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ダルビッシュ、ナショナルズ入りのメリットとデメリット

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
7月31日のトレード期限までに移籍が噂されるダルビッシュ(三尾圭撮影)

 猫の目のように毎日目まぐるしく状況が変化するダルビッシュ有のトレード話。

 これまでにドジャース、ヤンキース、アストロズ、ブリュワーズ、カブスがトレード先として噂に上ったが、7月27日にはESPNがナショナルズもダルビッシュ争奪戦に加わると報じた。

 

 新たに移籍先として名前が挙がったナショナルズだが、このチームに移ることは大きなメリットとデメリットを抱えている。

 まずはナショナルズ加入の光と影を論じる前に、現在のチーム状況を見てみたい。

 7月27日の時点で61勝39敗のナショナルズはナショナル・リーグ東地区の2位ブレーブスに13.0ゲーム差を付けて地区首位を独走。2年連続、過去4年間で3度目となる地区優勝をほぼ確実視されている。

 試合平均5.63得点はナ・リーグ1位とリーグ屈指の強力打線を誇る。先発投手陣には、昨季自身2度目のサイ・ヤング賞を獲得したマックス・シャーザー(今季は12勝5敗、防御率2.23、WHIPはリーグトップの0.846、リーグ1位の201奪三振)、左腕のジオ・ゴンザレス(8勝5敗、防御率2.81、WHIP1.184)、若き豪腕のステファン・ストラスバーグ(10勝3敗、防御率3.25、WHIP1.118)と3人全員が2度以上のオールスター選出経験を持つ3本柱を誇る。現時点ではストラスバーグは故障者リスト入りしているが、8月上旬には復帰予定で、この盤石の3本柱にダルビッシュが加われば、ワールドシリーズ優勝の最有力候補となるはずだ。

2年連続3度目のサイ・ヤング賞を狙うマックス・シャーザー(三尾圭撮影)
2年連続3度目のサイ・ヤング賞を狙うマックス・シャーザー(三尾圭撮影)

 

 ダルビッシュにとってナショナルズ入りのメリットは、自らの価値を大きく高めた状態で、今オフのフリーエージェント・マーケットに参入できることだ。

 過去に7月末のトレード期限日までにアメリカン・リーグのチームからナショナル・リーグへ移り、移籍先の球団をプレーオフに導いたエース格の投手としては、1998年のランディ・ジョンソン(マリナーズ→アストロズ)と2008年のCC・サバシア(インディアンズ→ブリュワーズ)の大型サウスポー2人がすぐに思い浮かぶ。

 98年のジョンソンはアストロズで10勝1敗、防御率1.28、WHIP0.984、08年のサバシアもブリュワーズで11勝2敗、防御率1.65、WHIP1.003と圧巻の成績を残して、自らの株を大幅に上げた。

 その結果、ジョンソンはダイヤモンドバックスと4年5340万ドル(当時のメジャー投手最高年俸で、メジャー全体でも2番目)、サバシアもヤンキースと当時の投手最高額となる7年1億6100万ドルの超大型契約を勝ち取った。

 指名打者制のないナ・リーグはア・リーグよりも投手有利なリーグであり、ア・リーグからナ・リーグに移ってきた投手が成績をアップした例は多い。ナショナルズの強力打線の援護があれば、ダルビッシュがビッグユニットやサバシア級の大活躍を移籍後に見せることも不可能ではない。

ナショナルズの若きエース、ステファン・ストラスバーグ(三尾圭撮影)
ナショナルズの若きエース、ステファン・ストラスバーグ(三尾圭撮影)

 では、逆にナショナルズ入りのデメリットはなんだろうか?

 ナショナルズの指揮官を務めるダスティー・ベイカー監督はメジャー4球団合わせて22年の監督経験を誇る名将で、最優秀監督賞に3度も選ばれている。

 しかし、投手を酷使するという悪癖があり、カブスの監督時代にはマーク・プライアー、ケリー・ウッドの2人の投手寿命を大幅に縮めて大きな批判を浴びた。

 現在では一般論となっている先発投手の100球降板目安も、ベイカー監督がプライアーとウッドを投げさせ過ぎて壊したことで、他の監督たちがそのリスクを避けるようになった面もある。

 ベイカー監督もカブス時代の失敗で、先発投手の酷使には気を使うようにはなったとは言われているが、データを見るとそうとも言えない。

 今季のナ・リーグで唯一、先発投手の球数が100球を超えているのはナショナルズ。先発投手が120球以上投げたケースはリーグ全体で10度あるが、その中の3度がナショナルズである。

 

 ナショナルズは2015年にシャーザーと7年2億1000万ドル、今年はストラスバーグと7年1億7500万ドルの大型契約を結んでおり、若き主砲のブライス・ハーパーは来季が契約最終年だ。ハーパーとの再契約は10年3億ドルが攻防ラインになると見られており、今オフにダルビッシュに大型契約を提示する余裕はない。

 ダルビッシュ獲得は悲願の世界一のため(そして、ハーパーに世界一を経験させて、チーム残留を決意させるため)であり、シーズン残りの2ヶ月とプレーオフのための助っ人でしかない。

 来季はチームにいないダルビッシュにベイカー監督が無理をさせるケースは十分に考えられ、これまでの故障歴があるダルビッシュがベイカー監督に壊されるリスクは低くはない。

 ダルビッシュにとって心強いのはレンジャースで最初の4年間に指導を受けた投手コーチのマイク・マダックスの存在だ。

ナショナルズの若き主砲、ブライス・ハーパー(三尾圭撮影)
ナショナルズの若き主砲、ブライス・ハーパー(三尾圭撮影)

 

 ナショナルズでマダックス・コーチとの師弟コンビを復活させ、「優勝請負人」としてナショナルズに球団初の世界一に導くのが、ナショナルズ入りの最高のシナリオだ。

スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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