ハフタル将軍が率いるリビア国民軍が9月15日、トルコによってリビアに派遣されているTFSAの拠点を攻撃し、激しい戦闘の末、TFSA側のジハード主義者7人が死亡した。

英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団が発表したところによると、7人のうち3人はサウジアラビア人、2人はリビア人、1人はエジプト人、1人はオーストリア人で、このうちサウジアラビア人1人は、装着していた爆弾ベルトを自爆させて死亡したという。

リビア国民軍はまた、この戦闘で、エジプト人女性1人とリビア人女性1人を拘束した。

トルコは、アレッポ県北西部のいわゆる「オリーブの枝」地域、同県北部の「ユーフラテスの盾」地域、ラッカ県北部からハサカ県北部にいたる「平和の泉」地域を占領下に置いており、同地で活動を続けるTFSAや、イドリブ県においてTFSAと共闘関係にあるシャーム解放機構などのアル=カーイダ系組織の戦闘員(ジハード主義者)を傭兵としてリビアに派遣し、国民合意政府(GNA)を軍事的に支援している。

シリア人権監視団によると、トルコがこれまでリビアに派遣したTFSA戦闘員の数は18,000人(うち子供350人)、ジハード主義者の数は10,000人(うちチュニジア人は2,500人)に達し、うち約500人が戦闘で死亡したという。

戦闘員のうち、約7,100人は契約を終え、トルコ占領下のシリア北部に帰還している。

なお、同監視団が9月8日に発表したところによると、トルコはリビアへの残留を希望するTFSA戦闘員への給与を月2,000米ドルから600米ドルに引き下げたという。

トルコ占領地では国民軍と地元民兵が交戦

一方、「平和の泉」地域の拠点都市であるハサカ県ラアス・アイン市近郊のアドワーニーヤ村では9月13日以降、反体制武装集団どうしの戦闘が続いている。

交戦したのは、TFSAに所属する東部自由人連合とハムザート師団と、ハサカ自由人連合とアドワーニーヤ村の住民によって組織された民兵。

ハサカ自由人連合は、TFSAに参加していたハサカ県北部の地元住民が、通行所や検問所で通行料を徴収されることを反発し、TFSAを離反して結成した組織。

ハサカ自由人連合とアドワーニーヤ村の民兵は、2019年10月のトルコによる「平和の泉」侵攻作戦実施に際して、「オリーブの枝」地域や「ユーフラテスの盾」地域からハサカ県北部に移動してきたTFSAの受け入れを拒否している。

東部自由人連合とハムザート師団は、ダイル・ザウル県、アレッポ県、ヒムス県、ダマスカス県、ダマスカス郊外県などの出身者が多く、彼らはシリア軍との戦闘に破れ、トルコ占領地に退去した者たちである。また、東部自由人連合メンバーのなかには、イスラーム国を離反した戦闘員も少なからず含まれている。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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