はじめての「ひとり温泉」でも安心安全!【素泊まり・安価・源泉浴びられるこの宿で】
はじめての「ひとり温泉」――リスク回避としての宿選び
私は国内外問わずひとり旅をするが、幸い盗難や詐欺などの大きなトラブルに見舞われたことはほどんどない。
ただ大雪に遭遇したり、体調を崩したことはままある。
あれは15年程前だったが、冬の能登半島の和倉温泉でのチェックアウト後、大雪のために空港が封鎖されたことを知った。この日、どうしても東京の自宅に戻る必要があったため、結局、陸路にしたが、電車も減便されていて、駅の電話が通じない。そうした時に、宿に待機しながら次の手を考えられたので、寒さを感じることなく、落ち着いて、判断を間違えず、無事に帰路につけた。宿のご好意には本当に感謝している。
旅のハプニングやアクシデントも、ひとり温泉では、なんでも自分で対応をしなければならない。だから”気軽に相談しやすいオーナーや女将、マネージャーがいる宿”というのが、実に心強い。
その点、福島県土湯温泉「YUMORI」は、とにかく安心。
2018年末にオープンした「YUMORI ONSEN HOSTEL」は、自炊もできる素泊まりの宿。旅館に泊まるゾ、という気張る感じが全くいらない。
素泊まりプラン5200円~というお手頃感。30室ある客室は6タイプに分かれ、サービスはセルフ。食事も出さないゲストハウスだから、安価で利用できるのだ。
「YUMORI」の顔とも言えるロビーには、ゴロンと寝ころべるソファーと旅心をくすぐる本が並ぶライブラリーが備えられ、外から光が差し込むリラックス空間。
またロビーにはシェアキッチンもあるため、調理ができ、お客さん同士で料理を作り、シェアしながら夕食を摂ったりしていた。カフェやバーも併設されている。
帰って来られる「家」をコンセプトとした狙いが当たっている。
もちろん大浴場に貸切風呂もある。
このような温泉ユースホテルを作ったのには経緯がある。
東日本大震災以降、土湯温泉はそれまで16軒あった旅館のうち6軒が廃業や休館に追い込まれた。廃業した宿は、震災直後は復興のための作業員の宿泊施設として使用されていたが、「その役割も終わり、これからどんな宿にしようかと構想を練っている時に、思い浮かんだのが、『もっと若い人にも気軽に温泉旅館を愉しんで欲しい』ということでした」。そう語るのは、東日本大震災の後、ふるさとのために力を注ぎたいという想いを胸に、土湯温泉に戻って来た渡邉利生さんだ。
いまや30カ国以上から外国人観光客が訪れ、大学生や女性のひとり客も多く、幅広い層から支持される。人気宿となった「YUMORI」を訪ねると、朗らかな渡邉萌マネージャーが迎えてくれる。親しみやすい萌マネージャーに会いにくるお客さんも大勢いる。萌さんは利生さんのお姉さん。カジュアルな装いの萌さんは、旅館でもてなす女性の新しいスタイルを目指して、お客に寄り添おうとしている。ちなみに姉妹宿「山水莊」はいわゆる温泉旅館である。
※この記事は2024年9月6日に発売された『ひとり温泉 おいしいごはん』(河出文庫)から抜粋し転載しています。