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東京ドームの次はウェンブリー? 井上尚弥vs.アフマダリエフ通達はファンに朗報だ

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
井上尚弥vs.ルイス・ネリ(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

4団体統一王座を守る難しさ

 パウンド・フォー・パウンド(PFP)でトップを争うスーパーバンタム級4団体統一チャンピオン井上尚弥(大橋)が保持する王座の一つ、WBAが13日、ランキング1位ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)との指名試合を通達した。WBAは9月25日までに試合を開催せよと指令し、交渉期間は7月14日までとしている。両陣営で合意に達しない場合は入札に持ち込まれる運びだ。

 バンタム級に続きスーパーバンタム級でも4団体統一王者に就いた井上だが、各団体が要求する指名試合をクリアしながらすべてのベルトを防衛して行くことは至難の業だと思える。同じく比類なきチャンピオン(4団体統一王者)に君臨したウェルター級のテレンス・クロフォード(米)はすでにIBFとWBC王座を取り上げられた。スーパーミドル級のサウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)もIBFが要求する指名試合をスルーする見通しで、ピースの一つが欠けそうな状況。先月ヘビー級王座をすべてまとめ、井上とのPFP争いが興味深いオレクサンドル・ウシク(ウクライナ)も同じ背景からIBF王座を失う可能性がある。

 ただ井上はWBAの“スーパー”チャンピオンなので今回アフマダリエフと対戦しなくても即、王座はく奪とはならないだろう。スーパー、レギュラー、暫定と王者乱立でひんしゅくを買うWBAだが、スーパーチャンピオンは指名試合の期限が優遇されているので救われる面がある。それでなくてもタイトル承認団体はファイトマネーのパーセンテージで承認料を徴収するだけに高額を稼ぐ井上は金のなる木。そうやすやすと王座はく奪処置を講じるとは考えられない。

9月、ロンドン開催のプランが浮上

 では井上vs.アフマダリエフは実現に向かうのか?

 井上へ挑戦が濃厚と思われたIBFとWBOスーパーバンタム級1位サム・グッドマン(豪州)がひとまず降りる様相の中、元IBF同級王者で現在WBO2位のTJ(テレンス・ジョン)ドヘニー(アイルランド)が次戦の最有力候補に挙がっている。後楽園ホールで岩佐亮佑(セレス)からIBF王座を獲得し、同会場で中嶋一輝(大橋)、ホープの一人だったジャフェスリー・ラミド(米)を序盤でTKO。そして井上vs.ネリのリングでもフィリピン人選手にTKO勝ちとドヘニーはめっぽう日本で強い。大橋ジムと友好な関係を築いていることからも井上戦が実現すれば日本開催になると予想される。

 他方で世界的な注目度が増している井上には「9月をメドにサウジアラビアやイギリスでリングに上がるのではないか」という噂も飛びかっている。もしドヘニーに代わりアフマダリエフが対立コーナーに立つとなると、日本開催ではなく、その線が強くなってくる――とは海外メディアの見立てだ。

 WBAの通知にいち早く反応したのがアフマダリエフのマネジャー、ワディム・コルニロフ氏。米国のボクシング専門サイト「ボクシングシーン・ドットコム」の取材に「9月21日にこのカード(井上vs.アフマダリエフ)がウェンブリー・スタジアムで実現すれば理想的だ」と発言。同日サッカーの聖地と呼ばれる同スタジアムでは元ヘビー級3団体統一王者アンソニー・ジョシュアとIBFヘビー級暫定王者ダニエル・デュボア(ともに英)が雌雄を決することが有力。そのビッグイベントに井上vs.アフマダリエフが組み込まれることを希望した。

 このイベントは先月サウジアラビア・リヤドで行われたウシクvs.タイソン・フューリー(英)のヘビー級4団体統一戦を実現させた同国の娯楽庁長官トルキ・アラルシャイフ氏が計画しているもの。東京ドームで4万3000人のファンを動員した井上が今度はウェンブリーで9万人のファンの前で戦う姿が想像される。さっそくアフマダリエフも所属するマッチルーム・ボクシング公式フェイスブックの動画に登場。居住する米カリフォルニア州の自宅と思しき家のプールサイドで「レッツゴー、チャンプ!」と闘志をかき立てている。

井上挑戦に意欲を燃やすアフマダリエフ

理想的な相手アフマダリエフ

 実力的にも元WBA世界スーパー・IBF統一スーパーバンタム級王者アフマダリエフはドヘニーやグッドマンより上と見られる。アフマダリエフは惜敗して2団体王座を失ったマーロン・タパレス(フィリピン)やネリより強いという見方もある。もし試合が決まれば相当、気合を入れて仕上げてくるはずで、勝敗予想が興味深くなってくる。ウェンブリー開催が決まるとマネジャーの言葉ではないが「理想的な設定で理想的な挑戦者」を迎えることになろう。

 フェザー級進出が海外ファンの観戦意欲を刺激して止まない井上だが、“MJ”のニックネームで呼ばれるアフマダリエフはスーパーバンタム級で好ファイトが期待できる刺客。昨年12月、それまで無敗のケビン・ゴンサレス(メキシコ)に8回TKO勝ちでWBAスーパーバンタム級挑戦者決定戦を制した実績も見逃せない。サウスポーのウズベキスタン人に勝ってフェザー級に上がれば箔がつくというもの。ここは大橋ジム大橋秀行会長に一肌脱いでもらって試合締結をお願いしたい。絶対おもしろい対決になると保証できる。WBAの指令が慶事になることはめったにないことだから……。

WBA挑戦者決定戦でケビン・ゴンサレス(右)を倒したアフマダリエフ(写真:Matchroom Boxing)
WBA挑戦者決定戦でケビン・ゴンサレス(右)を倒したアフマダリエフ(写真:Matchroom Boxing)

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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