面白くない「いい人」を好きになるにはどうすればいいのでしょうか(「スナック大宮」問答集その4)
2011年の初秋から、「スナック大宮」と称する読者交流飲み会を東京・西荻窪や愛知・蒲郡で毎月開催している。お客さん(読者)の主要層は30代40代の独身男女だ。毎回20人前後を迎えて一緒に楽しく飲んでいる。この「ポスト中年の主張」を読んでくれている人も多く、賛否の意見を直接に聞けておしゃべりできるのが嬉しい。
初対面の緊張がほぐれて酔いが回ると、仕事や人間関係について突っ込んだ話になることが多い。現代の日本社会を生きている社会人の肌からにじみ出たような生々しい質問もある。口下手な筆者は飲みの席で即答することはできない。この場でゆっくり考えて回答したい。
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「個性的な男性ばかり好きになってしまいます。面白い!と感じたら好きになっているんです。でも、ちゃんと紹介してもらうのは『いい人』ばかり。結婚相手としては理想的だと頭ではわかっているのですが……。いい人を好きになるにはどうすればいいのでしょうか」(20代後半の独身女性)
男女の出会いにおける「いい人」は、「感じのいい人」という意味ではない。少し強い言葉に言い換えるならば、「どうでもいい人」「面白みのない人」「つまらない人」になる。しかし、常識ある大人はそんな本音を相手にぶつけたりはしない。たいていは「いい人を紹介してもらったけれど、お互いにピンと来ませんでした」などと言葉を選ぶのだ。
「いい人」の対義語は「面白い人」である。ちなみに、「感じのいい人」の対義語は「感じの悪い人」。感じが悪い、面白みがないという印象は、初対面の人間関係には致命的なほどマイナスである。
いい人は感じが悪いわけではない。ちゃんと挨拶もするし、愛想笑いもできる。傾聴力もあったりする。でも、その人の内面にあるはずの偏りのようなものが見えにくいため、相手の記憶に残りにくい。悪くすると非人間的な印象を与えてしまう。
面白い人と思ってもらうために極端な性格や趣味を披露すべき、という意味ではまったくない。無理をするとかえって不自然になってしまい、「いい人」から「ぎこちない人」「痛々しい人」へと悲しいスライドをするだけだ。
誰だって初対面の人は怖い。だからこそ、意識的にリラックスしよう。会話が盛り上がらないときも焦る必要はない。「お互いに緊張しているのだから当たり前だ。相性が合わないのだとしたら、自分のせいだけではない。相手のせいでもある」と思うと楽になる。ただし、不機嫌に押し黙ってはいけない。それでは「感じ悪い人」になってしまう。
気を楽にすると、自分が興味のある話題では自然と目が輝き、思わず前のめりになってしまったりする。言葉は具体的かつ力強くなり、ときには大笑いもするだろう。その姿が対話におけるあなたの素敵な個性であり、「いい人」から脱した瞬間である。
では、冒頭の悩みを抱える女性はどうすればいいのか。世の中には「個性がない人などいない」ことをまずは認識しよう。誰にでも独自の性格や生い立ち、生活環境がある。2つに分けられるとしたら、他人の前でも個性を程よく発揮することに慣れている人と、そうでない人がいるだけだ。前者のほうは目立ちやすいしモテやすい。しかし、後者が無個性で面白くないことにはならない。
いい人を好きになれないというあなたは、自分自身も「いい人」である可能性が高い。自分が緊張しやすくて面白みがないというコンプレックスを抱えているから、伸び伸びとして気ままに見える異性に憧れに似た好意を持つのだろう。
ならば、まずは自分がリラックスして、「いい人」を脱してしまえばどうか。「話が盛り上がらない状況を自分のせいだけにしない」という上述のポイントに加え、もう一つのリラックス方法がある。自分の弱みを開示してしまうのだ。
ただし、「まったくモテない人生。同性からも嫌われる」といった暗い弱みをさらしても相手を困らせてしまう。むしろ、自分が持っている「惚れた弱み」に注目しよう。「イカの塩辛が死ぬほど好き」「白シャツが似合う男性にクラっと来てしまう。そういえば、あなたも白シャツがとても似合うね」なんていう弱みが好ましい。
弱みという名の個性をさらせば、目の前の「いい人」も必ずリラックスする。彼がすぐに「面白い人」になることはないだろう。でも、少しずつでもこちらに近づいてきてくれるかもしれない。そのときに彼は、あなたという「惚れた弱み」を抱える可愛くて面白い男性に変身しているのだ。