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『ちむどんどん』が、最後まで「共感」を得られなかった理由

碓井広義メディア文化評論家
黒島結菜さんが演じたヒロイン・暢子(番組サイトより)

NHK連続テレビ小説(朝ドラ)『ちむどんどん』が終了しました。

普通の朝ドラでは、終盤に差し掛かったあたりから、終わってしまうことを惜しんだり、終了後のロス(喪失感)を心配したりする声が高まってくるものです。

しかし今回は様子が違っていました。放送開始直後から始まった酷評が、最後まで収まらないままだったのです。

なぜ、こんな事態に陥ったのでしょうか。

このドラマには、大きな問題点が2つありました。「ストーリー」と「人物設定」です。

ご都合主義の「ストーリー」

まずストーリーですが、「ご都合主義」と言われても仕方のないエピソードで溢(あふ)れていました。

ここで言う「ご都合主義」は、作り手側が自分たちの都合に合わせて、無理筋な物語を繰り広げることです。

『ちむどんどん』には、「偶然」や「たまたま」や「いきなり」が頻発し、不自然極まりない展開となっていました。

たとえば、ほぼ手ぶらで沖縄から上京した主人公の暢子(黒島結菜)。たまたま知り合ったのが沖縄県人会の会長(片岡鶴太郎)です。

自宅に泊めてくれた上に、紹介された沖縄料理店が暢子のバイト先&下宿先となっていきます。

それだけではありません。会長は銀座の一流レストランへの就職まで世話してくれたのです。

「東京で店を持つ」こともそうですが、本来なら、かなりの紆余曲折(うよきょくせつ)を経てたどり着くはずの所に、暢子はいとも簡単に到達する。

これでは、見る側の「応援する気持ち」も薄れてしまいます。

それにしても、終盤になってから突然、沖縄に帰るという流れは驚きでしたね。

暢子にとっての東京、無理をして開いた沖縄料理店は、一体何だったのか。

さらに最終週での歌子の「入院・回復騒動」や、最終回でのいきなりの「202X年」へのワープも、ぞんざいというか、泥縄式というか。

もう少し練り上げた、そして丁寧な「物語作り」をして欲しかったです。

共感できない「キャラクター」

次の問題点は、登場人物の「キャラクター」です。

暢子は、少女時代からずっと理由のない自信に満ち、自己主張の塊であり続けました。

何かを思ったら、TPOなど無視して大声で口にします。

その行動原理は「思いつき」であり、自分勝手に見える行動に終始しました。

明るく前向きなヒロイン像は朝ドラの定番ですが、彼女の場合は「真っすぐな性格」の範囲を超えています。

単なる非常識で無遠慮な人に見えてしまい、見る側はなかなか共感できなかったのです。

ことあるごとに「ちむどんどんする!」とタイトルコールのように叫び続けたのも、押しつけがましいというか、鬱陶しいというか。

「内面の成長」があまり見られなかったという意味で、異例のヒロインでした。

そしてもう一人、困った人物がいました。暢子の兄、「ニーニー」こと賢秀(竜星涼)です。

真面目に働かない。暴力事件を起こす。一獲千金を狙って詐欺に引っかかる。

かと思うと、自身も詐欺まがいの行為に手を染める。

さらに周囲から借金をしたまま消えるのが常で、その度に尻ぬぐいをするのは家族です。

時々、「甘やかし過ぎだろう」と文句を言いたくなりました。

過去にも、朝ドラには何人もの「ダメ男」が登場しています。

近年では『おちょやん』(2020年度)のヒロイン・千代(杉咲花)の父親、テルヲ(トータス松本)が娘を売り飛ばしました。

『カムカムエヴリバディ』(21年度)の安子(上白石萌音)の兄、算太(濱田岳)も妹の大事な貯金を持ち逃げしています。

朝ドラのダメ男たちは、ヒロインの人生を揺さぶる大きな要素ですが、賢秀のダメさ加減は度を越しており、見る側にストレスさえ感じさせたのです。

終盤になって、賢秀も何だか急に“いい人”になっていましたが、「辻褄合わせ」のようで嘘っぽく見えてしまいました。

最後には、ナレーションで「借金は返した」などと、言い訳のように説明していたのも苦笑物です。

「沖縄復帰50年」の朝ドラだったが・・・

さらに、今回は「沖縄復帰50年」という節目の作品だったわけですが、復帰後の沖縄の変化などはほとんど描かれませんでした。

とりあえず、「沖縄がらみ」の朝ドラであればいいと考えていたのでしょうか。

最終週で、取って付けたように「沖縄戦」の話を持ち出してきたのも感心できません。

全体として、物語にも登場人物たちにも、作り手側の「思い入れ」が感じられない、なんとも「粗雑な作り」だったことが残念でした。

間もなく始まる、次回作『舞いあがれ!』。

「ちむどん沼」に足を取られることなく、きれいに”離陸”することを祈っています。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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