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「新しい学校のリーダーズ」はデビュー8年でなぜヒットした? アソビシステム代表中川悠介氏が明かす裏側

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
新しい学校のリーダーズのコーチェラでのパフォーマンス(出典:アソビシステム)

ポップカルチャーの聖地・原宿に拠点を構え、「きゃりーぱみゅぱみゅ」や「新しい学校のリーダーズ」を輩出した芸能プロダクションのアソビシステム 代表取締役の中川悠介氏。
前編に続き今回は、昨年「オトナブルー」が大ヒットし、直近では世界最大級の音楽フェス「コーチェラ」に単独出演するなど超ブレイク中の「新しい学校のリーダーズ」をはじめとした、ヒットを生み出す中川氏の戦略に迫る。才能を見つけて掛け合わせ、レーベルや事務所の垣根を越えてアーティストを「全方位サポート」する中川氏の次なる目標とは。

才能を見つけて掛け算する

徳力 前編では「きゃりーぱみゅぱみゅ」さんのMVにこだわり、海外展開に成功した事例を伺いましたが、一般に所属アーティストが増えると成功事例を「横展開」しがちです。

その結果、アーティストの個性や打ち出し方のパターンが似通ってきてしまうということがありますが、アソビシステムのアーティストはそれぞれ、全然違いますよね。

中川 もちろんアーティストを成功させることが我々の仕事ですが、やっぱり一番大事にしたいのは本人たちのクリエイティビティです。

特に、昨年末初めてNHK紅白歌合戦に出場した「新しい学校のリーダーズ」と、日本レコード大賞最優秀新人賞を受賞した「FRUITS ZIPPER」は、いずれも昨年ブレイクしたガールズユニットですが、全然違いますね。

FRUITS ZIPPER(出典:アソビシステム)
FRUITS ZIPPER(出典:アソビシステム)

徳力 新しいアーティストは、「こういうグループを作りたい」といったイメージが先にあって、合う人を見つけてくるのですか?育てるのでしょうか?

中川 ふわっとしたイメージはあったりしますが、それよりも「面白い子を探してきて掛け算する」という感じです。僕の言うことってすごくふわっとしていて社員も苦労していると思うんですが、型にはめ過ぎて失敗するのは嫌だなと思っています。

「新しい学校のリーダーズ」の場合は、僕だけで作ったわけじゃなく、(合同でマネジメントしている)TWIN PLANETやテレビ朝日ミュージックの方々はもちろん、いろんな人と関わり合いながら、本人たちが頑張って今の形に成長していったのです。

アソビシステム 代表取締役:中川悠介氏(出典:アジェンダノート)
アソビシステム 代表取締役:中川悠介氏(出典:アジェンダノート)

「新しい学校のリーダーズ」は日本では昨年、突如大ブレイクしましたが、実はデビューして8年も経ちます。

ずっと「売れる」と言われてきたのですが、観客10人のライブの頃から自分たちの夢を信じて、頑張り続けたのが彼女たちの才能だと思います。

別のオーディションのために撮っていた動画を(アジアのカルチャーシーンを世界に発信する)88risingという米音楽レーベルCEOに気に入られ、2020年のコロナが大流行する直前にロスとラスベガスに渡って契約にこぎ着けたのです。

今でもよく覚えているのですが、下積みを続けてきた彼女たちの魅力を世界に伝えられるチャンスだと思って必死でした。

徳力 その後、88risingから世界デビューし、2020年の楽曲「オトナブルー」が2023年にTikTokで話題になり、日本でも大ブレイクしたのですね。こちらもきゃりーさんと同様、海外での人気が先行していますが、そうやってチャンスを掴み取りに行ったのですね。コロナで海外渡航が難しくなる直前に間に合ったのも良かったですね。

中川 そこも含めて彼女たちの力だと思います。

徳力 そもそも3年前の楽曲がヒットするというのも、昭和世代からすると驚くべき現象ですね。従来の音楽プロモーションは、新譜のCDを売ることが8~9割を占めていて、新曲をいかにプロモーションするかが最も重要でした。

中川 今は新譜を売るのが全てではなく、レーベルもプロダクションも垣根なく、アーティストを全方位でサポートする時代になってきています。

「新しい学校のリーダーズ」も3社合同マネジメントにしている意味は大きいです。世の中のニーズとしても、「今目の前にある新しいもの」ではなく、「今聞きたいこと・今見たいもの」を自由に選べる状況を求める方向に変わってきているのだと思います。ドラマもTVerの見逃し配信が数字を作っていますね。

徳力 確かに、以前この連載で「YOASOBI」のヒットを仕掛けたソニー・ミュージックエンタテインメントの方々をインタビューした時に、「アイドル」のように大ヒットした楽曲だけでなく、アーティストの「総量」としてのブランディングを意識しているという話が印象的でした。

参考:YOASOBI「アイドル」が小学生からグローバルまで大ヒットできた理由に学ぶ、これからのヒットの鉄則

一方で、最近はYouTuberやVTuberなど、能力が高ければ売れる個人アーティストが増えており、事務所に所属していたアーティストも独立するような動きがあります。個人主義が強まる中、中川さんはプロダクションという組織の役割をどうお考えですか?

中川 僕は今までの「事務所に入ってないと活動できない」という流れがおかしかっただけで、個人で活動するのも事務所に入るのも、本人が自由に選んでいい時代だと思っています。

ただ、僕らは、そのアーティストを「どう売っていくか」に加えて、「いかに長く活躍できるようにするか」という、セールス以外の価値を上げていくことも仕事だと考えています。長く活動するアーティストでいたいのであれば、よほどマルチな人でない限り、事務所がサポートした方がいいと僕は思いますね。

組織力のK―POPに対抗する「クリエイティビティ」

徳力 セールス以外の価値を上げていくことは重要ですね。今は個人の時代だからこそ、個人がそれぞれよく考えて決めなければいけない。そして同様に、組織も個人に選ばれる存在でいなければいけませんね。

アソビシステムではアーティストごとに打ち出し方の違いが際立ち、単純な横展開がないと思いますが、中川さんの中には「アーティストを自分流に染めたい」という思いはないのですか。

noteプロデューサー/ブロガー:徳力基彦(出典:アジェンダノート)
noteプロデューサー/ブロガー:徳力基彦(出典:アジェンダノート)

中川 そういった発想は全くないですね。組織の存在意義については、僕はなんとなく「アソビシステムがやる意味とは何か」を考えます。僕自身に能力はないので、能力と能力をくっつけるのが仕事です。

その時、先ほどお話しした「面白い子を見つけてきて掛け算する」ということになるのですが、それはプロデュースという名で、彼らの才能と自分たちのプロデュース力とを引き合わせることでもあるのです。

徳力 SNSの利用についても、従来の日本の芸能事務所は「危険だからアーティストにSNSは触らせない」とか、特定のイメージを崩さないように過剰なほどに守ってきましたが、アソビシステムのアーティストはSNSを使ったセルフプロデュース力が高いように思います。

中川 アソビシステムのアーティストは「自分」を持っているので、SNSについても自発的に動く人の方が多いですね。「守る」必要もあまり感じていません。

少し話がそれますが、これまでの日本は、たとえば業界団体のようなものを作って「権利を守る」ことでビジネスをしてきたと思います。けれど今、世界は「権利を使って勝つ」時代に変わった。その時代に勝っていくために、SNSやTikTokをやるのは当たり前で、使わない手はないと考えています。

ただ、それも大人が作るものではなく、嘘ではない本人たちの言葉で発信していくことが大事です。僕には、アーティストを抑え込んで何かを作り出していくということはできないので、引き出して応援していきたいのです。

徳力 やっぱりアソビシステムが、最初から中川さんの「イベントが好き」とか「アーティストへのリスペクト」を原動力に始まっていて、トップダウンでコントロールするのではなく、応援するための事務所であるということが、アーティストに責任感を持ったセルフプロデュースを促しているのでしょうね。

新しい学校のリーダーズも売れていない時期から模索し、日本でまだそこまで普及していなかったTikTokを真剣にやっていたことがブレイクにつながりました。

中川 そうですね。「新しい学校のリーダーズ」は僕が見ていても、こんなに才能があるってすごいなと思います。世界が彼らに気づいてくれて嬉しいです。8年もかかってTikTokでブレイクするなんて、夢があるじゃないですか。

新しい学校のリーダーズ © 2024 mayakuraki (出典:アソビシステム)
新しい学校のリーダーズ © 2024 mayakuraki (出典:アソビシステム)

徳力 これは永遠のテーマだとは思うのですが、プロデューサーとしてヒットを出す確度というのはどうしたら鍛えられるのですか?

中川 いや、僕なんてそんなにヒットを出せていません。だけど、自分たちの中でやっぱりファーストに尊重しているのがクリエイティビティです。

良いものを作った後、それをどう広げるかは、きゃりーのYouTubeだったり、新しい学校のリーダーズはTikTokだったり、変わっていきます。だからこそ、最初に良いものを作るということが一番大事だなと思っています。

K-POPはとても組織化されていて素晴らしいと思っていて、以前「KCON」(K-POPやドラマ、フード、美容などの韓流文化コンテンツが体験できるコンベンションとコンサートを融合したイベント)を見た際には、すごい衝撃を受けました。

今後、日本がそれに対抗していくにはクリエイティビティ、つまりオリジナル性を伸ばしていくことがカギだと思います。僕も負けたくない気持ちがあるので頑張っていきたいです。

徳力 本当に今は、日本のカルチャーに世界的な関心の流れが来ていると感じます。僕は、中川さんがKCONならぬ「JCON」を実施してくれるものだと思っていますので。

中川 ありがとうございます。自分がやるべきだと思っていますし、やらなければならないと思っています。

(出典:アジェンダノート)
(出典:アジェンダノート)

noteプロデューサー/ブロガー

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