自由研究は「立ち寄り」社会科見学でばっちり ~ 東京編
・紙の街 王子 紙の博物館 (東京都北区)
ものづくりというと、東京都内だと墨田区や大田区が有名ですが、意外なことに北区も製造業が盛んです。その特徴は『紙』。
北区王子は日本の近代製紙産業の発祥の地なのです。
紙は私たちにとってごく身近な存在ですが、それだけにあまり気にしていないものでもあります。だからこそ、自由研究にはもってこいのテーマになります。
まずは、JR王子駅を降り、春には桜の名所で有名な飛鳥山に登りましょう。暑い最中、階段を上がるのは大変ですが、ここには無料の登山モノレール『アスカルゴ』があり、子供も大喜びです。眼下には、弧を描くように坂道を登る都電も見えます。
飛鳥山には三つの博物館が並んでいます。渋沢史料館、北区飛鳥山博物館、そして、紙の博物館です。それぞれ魅力的ですが、今回は紙をテーマにしているので、紙の博物館に向かいましょう。
王子は、明治初期に官営工場として洋紙を作る抄紙工場が創設され、それがのちの王子製紙となります。紙の博物館は、王子製紙の紙業資料室の資料を基に開設され、その後、日本の製紙業界によって運営されている世界でも珍しい紙専門の博物館です。
自由研究にはぴったりの現代の製紙産業、紙の歴史、古今東西の様々な紙の実物などに加え、関連図書も充実しています。屋外には、紙の材料となる植物も植えられており、博物館に一日こもれば、自由研究は完成しそうな勢いです。夏休み中には、自由研究をやるイベントも予定されています。
製紙工場については模型や実物、ビデオなどで分かりやすく解説されていて、大人も知らなかったことがたくさんあります。 毎週末には、牛乳パックを使った紙漉き教室もあり、図工美術の宿題にも最適です。
もう少しひねりの効いた自由研究にするには、駅前に戻ります。JR王子駅の反対側には、国立印刷局の『お札と切手の博物館』があります。私たちが使っているお札は飛鳥山公園に隣接する国立印刷局東京工場で、切手類は博物館に隣接する王子工場で作られています。紙の博物館で、日本の紙作りを学んだら、今度はそこに印刷する技術を学べば、自由研究はグレードアップ。
・絹の街 八王子 八王子市郷土資料館 (東京都八王子市)
八王子の観光地と言えば 高尾山。最近では、外国人にも人気のスポットであり、特に夏場は涼しさを求めて、夜景を楽しんだり、ビヤガーデンが開かれたりとたくさんの観光客が訪れます。
そんな高尾山へ向かう途中での「立ち寄り」社会科見学は、八王子市郷土資料館。
はっきり言って地味です。しかし、こうした地味なところにこそ、自由研究のネタが詰まっているのです。
資料館には、八王子の人々の生活に歴史が、使われた道具や写真などで分かりやすく展示されています。ダイヤル式の黒電話には、「どうやって使うかわかるかな」と書かれていたりします。
交通の要所である八王子の鉄道の歴史など詳しく解説され、貴重な資料も多いので、鉄道好きにも楽しめます。
ただ、自由研究のテーマとしてのお勧めは、繊維産業。八王子はかつて日本を代表する繊維の街だったのです。
八王子の別称に「桑都(そうと)」というものがあります。桑の葉は、絹糸を作り出す蚕(かいこ)のエサです。養蚕や織物が盛んだった名残です。
明治以降は、養蚕業(蛾の一種であるカイコガの幼虫に、植物の桑の葉を与え、さなぎを作らせ、そのサナギから絹糸=シルクを取る)が盛んだった信州や甲州から運ばれた絹糸は、八王子で布地に織られ、反物に姿を変えます。昭和初期になると、美しい柄を織り込んだ多摩織り『多摩結城(たまゆうき)』が全国で人気となります。
八王子の絹織物は、国内だけではなく海外からも高い評価を受け、日本の代表的輸出品目にもなりました。八王子から町田を経て横浜に至る浜街道(神奈川往還、現在の国道16号線)は、絹の道、日本のシルクロードと呼ばれているのです。
郷土資料館では、そうした資料を見るだけではなく、実際に機織りの体験もできます。
八王子の町の中心部に行くと、数は減りましたが古くからの呉服屋や衣料品店があります。これも桑都と呼ばれた時代の名残です。その中の一軒は、松任谷由実氏のご実家。名曲「中央フリーウェイ」は、独身時代に松任谷正隆氏が都内から八王子に由実氏を送る時の風景を歌ったものだと言われています。「中央フリーウェイ」をかけて、高尾山に向かう途中に、八王子で立ち寄り「社会科見学」。ちょっと理想とは違うかもしれませんが、きっと楽しめるはずです。
なお、八王子の絹織物をお買い得価格で購入するには、八王子織物工業組合のショップ「べネック」がお勧め。ネクタイやストールなどもあり自由研究にかこつけてお父さん、お母さんが楽しめそうです。
・都内でもおでかけついでに社会科見学
都内には、まだまだおもしろい博物館や資料館、工場見学できるところがあります。どこかに出かけた時に一、二時間ほど「立ち寄り」社会科見学してみませんか。月末に焦ってしまう前に、自由研究のネタ探しをしておきましょう。