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『告白 コンフェッション』の失望を名作『タイタニック』との比較で解説

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
失望した『告白 コンフェッション』。告白の意味や必然性が伝わらないのは致命的

2024年のシッチェス国際ファンタスティック映画祭で見た唯一の日本映画、『告白 コンフェッション』には失望させられた。

登場人物は2人だけの密室サバイバル。なのに、肝心の2人の人となりや関係性がちゃんと描かれていないのだ。

優れたサバイバル劇は人物描写に力を入れている。

例えば、名作『タイタニック』である。

※以下、『タイタニック』のネタバレがあります。未見の人は読まないで、ぜひ見てください

『告白 コンフェッション』の1シーン
『告白 コンフェッション』の1シーン

■90分間を人物描写に割いた『タイタニック』

3時間超の長い作品だが、船が沈むまでになんと1時間半かかっている

沈没までの前半は登場人物の描写に割かれており、生死を懸けたサバイバル劇は後半部分だけ。沈没までの90分間を使ってじっくりローズとジャックの社会的地位、乗船の経緯、人となり、2人の出会いと恋に落ちていく様子を描いている。

だからこそ、私たちは2人に感情移入でき、最終的に自分の命と引き換えにローズを救うジャックの、男としての紳士的で犠牲的な精神に涙、涙となるのだ。

結局、サバイバル劇とは誰かが死んで誰かが生き残る物語であり、私たち鑑賞者はそれを見守りつつジャッジする側となる。

仲間だったはずなのに、夫婦だったはずなのに、友人だったはずなのに、醜い裏切り合戦となるかもしれないし、あるいは“私が犠牲になるので、あなたは生きて”なんて美しい譲り合いになるかもしれない。

自分にとって相応しい者が生き残ればハッピーエンドになるし、相応しくない者が生き残ればバッドエンドになる。出てくる人物のことも関係性もわからないのではジャッジができない。感情移入ができないのだ。

ただのサバイバルのニュースでは、他人事なので感動することがないように……。

■『告白……』は“いきなり沈むタイタニック”

ひるがえって、『告白 コンフェッション』はどうだったか?

もういきなり雪山で遭難している。タイタニックでいえば始まってすぐに沈むようなものである。

どうして遭難する羽目になったのかは説明されない。誰が、なぜ、なんのために雪山に登っているのかは、最初の2分間のモノローグで大急ぎで語られる。それによって、生死をともにする2人が悲劇で結び付いた登山部の仲間同士というのはわかる。

『告白 コンフェッション』の1シーン
『告白 コンフェッション』の1シーン

だが、それ以上のことがわからない

性格とか人となりとかバックボーンとかがわからない。感情的な結び付きもわからない。ただの仲間なのか、友人なのか、あるいはライバルなのか。仲良しに見えて実は恨み合っているとかだってあるだろう。日本人と韓国人だし国民感情の影響もあったりしそうだし。

何より、3人目の人物が女性だから、三角関係の具合がどんなものだったのかが一番に気になるが、そんなことが一切語られないまま、唐突にサバイバルに突入する。

以上のことがわからないから、告白の意味も必然性もわからないままに……。

■サバイバルを思い出で中断、は悪手

もちろん、遭難後にフラッシュバックで――思い出を振り返る形で――、以上の不足している情報を補っていき種明かしをしていくこともできる。船が沈んでから、ローズとジャックのもろもろを語ることもできる。

でも、サバイバルしながら思い出の振り返りを挟み込んでいくやり方だと、どうしてもスピード感と緊迫感が損なわれる。

タイタニックで想像してほしい。大渦に巻き込まれて溺死しそうなのに、“いやー、あの夜はロマンチックだった”なんて感慨にふけっている場合ではないではないか。

『告白 コンフェッション』の1シーン
『告白 コンフェッション』の1シーン

だからだろう、『告白 コンフェッション』はサバイバルで突っ走っている。

登場人物周りの情報はそこそこにしておいて、生死を懸けた戦いの方ばかり描いている。上映時間もわずか76分間だから、フラッシュバックする余裕がなかったのか。

とはいえ、普通に90分間超の尺にすれば、冒頭の20分間で2人+女性を十分掘り下げられたと思う。漫画作品の実写化だから、漫画を読めばわかる、という解釈なのかもしれないが……。

追記:登場人物が2人だけの密室劇にしては、主役の演技力がもう一つ。相手役が名演だけに残念だ。

※『告白 コンフェッション』の公式WEBはここ

※写真提供はシッチェス映画祭

『告白 コンフェッション』の1シーン
『告白 コンフェッション』の1シーン

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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