イスラエルとルーマニア:サイバーセキュリティで協力:複雑な歴史を乗り越えて
2019年6月にルーマニアのブカレストで、イスラエルとルーマニアのサイバーセキュリティ分野で協力をしていく覚書(MoU)が署名された。調印式に参加したルーマニアの首相のヴィオリカ・ダンチラ氏は「ルーマニアとイスラエルはサイバーセキュリティ分野で技術、産業育成、組織や市民をサイバー攻撃から防衛するのに協力をしていく非常に良い時期であると信じている」と地元メディアの取材に語っていた。ルーマニアとイスラエル両国はサイバーセキュリティ・フォーラムを開催しており、今回で3回目であり、両国で協力していく覚書を交わした。
イスラエルはサイバーセキュリティが圧倒的に強い国だ。8200部隊という軍のサイバーセキュリティを担う部署で経験を積んだ人らが、多くのサイバーセキュリティに関するスタートアップを起業しており、サイバーセキュリティ産業も活発だ。今回、イスラエルとルーマニアではサイバーセキュリティでの協力について、主に情報交換を行っていくという。
イスラエルとルーマニアではサイバーセキュリティ分野においては、圧倒的にイスラエルの方が優位で強い。イスラエルは周辺諸国や世界中の反ユダヤ主義国からのサイバー攻撃の標的にされているので、サイバー防衛も強化しており、システムの脆弱性や新たな攻撃手法に関する情報を多く抱えている。そのためイスラエルとの協力関係を構築することは多くの情報を入手しやすくなる。
中東欧でのサイバーセキュリティのハブになりたいルーマニア
ルーマニアの情報セキュリティ機関のIoan-Cosmin Mihai氏は「世界規模でサイバーセキュリティの問題に直面している現在では、サイバーセキュリティ分野での国際協力は非常に重要だ。ルーマニアはサイバーセキュリティ分野では法制度面でこれから整備が必要な面も多い。ルーマニアではイスラエルの経験を活かして、既にイスラエルでは導入されているサイバーセキュリティのホットラインを構築した」と語っている。
またルーマニアではサイバーセキュリティ産業も強化しており、2017年には前年度よりも3倍以上の6000万ドル規模まで成長している。Mihai氏は「ルーマニアは中東欧におけるサイバーセキュリティのスタートアップの重要なハブになる可能性が十分にある」とも語っている。
ホロコースト時代のルーマニアでのユダヤ人
イスラエルとルーマニアがサイバーセキュリティ分野で協力していくことを明らかにした。だが両国の間には複雑な歴史がある。第2次世界大戦時に、ルーマニアでもユダヤ人迫害、いわゆるホロコーストは非常に悪質だった。ルーマニアでは何世紀にもわたってユダヤ人は迫害されてきて、1930年代後半にファシズムが台頭すると反ユダヤ主義的な法律が復活し、ユダヤ人は国籍、職業、市民権を剥奪され、ユダヤ人への残忍な攻撃がいっそう激化した。当時ルーマニアには約75万人以上のユダヤ人が住んでいたが、ルーマニアでは終戦までに35万人のユダヤ人が殺害された。しかも殺害されたユダヤ人の3分の2はナチスによってではなく、地元のルーマニア人やルーマニア人兵士によって殺された。ルーマニアの兵士たちはナチスでさえ怒りを覚えたほど残酷だったと伝えられている。さらに生き残った30万人のユダヤ人は身代金と引き換えに解放されるのを待っていた。
ユダヤ人を身代金と引き換える方式は戦後も続き、独裁者として処刑されたチャウシェスクが、ユダヤ人をイスラエル政府と身代金との引き換えに交換していたことはルーマニアでは周知の事実であり、チャウシェスクが受け取っていた身代金は総額で10億ドル以上と言われている。そのような複雑な歴史と民族感情を抱えている両国だが、サイバーセキュリティ分野では協力関係を推進していこうとしている。