ぶれぬアップル、iPhoneのロック解除要請を拒否 「バックドアは国家と個人を危険にさらす」
「事件発生直後から要請に応じている」
昨年(2019年)12月に米海軍施設で起きた銃撃事件の捜査に非協力的だと批判したウィリアム・バー米司法長官に、米アップルが反論した。
バー司法長官は1月13日の記者会見で、「アップルに対し、容疑者が所持していたiPhoneのロック解除に協力するよう求めたものの、実質的な支援を得られない」と不満を漏らした。
米CNBCによると、アップルはその後声明を出し、「アップルが捜査に協力していないとする印象操作のような発言は受け入れられない」とし、同社が事件発生直後から、適時かつ徹底して要請に応じてきたと述べた。
アップルによると、これまで捜査に関する多種多様な情報を提供してきたという。クラウドサービス「iCloud」に保存されているバックアップデータやアカウント情報、複数のアカウントとやり取りされたデータなどの数ギガバイト分の情報を捜査機関に提出したとしている。
過去の銃乱射事件でもロック解除を拒否
事件は昨年12月6日午前、米フロリダ州ペンサコラの米海軍施設で起きた。容疑者は、サウジアラビア空軍から派遣されて研修中だった軍少尉。3人を殺害し、本人もその場で射殺された。米連邦捜査局(FBI)はテロ事件と判断し、捜査を開始した。
バー司法長官らは、この容疑者が所持していたiPhoneのロック解除をアップルに求めた。しかしアップルは応じていない。
同社は2015年12月にカリフォルニア州サンバーナーディノで起きた銃乱射事件の際も、同様にロック解除を拒否した。結局、FBIがアップルの助けを借りることなく解除に成功し、事態が収まったという経緯がある。
この時のFBIとアップルのやり取りは、公共の安全と個人情報保護のバランスを巡る問題を提起したと、CNBCは伝えている。
CNBCの別の記事によると、2015年の事件の際、アップルはロックを解除するためには、暗号化されたデータへのアクセスを可能にする「バックドア(裏口)」という特別な仕組みを用意する必要があると述べていた。
そして、今回の声明で次のように述べ、このバックドアに否定的な考えを示した。
「善人だけが利用できるバックドアというものは存在しない、というのが我々の変わらぬ主張だ。もし、バックドアを設ければ、何者かに悪用される。国家の安全が脅かされ、個人情報も危険にさらされる」(同社)
アップルは、iPhoneのロック解除に関して、一貫して捜査当局の要請に応じない方針だ。
トランプ大統領も登場
こうしたアップルの主張を、トランプ大統領がツイッターで批判している。大統領は1月14日の投稿で次のように述べている。
「我々は貿易や他の多くの問題で常にアップルを助けてきた。しかし、彼らは殺人や麻薬の売人、他の凶悪犯の電話のロック解除を拒否している。彼らは自ら名乗り出て、この素晴らしい国を助けるべきだ。さあ、メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」
大統領はCNBCとのインタビューでも「私は対中関税でアップルを助けた。彼らは我々を助けるべきだ」と述べ、アップルに対し捜査に協力するよう呼びかけた。
アップルは、こうしてトランプ大統領から圧力を受けているものの、同社がロック解除要請に応じたという報告はいまだない。
- (このコラムは「JBpress」2020年1月16日号に掲載された記事をもとに、その後の最新情報を加えて再編集したものです)