『やすらぎの郷』 野際陽子の死を悼むような、涙雨のタイトルバック
帯ドラマ劇場『やすらぎの郷』(テレビ朝日 月〜金 ひる12時30分 再放送 BS朝日 朝7時40分〜)
第11週 55回 6月16日(金)放送より。
脚本:倉本聰 演出:唐木希浩
ドラマと現実 ふたつの死
6月16日、その日の『徹子の部屋』は、コロッケがゲスト回だったのを、15日の野際陽子死去の報を受け、急遽、過去の野際陽子の出演回を編集した追悼番組になった。番組の最後は、黒柳と野際の笑顔の2ショットに「野際陽子さんのご冥福を祈ります」のテロップ。
それからはじまる『やすらぎの郷』は、黒バックに、白抜きで、「6月13日、野際陽子さんがお亡くなりになりました。心よりご冥福をお祈り申し上げます。」の文字からはじまった。
「老女 ビルから 投身自殺」
「老女 ビルから 投身自殺」
石坂浩二(菊村栄役)が2回繰り返す。
犬山小春(冨士眞奈美)がビルの屋上から飛び降りたという、小さな新聞記事を読んで、愕然となる菊村とマロ(ミッキー・カーチス)
新聞記事には「事件当時屋上には鍵がかかっておらず、」とあった。こういうことがあるから、昨今、屋上への入り口は鍵がかかっていることが多い。病院の屋上も上がれなくしていると聞く。
タイトルバックは、雨の景色から、中島みゆきの主題歌も、インストルメントルから入って、2番。
ドラマの登場人物の死と、出演俳優の死が、重なってしまった。これは、最初から小春の死を受けての演出だったのだろうか。
ドラマでは、小春の死はマスコミにまったく取材されなかったことになっているが、現実では、野際陽子の死はメディアに大きく取り上げられた。
『やすらぎの郷』にここしばらく出ていなかった野際陽子演じる井深凉子が、この日、55話で久々に登場する。以後、数回、彼女のエピソードが続くのだ。なんてタイミングだろうか。
凉子は、まったく小春のことをマスコミが取り上げないので、知り合いの芸能記者に頼もうと電話しようとして、もう退職しちゃっていたことに気づく。
「死んだら、ただの”老女”と書かれるのかしら」とマヤ(加賀まりこ)。
引退したら、「老女」。でも、現役だった野際陽子は「女優」として惜しまれた。
サンセット大通り
小春の死を知らず、寝込んでしまった及川しのぶ(有馬稲子)のそばには、ソフレの貝田(藤木孝)が付き添っている。54話で、しのぶの錯乱ぶりを見て、お嬢(浅丘ルリ子)は、舞台『欲望という名の電車』(47話に登場)を、マロは映画『サンセット大通り』のヒロインを思い出す場面がある。
貝田はさながら、『サンセット大通り』のマックス(ヒロインである女優に魅入られて、映画監督から夫を経て、彼女が老いてもなお、召使になって尽くし続けるへんな人)だ。
久々近藤正臣登場
東京へ、ひとり、小春の遺体に会いにいく菊村。かつての仕事仲間・中山(近藤正臣)が駆けつける。
中山が、小春は「こいつ、何度か自殺騒動を起こしたけど、3階以下からしか落ちなかったンだ」
「それが、10階からとび下りるとはなァ」と余韻を残す台詞を吐く。
小春の身内は遠い遠い親戚の22歳の青年のみ。会ったこともない親戚の遺体を引き取らないとならないのは、困ったことだが、高齢者はこういうことにもなりかねない。
屋上、知らない親戚、誰も来ない質素な葬式……誰の記憶にも残らない。孤独な高齢者の未来は暗い(のか)。