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ローソンの優れた危機管理広報 閉店舗周辺に競合10店舗 消費期限改ざん巡りメディアが報じていないこと

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:ロイター/アフロ)

2019年2月6日、コンビニエンスストア「ローソン」の、埼玉県三郷(みさと)市の2店舗で、店内調理品の一部の消費期限の改ざんが判明したため、2店舗とも閉店した。健康被害の報告はなかった。

全国の店舗で発生したわけではないが全国区で報道

本件は、ごく限られた地域の2店舗のみで発生したが、報道は全国区に及んだ。NHKは、「首都圏ネットワーク」「シブ5時」「ニュース7」「ニュースウォッチ9」など、各時間帯のニュースで報じた。

民放も、日本テレビ系「ミヤネ屋」「news every.」「NEWS ZERO」、フジテレビ系「グッデイ」、TBS系「あさチャン」「Nスタ」、テレビ朝日系「スーパーJチャンネル」や、関西地域のよみうりテレビやテレビ大阪などで取り上げた。(テレビ東京はテロップで流した)

全国紙では、日本経済新聞、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞など。

通信社の時事通信共同通信が配信したので、それを受け、地方紙も記事にした。岩手、福島、北日本(富山)、福井、上毛(群馬)、下野(栃木)、静岡、中日、京都、奈良、四国、高知、西日本(福岡)、佐賀、大分、沖縄など。

他、スポーツ紙やインターネットニュースも報じた。

この改ざんが起こったのは埼玉県だが、地元埼玉新聞は、公式サイトやG-Search(ジーサーチ:日本最大のビジネスデータベースサービス)で検索した限り、報道していない(埼玉のテレビ、テレ玉は報道している)。

ローソンは全国展開している企業なので、事業規模の大きさを考えると、ここまで取り上げられるのは仕方ないのかもしれない。が、埼玉県三郷市という限られた場所で起きたことに対し、この取り上げられ方は大きい。

コンビニ弁当は消費期限の2〜3時間前に販売期限が切れ棚から撤去される(筆者撮影)
コンビニ弁当は消費期限の2〜3時間前に販売期限が切れ棚から撤去される(筆者撮影)

対象の2店舗の周囲、半径1km以内には競合コンビニが5〜10店舗近く

対象の2店舗の周囲には、競合のコンビニエンスストアがひしめいている。売り上げも、そこで働く人員も、取り合うのが現状だろう。

コンビニの商圏サイズについて、エリアマーケティングは半径1kmを商圏としている。この2店舗それぞれについて、半径1km以内にコンビニエンスストアがあるのか、地図で見てみる。

2019年1月18日に閉店したのは、下記の店舗。

ローソン三郷天神(みさとてんじん)一丁目店 (住所:埼玉県三郷市天神1-503-11)

天神一丁目店から半径1km内には、競合店が5店舗ある。

ローソン三郷天神(みさとてんじん)一丁目店の周辺(Google Mapによる)
ローソン三郷天神(みさとてんじん)一丁目店の周辺(Google Mapによる)

2019年1月22日に閉店したのは、下記の店舗。18日の閉店店舗とは、車で7〜8分の距離である。

ローソン三郷彦糸(みさとひこいと)店 (住所:埼玉県三郷市彦糸2-200)

彦糸店から半径1km以内にも、競合店が10店舗近くある。

ローソン三郷彦糸(みさとひこいと)店の周辺のコンビニ(Google Mapによる)
ローソン三郷彦糸(みさとひこいと)店の周辺のコンビニ(Google Mapによる)

当該店舗はどのような立地条件だったのかを報じたメディアは、筆者が調べた限り、見つからなかった。

今回、ローソン2店舗が閉店したことで、顧客が移動し、彼らが持っていた売り上げは周囲の競合コンビニに上乗せされる可能性が考えられる。

健康被害は起きていない

今回の件で、これまで健康被害は報告されていない。

たとえば、義務表示のアレルゲンが含まれているにもかかわらず表示していなかった、となれば、命に関わるから、大々的に報じるべきである(義務表示のアレルゲンは次の7品目。卵、乳及び乳製品、小麦、蕎麦、落花生、エビ、カニ)。

企業が自主回収を決定する際も、消費者の健康被害の有無が判断基準となる。

全国的に発生したことではなく、ある地域の2店舗のみで起きており、かつ、健康被害は起きていない。全国の何十ものメディアが大々的に取り上げる必要性はあったのだろうか。

ローソンの危機管理広報は優れている

2店舗のうち、1店舗は2014年から改ざんを行っていたという元従業員と、把握しながら対処しなかったオーナー。全国的に報道されることで、ローソンというブランドの信頼性にも傷をつけた罪は重い。

一方、今回の「消費期限改ざん」という危機に対し、ローソンの危機管理広報は、非常に優れていた。1月17日に報告を受け、翌日の18日には1店舗目を閉店している。

時系列で経過を情報開示

ローソンは、2019年2月6日付の公式サイトで発表している通り、2019年1月17日に第一報を受けてからの経過について、時系列で、必要な場合は時刻も含めて公開している。時系列の記録は、企業(広報)が、危機に際して必ずやらなければならないことだ。いつ何が起こったのか、きちんと記録を残しておくこと。後で保健所など外部機関に報告する際に必要となる。これを社内関係者で情報共有するのは当然のことだが、企業によっては、ここまで詳しく開示しない。ローソンのように、一般に広く情報開示し、起きたことを透明化することは、企業の信頼性につながる。

当該製品の微生物検査

また、微生物検査を外部の検査機関で実施し、調査結果を公開している。これは、消費者が、消費期限が7時間過ぎた当該調理品を食べた場合の安全性について把握するためである。9品のうち1品のみ基準値を超えていたとのことだが、他は基準値内であった。

対象となっているのは下記の製品である。

・厚切りロースのカツカレー:税込598円

・厚切りロースのソースかつ丼:税込566円

・海鮮かき揚げ丼:税込500円

・直火で炙った焼豚丼:税込530円

・ダブルたまごの親子丼:税込598円

・とろーりたまごの厚切りロースカツ丼:税込598円

・豚ロース生姜焼き丼:税込500円

<調理パン>

・厚切りかつ&ごろっとタマゴサンド:税込399円

・厚切りロースかつサンド:税込399円

出典:ローソン公式サイト「まちかど厨房商品(店内調理による弁当、調理パン類) 消費期限延長行為についてのお詫びとお知らせ」(2019年2月6日付)

推察に過ぎないが、カツなどの揚げ物が多く、エネルギー量の高い調理品が多いので、消費した方は、比較的免疫力の備わっている成人が多かったのではないだろうか。これが、幼児など免疫力の弱い人であれば、消費期限が過ぎ、かつ、品質が劣化していたもの(酸化など)を摂取した場合、下痢などの症状が起きる可能性はある。

再発防止策(新規・既存)

起こってしまったことは取り戻せない。が、今後、二度と起こらないための再発防止策が重要である。ローソンの発表では、これまで行ってきた既存の防止策を強化することと、今回のことを受けて新たに行うことと、区別して明示してある。

その他、関係者の処分についても書かれている。

日常の広報対応や弱者への配慮も

筆者はこれまで複数回、ローソン本部へ取材し、記事も書いている。広報担当者の方は、対応は早いし、必要な回答はすぐ頂けるし、親身になって対応して下さる。

また、この記事では詳しく述べないが、ローソンは、社会的弱者と呼ばれる経済的困窮者に対しても、10年以上の長きにわたって支援を続けてきた。

メディアの報道には5W1Hの「WHY(なぜ)」が抜け落ちていた

今回の件に関する報道について、テレビや雑誌、インターネットでマスメディアが報道した内容は、5W1Hのうち、

WHO(誰が)、WHEN(いつ)、WHERE(どこで)、WHAT(何を)、HOW(どのように)の5項目については、しっかり書いてあった。

だが、一番知りたかった、WHY(なぜ)が、なかった。

背景には短過ぎる「消費期限」ともっと前の「販売期限」があるのでは?

筆者が報道を知って瞬間的に思ったのは、消費期限を7時間延長して販売したという元従業員や従業員は、「まだ食べられる」「まだ売れる」と判断して、そうしたのではないか、ということだ。

期限表示の改ざんは不正行為なので、今回の処分は当然のことで、食品表示法違反の行為に対して擁護するつもりはない。

だが、「なぜ」元従業員らがその行為を行ったのか。その背景を推察すると、そこには、リスクを考慮して短めに設定されている消費期限と、その手前(調理品によって異なるが、消費期限の2時間以上前)に設定されている販売期限があるのではないだろうか。

この「なぜ」を知りたいのに、どこも報じていなかった。

ある人は「一連の報道を見ても、問題の本質がわからない」と書いていた。

賞味期限・消費期限の手前の厳しすぎる「販売期限」や「納品期限」も全国のコンビニ・スーパー・百貨店で見直すときでは

ローソンに限らず、コンビニ・スーパー・百貨店で設定されている、消費期限・賞味期限のずっと手前にある「販売期限」。そのもっと手前にある「納品期限」。この「3分の1ルール」の存在で、かつては年間1200億円の食品ロスが生じていた(流通経済研究所)。2012年10月から4年間のワーキングチームの動きで緩和した企業もあるが、まだ十分ではないため、農林水産省と経済産業省から2017年5月に改めて小売業界に通知が出ている。

2店舗の問題だけに終わらせず、日本全国の食品業界全体の緩和をより進め、膨大な食品ロスを減らしていくことも重要ではないか。

今回のことを受けて、今の社会のあり方をよりよいものにするために、消費者はどうあるべきか、企業はどう行動すべきか。発信者は、それを発信するのが役割ではないかと思う。そうであれば、ごく限られた地域で起きた、健康被害の起きていないことであっても、全国レベルで報じる意義があったのではないだろうか。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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