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イチロー、丸を育てた名伯楽が「ギータ2世」の育成打者にかけた魔法の言葉

田尻耕太郎スポーツライター
背番号125の大本。ほんわかした笑顔で愛されキャラ(筆者撮影)

吉住が4回1安打無失点

 7月2日、福岡ソフトバンクホークス三軍は、社会人の西部ガスとタマホームスタジアム筑後で練習試合を行った。

【7月2日 練習試合 タマスタ筑後 無観客】

西部ガス   000001000 1

ソフトバンク 000100000 1

<投手リレー>

【西】村田、岩崎、立石

【H】吉住、渡辺健、加治屋、渡邉雄、野澤

<本塁打>

なし

<スタメン>

【西】8横田 9正木 3松園 7永利 5井手 D木下 4山中 6森上 2金澤

【H】9佐藤 6勝連 4野村 D大本 3黒瀬 7水谷 5小林 8中村宜 2石塚

先発した吉住(筆者撮影)
先発した吉住(筆者撮影)

<戦評>

 前日に続いて行われた同カード。初戦は西部ガスが2対0で勝利。プロの意地を見せたいソフトバンクは試合前のベンチから「倍返しだ」などと威勢のいい声が上がっていた。

 試合では4番の大本がタイムリーを含む2安打で1打点。1番に入ったドラフト1位ルーキーの佐藤も2安打と気を吐いた。また、高卒新人の勝連はライト前へ鋭いヒットを運び、途中出場の堀内が左翼線に二塁打を放った。

 ただ、ヒット6本で得点は1点のみ。六回に追いつかれて試合は引き分けに終わった。

 先発した吉住は初回の先頭打者に二塁打を許して、さらに暴投と四球でピンチを背負ったが、その後3人の打者を抑えてピンチを乗り切ると2回からはパーフェクト投球を見せて4回1安打無失点だった。

 西部ガスは先発した村田が7回途中1失点の力投。3番手の立石は140キロ台後半の直球を常時投げ込んだ。(了)

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『内川に代わりまして大本』で二塁打2本

 育成選手の大本将吾外野手が打撃好調だ。

 この日は三軍戦で4番に座り、4打数2安打1打点。格の違いすら漂わせた。

 今シーズンは二軍公式戦でも好結果を出し続けている。6月23日の中日戦と28日の阪神戦。いずれも内川の代打で出場すると、2本とも右に引っ張って二塁打にした。ここまで8打数3安打、打率3割7分5厘をマークしている。

「地元(愛媛)の友達から『内川選手に代わって出るってスゴくね?』って連絡がよく来るんですけど、それって凄いんですかね(笑)。ちょっと違うと思うんですけど」

 広い肩幅をすくめて謙遜する。身長も体重も柳田悠岐とほぼ同じ。体格の良さは球界トップレベルだ。しかし、プロ野球選手とは思えないほど腰が低い。イジるよりイジられるタイプ。だからこそ、ちょっと打ったからといって天狗にならない。大本の長所である。

オリックス戦の安打「お!」

 公式戦前のファーム練習試合でも好結果を残していた。16日の由宇球場での広島戦では八回に同点の3ラン本塁打を放った。その前のカードの大阪遠征のオリックス戦でも代打でヒットを打っていた。

 その大阪での1本のヒットが大本にはとても大きな自信になった。

「オリックス戦の前の練習で、新井(二軍打撃)コーチからアドバイスをもらって、その打撃を試したんです。それでヒットを打てた。それ以降、今も新井コーチに言われたポイントだけをずっと考えてやっています」

 大本にとって、それは魔法の言葉になった。

 新井コーチのアドバイスはとても端的なものだった。

「トップに近いところで構えたらどうだ」

 以前は顔の前あたりに構えてそこから弓を引くようにトップを作っていたが、最初からトップに近い位置で構えるようにした。大本はもともとパワーが持ち味。力を溜めて一気に放出したいというイメージで打っていた。だが、試合になると差し込まれたり速球への対応が遅れたりしていた。

新井コーチの言葉を信じて

 今は、いわゆる無駄を省いた打ち方だ。初めは「これで強い打球が打てるのか」と半信半疑だったが、オリックス戦で速球派の本田仁海からセンターへクリーンヒットを放ち「お!」と手応えを得た。そして、広島戦での本塁打は自身も驚いた一発だった。

「練習中もこれまでは大きな放物線を狙っていましたが、今は強くて低い打球を打つようにしています。試合の中でも同じ意識です。結果的に角度がついて飛んでいってくれればいい。この打ち方でブレずに、継続してやっていきます」

左打者育成のスペシャリスト

 新井宏昌コーチは、自身も現役時代は南海、近鉄で通算2038安打を放った好打者。1993オフにオリックス新監督に就任した仰木彬監督に請われて打撃コーチとして指導者人生をスタートさせ、まだ一軍とファームを行き来していた「鈴木一朗」と出会った。当時の河村健一郎二軍打撃コーチと取り組んでいた振り子打法を理解し、その特殊な打ち方を前提としたうえで才能を引き出していったのだ。

 迎えた翌年の94年、イチローと名を変えたその左打者は前人未到のシーズン210安打を放ち、スター街道を歩み始めた。新井コーチが「イチローの師」といわれる所以だ。

 また、その後はダイエーホークスでもコーチを務めて柴原洋や村松有人、川崎宗則らの才能を開花させた。2013年から3シーズンは広島の打撃コーチとして、丸佳浩を大打者へと引っ張り上げた。

 左打者の育成といえば新井コーチというのが、球界では定説となっている。

 ソフトバンクにファームのコーチとして戻ってきて今季が2年目。いま、一軍では栗原陵矢や三森大貴といった左打ちの新世代選手が台頭している。

 そして、次なる育成の星へ、大本が名乗りを上げ始めた。

 球団スカウトは「柳田2世」と評する。入団2年目の頃は「大学2年の時の柳田と比べれば、大本の方が上」とまで言ってのけたこともある。今年は育成枠から支配下登録される期限が例年の7月末から9月末へと延長されている。アピールする時間はまだまだ残されている。

スポーツライター

1978年8月18日生まれ、熊本市出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。卒業後、2年半のホークス球団誌編集者を経てフリーに。「Number web」でのコラム連載のほかデイリースポーツ新聞社特約記者も務める。2024年、46歳でホークス取材歴23年に。 また、毎年1月には数多くのプロ野球選手をはじめソフトボールの上野由岐子投手が参加する「鴻江スポーツアカデミー」合宿の運営サポートをライフワークとしている。

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