オリオン大星雲の最新観測で「存在し得ない天体」を新発見!詳細な追加観測の結果も公開
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「オリオン大星雲の未知の天体と新情報」というテーマで動画をお送りします。
最新最強の「ジェイムズウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)」が、オリオン座で有名な「オリオン大星雲」をかつてない解像度で観測しました。
その結果美しい画像が得られただけでなく、理論上存在し得ない奇妙な天体が多数発見され、世界的にとても大きな話題となりました。
また、そんな奇妙な天体についてさらに詳細な観測が行われ、その研究成果が2024年1月に論文で発表されていたので、そちらもあわせて解説します。
●オリオン大星雲
冬の夜空に輝くオリオン座は、ベテルギウスとリゲルという1等星が2つ、2等星も5つある、まさに星座の王様に相応しいメジャーな星座です。
そんなオリオン座を語る上で欠かせない天体が、ベルトからやや下の位置にあるオリオン大星雲です。
地球から肉眼でも見え、低倍率の望遠鏡でも明確にその姿を捉えることができます。
オリオン大星雲は地球から約1300光年離れた場所にあり、その直径は約20光年であり、その中に実に2800個もの恒星が含まれていると考えられています。
○トラペジウム
そしてオリオン大星雲の中心部に位置する特に明るい恒星の集団は、「トラぺジウム」と呼ばれます。
特に際立って見える4つの星々はどれも太陽の数十倍の質量を持つ、かなり大質量で若い恒星です。
オリオン大星雲がこのように美しく輝いて見えるのは、特にトラペジウムを構成する主要な4つの大質量星から放射された強い可視光線や紫外線のエネルギーを受け、星雲自らも発光しているためです。
トラペジウムは地球から見ると4つの星が際立って見えますが、実際にはその他にもいくつもの恒星が存在しており、より強力な望遠鏡を使うとその姿を捉えることができます。
●JWSTの最新画像が公開!
最強の性能を持つJWSTが観測した、オリオン大星雲とトラペジウムの最新・最高解像度画像が公開されました。
JWSTはオリオン大星雲からやってくる電磁波のうち、私たちが見える可視光ではなく、見えない赤外線を観測しているため、その波長や強度に応じて、可視光で着色して画像化されています。
多くの恒星が映りすぎて、もはやどれがトラペジウムなのかよくわからないほどの圧倒的な解像度を誇っており、めちゃくちゃ綺麗です。
恒星など多数の天体が映っており、その周囲には原始惑星系円盤を伴う天体も見受けられます。
このような円盤構造内で物質が集まることで、地球や木星のような惑星質量天体が形成されると考えられています。
また同様の場所を、より波長が短い赤外線で撮影した画像も公開されていたので、併せて紹介します。
トラペジウムの右上の方へ伸びる、長い指のような形をした高密度の分子雲が目を引きます。
これは今から500~1000年ほど前に2つの若い大質量星同士が衝突したことで、このような構造が生み出されたと考えられています。
大部分が赤いのは、爆心地から巨大なエネルギーを受けることで、周囲の水素ガスが発光していることを示しています。
そして指の先端部のより高温な部分は緑色に、さらに最も高温な部分は白く映っています。
●存在し得ない天体を多数新発見
そしてJWSTはオリオン大星雲から、恒星を公転しない自由浮遊惑星(0.6~13木星質量程度)を540個も発見しました。
さらにそれらのうち9%が連星系(JuMBOs、Jupiter-Mass Binary Objects)だったそうです。
自由浮遊惑星やJuMBOsは、恒星のように自らエネルギーを生み出して輝くことがないため、通常はとても暗く観測が困難な天体です。
しかしオリオン大星雲のように星が活発に生成されている領域では、自由浮遊惑星も誕生後まもなく、表面温度が比較的高いままなので、観測ができます。
そしてこの大量の自由浮遊惑星やその連星系(JuMBOs)は、理論上存在し得ない、非常に不可解な天体であると世界的に話題になっています。
○これらの天体はなぜ不可解なのか?
惑星質量天体は一般的に、「まず別の恒星質量天体が形成され、その周囲にできた原始惑星系円盤の物質が集まって形成される」と考えられています。
しかし原始惑星系円盤から形成された惑星質量天体が自由浮遊惑星になるには、恒星の重力を何らかの理由で振り切る必要があります。
そのため540個という大量の自由浮遊惑星は、一般的な惑星質量天体の形成メカニズムではその存在をうまく説明できません。
一方で、分子雲が集まり、恒星が形成される過程で質量が足りずに直接低質量の天体が形成されるという、また別の天体形成プロセスも考えられます。
しかしその過程の最初の「断片化」という段階において、最低でも木星の3~5倍の質量が必要であると考えられており、今回オリオン大星雲で発見されたようなそれ以下の質量の天体の存在は説明が難しいままです。
さらに惑星質量天体の連星系である「JuMBOs」の存在は、より不可解です。
なぜなら大質量の恒星ほど、連星系を成す割合が高く、質量が小さくなるほど連星系を成す割合が低くなるためです。
このグラフにおいて破線の右の質量帯(木星の80倍~)が、内部で軽水素も重水素も核融合を起こせる「恒星」、破線の中間(木星の13~80倍)が、質量が足りず重水素のみしか核融合出来ない「褐色矮星」、そして破線の左の質量帯(木星の13倍未満)が、重水素も含め全く核融合を起こせない「惑星」に分類されます。
連星系を成す割合は、褐色矮星程度にまで軽くなるとかなり低くなることが知られており、惑星質量天体になるとほぼ0であるというのが従来の予想でした。
しかし最新の観測(赤の十字)では、多数のJuMBOsが観測されたことにより、この予想が完全に覆されています。
○新たな仮説
ではオリオン大星雲で発見された大量の自由浮遊惑星とその連星系(JuMBOs)は、どのように形成されたのでしょうか?
これらの天体は本来恒星になるはずの天体だったものの、分子雲が集まる過程で周囲の物質が、付近に存在する若く高温な星々からの紫外線によって蒸発させられ、恒星になる前に成長が止まってしまったのだといいます。
このように考えることで、大量に存在する自由浮遊惑星の存在を上手く説明可能です。
ただし大量のJuMBOsの存在は未解明のままです。
JWSTの観測によって従来の恒星・惑星形成メカニズムに大きな疑問が投げかけられることとなりました。
●電波による追加観測
先述のJuMBOsをさらに詳しく理解するために、JuMBOsの追加観測が行われ、その結果が2024年1月に論文にて発表されています。
JWSTは赤外線の波長帯の電磁波を観測しましたが、今回は「VLA(Very Large Array, 超大型電波干渉計群)」で電波を観測しました。
その結果、数あるJuMBOsの候補天体から、「JuMBO 24」のみ観測データを得ることに成功しました。
○「JuMBO 24」の新事実
JuMBO 24は木星の約11.5倍の質量を持つ惑星質量天体同士が公転し合う連星系です。
2天体の合計で木星の約23倍の質量を持つことになりますが、これはJuMBOsの中でも最も大きい総質量となります。
またJuMBO 24はお互いに28天文単位離れていますが、これはJuMBOsの中で最も近い連星同士の距離間隔になります。
最も重く、最も近くを公転しているという際立った性質から、JuMBO 24のみが電波による観測に成功したと見られています。
ただしそれ以外の原因が存在するかどうかについては現時点では不明です。
またJuMBO 24は、より質量が大きいが性質が近い天体である「褐色矮星」よりも、桁違いに強い電波を放っていました。
○本当にJuMBO 24からの電波なのか?
研究チームは、検出された電波がJuMBO 24からのものであるかどうかを詳しく検証しました。
その結果、JuMBO 24以外の電波源から電波が放射されている可能性は極めて低いという結論に達しました。
この図はJuMBO 24付近の領域における、赤外線源と電波源の詳細な位置を示した図となります。
白い長方形はJWSTで観測された赤外線源の位置を示し、色は電波の強度を示しており、青色が濃いほど電波が強いです。
この図から、JWSTによって検出された赤外線放射と、VLAによって検出された電波放射が、同じ光源から到来していることが理解できます。
研究者たちによれば、JWSTが検出した電波放射と赤外線放射が別々の天体のものである確率は、わずか10000分の1とのことです。
またこの図では一見分かりにくいですが、この電波源は赤外線源同様に2つの光源に分離できるそうです。
よって確かに2つの天体が存在することがここでも示され、JuMBO 24が連星関係にある2つの惑星質量天体である可能性を高めています。
今のところ、電波放出のメカニズムや、なぜこれほど強力な電波を放射するのかについても謎のままです。
これらの謎を解明するには、さらなる観測が必要となります。