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【17年注目】メルセデスのシート獲得。ボッタスはF1新時代のキーマンとなる?

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
メルセデスの2017年はルイス・ハミルトンとバルテリ・ボッタス(写真:ロイター/アフロ)

ニコ・ロズベルグ(メルセデス)が初のワールドチャンピオンを獲得し、直後に引退を発表。王者の引退という予想外の結末となった2016年シーズンを終え、「F1世界選手権」はラップタイムの向上を狙って新たに定められた「アグレッシブなF1」がいよいよ登場する新時代を迎える。

ロズベルグの後釜として、「メルセデス」は同じパワーユニットを積む「ウィリアムズ」からバルテリ・ボッタス(フィンランド)を移籍させ、ルイス・ハミルトン(イギリス)と共に4連覇を目指すことを発表。この3年間を席巻してきた絶対王者「メルセデス」に乗ることになったボッタスには否が応でも世界中の注目が集まるだろう。

来るべくして訪れたワークスの座

2012年に「ウィリアムズ」のリザーブドライバーとなり、翌13年に正ドライバーに昇格したフィンランド人、ボッタスがついにメーカー直属のワークスチームのシートを獲得した。ロズベルグの衝撃的な引退という事件があったとはいえ、ボッタスが優勝を狙えるチームの一員となると考える関係者は多かった。

バルテリ・ボッタス【写真:Daimler】
バルテリ・ボッタス【写真:Daimler】

これまでも「フェラーリ」への移籍が噂されるなど、ボッタスの存在はF1の移籍市場では常に名前があがるほど評価が高い。派手さはないが着実に上位入賞してポイントを持ち帰る安定したレース運びはどこのチームも欲しい能力だ。マシントラブルによるリタイアが非常に少ない現代のF1において、きっちりと任務を遂行してくれるドライバーの存在は大きい。ボッタスは抜群の安定感ある走りを披露するだけでなく、「ウィリアムズ」に在籍した4年間でチームメイトのパストール・マルドナード、フェリペ・マッサを年間ランキングで上回り、予選の速さでも同僚たちを凌駕する速さを見せていた。

これまでの4シーズンで9回の表彰台。優勝の経験がまだ無く、2016年は同じメルセデスのパワーユニットを使用する「フォースインディア」の躍進によって表彰台フィニッシュのチャンスが減っていただけに、今後のキャリア形成を考えるとベストなタイミングで「メルセデス」ワークスのシートを掴んだと言えよう。

F3時代から注目されたドライバー

バルテリ・ボッタスは現在27歳。その世代ナンバーワンの突出した速さを常に披露してきたわけではない。ただ、F1ドライバーへの若手登竜門である「フォーミュラ・ルノー2.0」で2つのタイトルを獲得した翌、2009年にF3デビューイヤーながらヨーロッパの伝統あるF3レース「マスターズ・オブ・F3」で優勝したことで注目を集めた。

主にイギリスF3選手権とユーロF3選手のトップランカーが集うこのレース。前年の優勝はジュール・ビアンキ。そのビアンキを相手にポールポジションから優勝したことが現在への原点となった。2010年はF3ドライバーとしてユーロF3選手権を戦いながら、「ウィリアムズ」のテストドライバーに起用される。F3でシリーズチャンピオンこそ取れなかったが、2011年に参戦したGP3シリーズでは前年から継続参戦するドライバーが数多くいる中でチャンピオンを獲得。経験が少ない中でも結果につなげていく安定性と、アスリートとしての献身的なチームに対する貢献の姿勢がF1デビューへとつながった。

2011年にGP3王者を獲得。F3マカオGPに挑んだバルテリ・ボッタス
2011年にGP3王者を獲得。F3マカオGPに挑んだバルテリ・ボッタス

2013年に「ウィリアムズ」からF1デビューした年はチームがランキング9位(11チーム中)となる非常に苦しいシーズン。それでも時にチームメイトのマルドナードを上回る順位でフィニッシュし、初のアメリカGPでは予選Q3に進出。決勝でも自信初ポイントとなる8位完走を果たしたことで、チームから高い評価を得る。

低迷していたウィリアムズのポイント獲得に貢献したボッタス。
低迷していたウィリアムズのポイント獲得に貢献したボッタス。

翌2014年は新しい「パワーユニット」時代の初年度。「ウィリアムズ」がメルセデスのパワーユニットを得たという優位性はあったが、ベテランのチームメイト、フェリペ・マッサを上回り、2位2回を含む合計6度の表彰台を獲得し、チームのコンストラクターズランキング3位への躍進に大いに貢献することになった。

この年はダニエル・リカルド(レッドブル)が3勝し、その陰には隠れる形となったが、この年のリカルドは正ドライバーになって4年目のシーズン。それまでと全く異なるシステムを使用する新時代の初年度に、F1で上位を走る事自体が初めてのキャリア2年目のドライバーがランキング4位を得ることはこれまた特筆すべき事実であった。

ハミルトンを上回れるか?

「メルセデス」には秘蔵っ子として育てられたパスカル・ウェーレイン(昨年、マノー在籍)が居たが、チャンピオンチームが選んだのはシーズン5年目となるバルテリ・ボッタスだった。4年在籍した「ウィリアムズ」にとってもボッタスはエースであり、絶対に必要な存在。しかし、「メルセデス」F1チームの実権を握るマネージングディレクターのトト・ウォルフがマネージメントを担当することからも、ボッタスの引き抜きは自然な流れと言える。ボッタスに「ウィリアムズ」でチャンスを与えたのは、かつて同チームに在籍したウォルフなのだから、その才能への期待と信頼は当然だ。

トト・ウォルフとバルテリ・ボッタス。【写真:Daimler】
トト・ウォルフとバルテリ・ボッタス。【写真:Daimler】

ただ、ボッタスにとっては初めてのチーム移籍。しかも、チャンピオンチームであり、メーカーワークスの「メルセデス」だ。当然、チームメイトのルイス・ハミルトンをエースとする体制にはなるだろうが、今年は空力面、タイヤなど多くの車両規定が変更となるため、ボッタスにもハミルトンに迫るチャンスは充分にある。彼がこれまで見せてきた適応力に大いに注目したい。

よりアグレッシブに速さを増す今季のF1はドライビングスタイルにも変化と適応が求められる難しいシーズンになると予想されている。「メルセデス」の強さはそれほど変わらないと考えられるし、ハミルトンの速さと強さも変わらないだろう。そんな中でボッタスに求められるのはハミルトンの援護射撃ではなく、ハミルトンとチャンピオン争いをすることだ。3年間、チームメイトのハミルトンとロズベルグが王座を争ってきた結果を後退させることはできない。

F「メルセデス」でボッタスはどこまで貢献できるか?【写真:Daimler】
F「メルセデス」でボッタスはどこまで貢献できるか?【写真:Daimler】

コンスタントにマシンを導く、安定したドライバーという印象のボッタスだが、「ウィリアムズ」のマシンが不得意なモナコGPでは一度もポイントを獲得できていない。優勝争いをするマシンを得たときの彼のリザルトはまだ未知数な部分も多いが、コーナリングスピードを増す今年のF1で彼がベテランのハミルトンを上回る結果を残せたならば、きっとボッタスは新時代を率いていく存在へと昇華していくことになるだろう。夫人は競泳選手でリオ五輪にも出場したエミリア・ピッカライネン(フィンランド代表)。アスリートの夫人にも支えられ、ボッタスの才能は開花するか?世代交代という側面も含め、2017年のF1で要注目のドライバーだ。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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