カンニングの心理学:どんな人が不正を行うか、どう防止するか:共通テスト試験問題流出事件から
■共通テスト試験問題流出カンニング:19歳の少女が出頭
共通テストでのカンニング(インターネットを使用した問題画像の流出)が大きな話題になりました。報道によると、今日(1/27)19歳の少女が「私がやりました」と出頭しました(共通テスト流出に関与の受験生か、19歳の少女が香川県警に出頭…「私がやりました」:読売新聞1/27, 14:48 Y!)。
■インターネットを使ったカンニングはこれまでにもあった
すでに10年以上前、2011年に京都大学の入試で発覚しています。この時は、試験時間中に入試問題がインターネットの質問掲示板「ヤフー知恵袋」に投稿されました。
当時の報道によると、この時の少年は「どうしても京大に合格したかった」「とても反省している」と供述しています。彼は、試験中に携帯電話をまたに挟み、問題を入力したとも供述しています。
■カンニングの心理:カンニングする2つのタイプ
カンニングをする人には、2つのタイプがいるとされています。
1 心理的に追い詰めたれた真面目で神経質なタイプ
普段は不正行為などせず、真面目に生活しているが、合格、成績アップの強いプレッシャーを感じ、やむにやまれずカンニングをしてしまうタイプ。
2 罪の意識を感じない、確信犯的タイプ
テストは結果だけが重要であり、良い点数を取るためには手段を選ばないと感じるタイプ。これは、いわゆるワルの場合もありますが、優等生でもこの発想の人もはいます。
また心理学の実験によると、このテストで合格しないとひどい目にあうとプレッシャーを強くかけ、とても難しい問題を出し、そして簡単にカンニングができる環境に置かれると、多くの人がカンニングしてしまいました。
■カンニングの様々な手法
簡単なのは、隣の人の回答の盗み見でしょう。つい出来心で見てしまうこともあります。
手の込んだカンニングをする人もいます。小さなカンニングペーパーに、ぎっしりと書き込む人もいます(そのヒマがあるなら、普通に勉強しろと思いますが)。
このペーパーをどこにしまい、どう見るか。紙ではなく、別のところに書き込んでおく人もいます。
さらに携帯電話、スマホ、インターネットの時代になると、ハイテクな手法が現れます。
10年前の京大入試でのカンニングでは、またの間で不正行為が行われましたが、「またの間」は、ハイテクでもローテクでも、よくある手でしょう。
今年の共通テストでも「試験中に太ももの間にスマートフォンをはさんでいた受験生を、監督者が発見」と報道されています(共通テスト終了、スマホ隠し持ちなど不正3件:読売新聞1/16)。
<「スマホを洋服に隠して撮影」19歳大学生が出頭 試験問題流出事件:TBSテレビ1/27, 19:09 Y!)>
■手の込んだカンニング
カンニングは、銀行強盗などと同じで、言うまでもなく悪いことですが、いろいろ考えたり、物語としては、面白いかもしれません(不謹慎な言い方ですみません)。
銀行強盗映画がたくさんあるように、カンニング映画もあります。
『That'sカンニング! 史上最大の作戦?』『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』『ザ・カンニング IQ=0』などなど。
色々作戦を考えるのは楽しいかもしれませんが、もちろん実行してはだめです。
そして、手の込んだカンニングほど、発覚した時には証拠が残りやすいこともあります。
カンニングペーパーを丸めて飲み込もうとする人もいますが、その前に、試験監督が証拠を押さえます。それに、そんな派手で大きな動きをすれば、それこそカンニングの証拠になってしまいます。
静かな試験会場で起こるその出来事を、複数の試験監督が目撃することになります。
完全犯罪は、難しいのです。
■試験監督とカンニング防止
私が大学院生だったころ、アルバイトとして、某大学某学部の定期テストの試験監督をしていました。大教室での試験では、毎回複数のカンニングが捕まっていました。
試験監督からすると、まず怪しい学生は目につきます。たとえば、試験監督と時々目が合います。普通の学生は試験に集中していますから監督者など見ないのですが、カンニングする人は監督者の動きが気になるので、監督者を見るのです。
昔、改札に駅員さんが立っていたころ、すべての乗客の定期券をきちんと見ているわけではなかったそうですが、挙動不審と感じられる人の定期券はきちんと見て、不正乗車を摘発していたそうです。
空港でも同じですね。全ての人のバッグを開けるわけではありませんが、怪しい人のバッグは念入りに調べます。
どの職業も、経験を重ねると怪しさを感じることができるのです。
ただ、教育場面の試験監督は、カンニングを捕まえるのが仕事ではなく、むしろ防ぐことが仕事です。
試験監督全員が教室前方に出てしまうと、不正を働く人は安心してカンニングペーパーなどを出せます。だから、必ず何人かは、受験生の死角にいなければなりません。
前から歩いてきた試験監督が通り過ぎたとたんにカンニングする人もいますから、後ろ向きに歩いたり、時々振り返りながら歩いたりもします。
怪しいと感じたら、その学生の近くを頻繁に通ることもありました。こちらから少しプレッシャーを与えて、カンニングを防げれば、それに越したことはありません。
教室の前の教壇に立つと、学生が思っている以上に、一人ひとりの学生の様子が見えるのです。
■入学試験での難しさ
上に書いたのは、大学の定期テストの話です。入学試験になると、少し様子がちがいます。
入学試験では、定期テストよりもずっとカンニングが難しいでしょう。範囲が広いので、カンニングペーパーも作りにくいでしょう。どの教室で受験するのかも、定期テストとは異なり、当日までわかりません。
机の上に置いて良いものなどは、定期テストよりも厳密に規定されます。また多くの入試で、スマホの扱いも、電源を切っておくこと、身につけずカバンにしまっておくことなど、厳しい規定があります。
しかし、その一方で試験監督から見た難しさもあります。定期テストとは異なり、入学試験受験生に対しては、簡単にプレッシャーなど与えられません。
持ち物検査も、ボディーチェックも、現実的ではないでしょう。
■入試でのカンニング防止法
人は、環境次第で不正なこともしやすくなります。カンニング防止のためには、受験生を追い詰めすぎないことも必要でしょう。
ハイテクなカンニングには、今後ハイテクな防止法も議論されるかもしれませんが、そうでなくても、カンニングにも完全犯罪はない(とても難しい)と知らせましょう。
カンニングが成功すれば、何点か点数は上がるでしょう。しかし発覚した時には、とても大きなダメージを負うことになります。
他の犯罪や違法行為と同じように、入試のカンニングも割に合わないのです。
入試の時には、本人は不安になり、緊張します。その心をほぐし、家族が愛を注ぐことも、きっと有効なカンニング防止になると思います。
カンニング防止には、北風としての厳しい試験監督と、太陽としての温かな家族や周囲のはげましの、その両方が必要でしょう。
カンニングしてでも入学したいと思う学校もあるでしょう。夢を持つことは大切です。でも、不正を働きたくなるほど自分を追い詰めてはいけません。コツコツ頑張れることこそが大切でしょう。
夢は夢のままでは、その人を押しつぶすことがあるのです(特別な才能はないと知ることが幸せにつながる:ヤフーニュース個人有料)。