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アップルはいったい何を開発しているのか? 新たに仮想現実と拡張現実の第一人者を採用

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:アフロ)

英フィナンシャル・タイムズや米ウォールストリート・ジャーナルなどの海外メディアの報道によると、米アップルはこのほど、仮想現実と拡張現実の研究分野で第一人者と言われる人物を雇い入れたという。

VR・AR研究のバージニア工科大学教授

その人物とはバージニア工科大学のコンピューター科学の教授で、同大学のヒューマンコンピューターインタラクション・センターのディレクターを務めていたダグ・ボウマン氏。

これらの報道によると、同氏はこの分野で数々の賞を受賞した経歴を持つ。また同氏が率いた研究グループは、昨年米マイクロソフトが実施した、立体映像用ヘッドマウントディスプレイ「HoloLens(ホロレンズ)」の活用アイデア募集コンテストで、10万ドルの賞金を受け取った5つのグループの1つという。

ボウマン氏はバージニア工科大学で今年8月までの研究休暇を取っていたが、このほどアップルに移籍したとフィナンシャル・タイムズなどは伝えている。

ボウマン氏の研究者としてのプロフィールによると、同氏は3次元(3D)ユーザーインターフェースの設計と、仮想環境の有益性に関する研究が専門で、その研究範囲は、仮想現実(VR:virtual reality)と拡張現実(AR:augmented reality)の両分野に及ぶという。

このうち前者の仮想現実は、目の前にある実際の場面から離れ、完全にデジタル世界の中に身を置くという技術。

これを可能する機器としては、米フェイスブック傘下のオキュラスVR(Oculus VR)が手がけるヘッドマウントディスプレイ「Oculus Rift」が知られるが、オキュラスVRの技術を使った韓国サムスン電子の「Gear VR」などもある。

後者の拡張現実は、目の前の現実の場面にデジタル情報を重ね合わせて表示する技術。こちらは、米グーグルの「Google Glass」や、マイクロソフトが今年1〜3月期に発売する予定のHoloLensなどがある。

VR、AR、AI企業を相次ぎ買収

報道によるとアップルは、ボウマン氏を雇い入れたことを認めたものの、その理由などの詳細については明らかにしていない。

しかし、同社が昨年、拡張現実技術を手がけるドイツのメタイオ(Metaio)という企業を買収していることから、アップルの動向に詳しい米パイファー・ジャフリーのアナリスト、ジーン・マンスター氏は、アップルは眼鏡型電子機器のような拡張現実デバイスを開発しているのではないかと予測している。

マンスター氏によると、こうした機器はやがて「iPhone」に取って代わる可能があるという。

このメタイオは、独フォルクスワーゲンのプロジェクトから派生した企業で、拡張現実のアプリケーションを開発するためのソフトウエアや、テーブルの表面などを大型タッチスクリーンとして利用するためのウエアラブル技術を手がけていた。

またアップルは、先頃、人工知能(AI)技術を手がける米エモティエント(Emotient)を買収したとも報じられた。

このほか、同社は昨年、モーションキャプチャーを使い、人間の表情をリアルタイムでアバターなどのデジタルフィギュアに反映させる技術を手がけるスイスのフェースシフト(Faceshift)という企業を買収している。

このフェースシフトの技術は映画「Star Wars:The Force Awakens(スター・ウォーズ/フォースの覚醒)」にも採用されたという。

フィナンシャル・タイムズによると、こうしたことから、アナリストらの間では様々な観測が流れており、アップルが開発している技術分野は、自社開発のヘッドセットや新たな形の自動車用制御機器、自動車用ディスプレイなど多岐にわたると見られている。

「ボウマン氏の研究分野はEV開発にも有益」

アップルには「Titan(タイタン)」という、公然の秘密となっている電気自動車(EV)開発プロジェクトがあり、これまで人工知能(AI)などの技術分野に投資してきたと言われている。

今回のフィナンシャル・タイムズの報道によると、その動きはこの半年間でより活発となった。今回のボウマン氏の採用は、それが顕著に表れたものだと同紙は伝えている。

また同紙によると、英国の調査会社 CCSインサイトのアナリスト、ベン・ウッド氏は、大手自動車メーカーがジェスチャーをベースにしたユーザーインタフェースを開発する中、ボウマン氏の研究分野はアップルのEV開発にとっても有益だと話している。

その一方で同氏は、フェイスブックやグーグル、マイクロソフトなどのライバルが相次ぎ仮想現実・拡張現実分野で製品化を進める中、アップルはこれらライバルに市場を独占されるわけにはいかないだろうとも話している。

なお英国の投資銀行デジ・キャピタルが昨年公表したリポートによると、仮想現実・拡張現実の技術を使った製品やサービスの市場は、今年50億ドル規模に、2020年にはその30倍の1500億ドル規模になると見られている。

JBpress:2016年1月26日号に掲載)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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