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弾道ミサイル防衛「シュート・トゥ・シュートとシュート・ルック・シュート」

JSF軍事/生き物ライター
2014年イスラエル、アイアンドーム迎撃ミサイルの戦闘の様子(写真:ロイター/アフロ)

 ミサイル迎撃では「確実に撃墜する為、1つの目標に迎撃ミサイルを2発、発射する」という射撃方法が基本です。其処から「100発の弾道ミサイルを撃ち落とすには200発の迎撃ミサイルを用意する必要がある」と解説される事がよくあるのですが、これでは説明を端折り過ぎて正しくはありません。実は1目標に対して2発の迎撃ミサイルを発射するにしても複数の違う方法があるのです。

Shoot-To-Shoot (STS)

 シュート・トゥ・シュート(STS)は迎撃ミサイルを直ちに連射する射撃です。最初に発射した1発目の迎撃ミサイルが目標に当たろうが当たるまいが確認しないまま2発目の迎撃ミサイルを発射します。この為、1目標に対して2発の迎撃ミサイルを必ず消耗する事になります。目標が高速で迎撃ミサイルの射程が短い場合には余裕が無い為、こちらが用いられます。弾道ミサイル防衛ではPAC-3がこの射撃方法です。

Shoot-Look-Shoot (SLS)

 シュート・ルック・シュート(SLS)は、目標に1発目の迎撃ミサイルが命中したかどうかを確かめてから2発目の迎撃ミサイルを発射する確認射撃です。1発目が命中したら2発目は発射しなくてよいので、無駄弾が出ないという利点があります。ただし1発目が外れたのを確認した上で発射する2発目は時間が経過し余裕が無くなっている為、迎撃ミサイルの射程が長くなければ採用できません。弾道ミサイル防衛ではTHAADやSM-3がこの射撃方法です。

 上記の「100発の弾道ミサイルを撃ち落とすには200発の迎撃ミサイルを用意する必要がある」という説明が当て嵌まるのはSTS射法の方でPAC-3の解説では間違ってはいませんが、無駄弾が出ないSLS射法を用いるSM-3の解説には当て嵌まりません。

 なお射程が5000km以上と長大なアメリカ本土防衛用迎撃ミサイルGBIは、敵ICBMの1目標に対してSLS射法により最大で4回もの交戦機会を得ることが可能です。もちろんこの場合は最初の1発目で撃墜できれば準備していた残りの3発は発射しなくてよい事になります。

 また1目標に2発の迎撃ミサイルを用意することが基本とはいっても、一度に沢山の目標が押し寄せて来たら余裕が無くなり、1目標に1発ずつという場合も有り得ます。迎撃ミサイル自体の数が少ない場合にも単発で迎撃戦闘する場合もあるでしょう。逆に1つの目標に2発よりも多い迎撃ミサイルを撃ち込んだ実戦例もあります。あくまで基本であり、それが絶対というわけではありません。STS射法をする余裕が無くなり単発射撃になる場合や、SLS射法をする余裕が無くSTS射法に切り替えたり単発射撃になってしまう場合も有り得ます。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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