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何やら韓国がカジノ導入に関して蠢き出した

木曽崇国際カジノ研究所・所長

何やら韓国方面より統合型リゾート(カジノを含んだ複合観光施設)に関する報道が連日流れてきており、不穏な空気を感じ取っておるところです。以下、韓国の大手メディア・中央日報による6月20日の報道。

カジノ、やるならしっかりとすべき=韓国

http://japanese.joins.com/article/947/172947.html?servcode=100§code=120

…ギャンブルに対する否定的認識は相変わらずだが、実際にはカジノ誘致は長所が多い。一種の必要悪だ。永宗島が念頭に置くのは中国系観光客らだ。カジノだけ作るのでなく大規模複合リゾートを作り、コンベンション産業を作ろうという計画を持っている。お金が集まり多くの雇用ができる。そこでアジア各国も2010年にオープンし好調のシンガポールのマリーナ・ベイ・サンズをモデルにカジノ新設を構想している。

長期的には外国人専用だけでなく韓国人の出入りが可能なオープンカジノもさらにできるのは避けられないとみられる。マカオやシンガポールに行くお金を引き入れなければならず、とてつもない規模の地下ギャンブル産業を表に引っ張り出す必要もある。江原ランドの韓国内カジノ独占権は2025年に終わる。外国資本がいま外国人専用カジノに食いついているのは将来オープンカジノが許可されると期待しているためだろう。ラスベガスのサンズグループ、MGMグループなど世界的なカジノリゾート企業が韓国進出の前提とするのがまさに韓国人の出入りを認めることだ。…

お次は、同様に同国の大手メディア・朝鮮日報による6月21日の報道。

カジノ産業の育成、他国の成功事例を見習うべき

http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2013/06/21/2013062100613.html

…韓国には現在、韓国人も外国人も利用できる江原ランドのほか、外国人専用カジノが16カ所ある。江原ランドのオープン以来、ギャンブル中毒に陥り、財産を失ってホームレスになったという人も少なくない。違法な賭博の規模も、2008年の53兆ウォン(現在のレートで約4兆5000億円、以下同じ)から、今年は75兆ウォン(約6兆3700億円)にまで拡大した、と政府は推計している。政府は今回、外資系の2社に対し「信用状態」などの理由を挙げて「不適格」の判定を下したが、実際にはさらに多くのカジノを許容することにより、韓国社会にあしき風潮がまん延するのではないかという懸念の方が大きかったとされる。

しかし、公害の発生ばかり懸念していたら、今日の韓国で石油化学産業が誕生することはなかっただろう。また、国民が死亡事故の脅威にさらされることばかり心配していたら、自動車を今日のような輸出商品に育成することはできなかっただろう。カジノ産業にしても、カジノだけを考えるのではなく、それよりも収益性がはるかに高いショッピングモールやホテル、コンベンションセンターの誘致など、関連産業全体に視野を広げて考えるべきだ。…

朝鮮日報と中央日報といえば、韓国の三大主要新聞のうちの2つであって、日本でいえば朝日と読売が1日違いでほぼ同内容の「カジノ推進記事」を社説として発信するという何とも異様な光景であります。この背景には、日本で現在着々と論議が進んでいるカジノ合法化と統合型リゾートの導入構想が確実に存在しているワケでして、韓国政府が日本に負けじと慌てて国論の醸成に動き出したと見るのが自然でしょう。

アジア圏におけるカジノ導入競争といえば、2004年のマカオ、そして2010年のシンガポール、そしてこれから2015年に向けて大型の統合型リゾートを導入を予定しているフィリピンが有名ですが、これらはすべて東南アジア圏のお話。実は、世界の投資家の興味はそれら競争激化の進む東南アジア圏から、未だ競争の殆どない極東アジア圏に向って確実に移っており、この地域における最大の焦点となっているのが日韓両国の統合型リゾートの導入構想です。

韓国は現在、国内17箇所のカジノがすでに存在しますが、現在は政府がそれに様々な強い制限をかけており、未だ真に「統合型リゾート」と呼べるような観光施設は出来ていません。それでもすでにカジノが存在しているという点では我が国の先を行っていると言えますが、一方で2006年に起こった賭博関連業界を巡る大規模政治スキャンダルの影響もあって未だ国民の賭博に対するスタンスは非常に冷ややかであり、カジノ業界のさらなる制度的開放は非常に難しいと言われていました。

一方、日本では現・安倍政権が6月11日にカジノ導入に向けたアクションプログラムを策定。7月の参院選後には、一歩ずつ着実に論議が進みそうな様相を見せているだけに、この点においては韓国に先行しているのかなぁというのがこれまでの大方の見方でした。

【参考】祝!政府・観光立国推進閣僚会議がカジノ合法化に関するアクション・プログラムを策定

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/7919491.html

現在、世界の観光誘致競争はますます激化しており、統合型リゾートに代表される観光設備投資に関しても、その他の産業と同様にすでにグローバルで誘引競争が行なわれている時代。国際ハブ空港政策で負け、国際クルーズ船誘致で負けと、正直、負け続きの我が国の観光政策において、唯一、政策的に韓国との競争に勝てそうであったのが統合型リゾートの導入であったといえます。

そんな状況の中で韓国で起こりつつある統合型リゾート導入の世論形成に向けた急速な「ギアチェンジ」は、我が国のカジノ合法化論の今後の進捗に対しても、間違いなく影響を与えることでしょう

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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