Yahoo!ニュース

さくらの満開と菜種梅雨による「花に風」ならぬ「花に雨」

饒村曜気象予報士
令和5年(2023年)の春分の日における東京都杉並区の善福寺川のさくら

寒の戻りと花冷え

 令和5年(2023年)は、3月に入ってから記録的に暖かい日が続いており、東京では、3月14日に統計のある昭和28年(1953年)以降で、令和2年(2020年)、令和3年(2021年)と並んで、最早タイ記録でさくらが開花しました。

 沖縄のヒカンザクラの開花を除くと開花の一番乗りです。

 東京のさくらの標本木がある靖国神社で、11輪の花が開き、開花の基準である「5~6輪以上」という条件を満たしたからです(前日は4輪の花)。

 翌15日には横浜で、翌々日16日には岐阜など、各地で記録的な早さでさくらが開花しています(表)。

表 令和5年(2023年)の全国のさくら(ソメイヨシノ)の開花
表 令和5年(2023年)の全国のさくら(ソメイヨシノ)の開花

 令和5年(2023年)は、3月に入ると、最高気温が氷点下という真冬日を観測する地点はほとんどなくなり、最低気温が氷点下となる冬日を観測する地点も減っています(図1)。

図1 夏日と冬日、真冬日の観測地点数の推移(令和4年11月1日~令和5年3月21日)
図1 夏日と冬日、真冬日の観測地点数の推移(令和4年11月1日~令和5年3月21日)

 夜は気温が低くなっても、日中の気温が高くなり、さくらの開花が早まったのです。

 ただ、東京などで、さくらが開花したあとの3月18日頃に一時的な寒の戻りがあり、西日本での開花が少し遅れました。

図2 上空約1500メートルの気温分布(3月18日夜と3月27日夜の予想)
図2 上空約1500メートルの気温分布(3月18日夜と3月27日夜の予想)

 しかし、その後は晴れて気温の高い日が続き、記録的に早いさくら開花の便りが相次いでいます。

 そして、3月21日の春分の日には、各地で花見が行われました。

 東京都杉並区の善福寺川公園でも、満開とまではゆきませんが、かなり花が開いており、ワールドベースボールクラシック(WBC)の日本とメキシコ戦が終わった午後から多くの人が花見の宴会をしていました(タイトル画像参照)。

 ただ、3月26日前後には再度の寒の戻りがある見込みです。

菜種梅雨

 一般的に、さくらが開花したあとに気温が低いと満開になるのが遅れ、長めに花を楽しむことができますが、気温が高いとすぐに満開となり、花見の期間が短くなります。

 令和5年(2023年)の東京の花見は、記録的に早く開花し、その後の気温が高かったことから、そろそろ満開となり、さくらの見ごろは3月28日位までと短そうです(図3)。

図3 東京のさくら見頃予想
図3 東京のさくら見頃予想

 ただ、東京など太平洋側の地方では、南岸に前線が停滞し、曇りや雨の日が続いて梅雨のような天気になり、花見の宴には適さなそうそうです(図4)。

図4 予想天気図(3月22日9時の予想)
図4 予想天気図(3月22日9時の予想)

 菜の花が咲く頃(3月後半から4月上旬)に、曇りや雨の日が続き、梅雨のような天気になることを菜種梅雨といいますが、まさに菜種梅雨です。

 このため、さくら満開の頃からあとの見頃期間は雨にたたられ、来週の晴れが続く頃にはさくらが散っている可能性があります(図5)。

図5 東京の16日先までの天気予報
図5 東京の16日先までの天気予報

 一方、東京に比べてさくらの開花が少し遅れた福岡では、見頃も3月25日から4月1日と少し遅くなる見込みです(図6)。

図6 福岡のさくら見頃予想
図6 福岡のさくら見頃予想

 このため、見頃は菜種梅雨のあとの晴れの日が多い来週の半ば頃になりそうです(図7)。

図7 福岡の16日先までの天気予報
図7 福岡の16日先までの天気予報

 「月に叢雲(むらくも)花に風」という言葉があります。

 名月の夜には集まってきた雲(叢雲)によってきれいな月を見ることができなかったり、満開のさくらの花を風が吹いて花見前に花を散らすということから、「良いことには邪魔が入りやすく長続きしない」という意味です。

 今年のさくらは、「花に風」ならぬ、「花に雨」ということになりそうです。

 最新の気象情報を入手し、新型コロナでできなかった花見の宴をして欲しいと思います。

タイトル画像の出典:令和5年(2023年)3月21日に古谷未来撮影・提供

図1の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図2の出典:ウェザーマップ提供資料に筆者加筆。

図3、図5、図6、図7の出典:ウェザーマップ提供。

図4の出典:気象庁ホームページ。

表の出典:気象庁ホームページとウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

饒村曜の最近の記事