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AIIBの北京発のバスに乗ってはいけない!中国は不誠実な為替操作国

山田順作家、ジャーナリスト
「一帯一路」マップ(CCTVより)

■情報がまったくなかった日本政府

中国メディアが、AIIB創設メンバーを元にした「一帯一路」構想のマップを掲載している。これは中国政府の意向を受けたもので、このマップを見ると、中国が陸路でユーラシア大陸を中央から横断して欧州に至るルートと、海路で太平洋、インド洋を経て地中海に至るルートの双方を確保したかのように見える。

「一帯一路」構想というのは、中国が提唱する陸と海のシルクロードのことで、陸路のシルクロードが「一帯」、海路の海洋シルクロードが「一路」である。習近平政権は3月末から、「一帯一路構想が全面推進段階に入った」と、メディアを通した全面的なキャンペーンを展開してきた。

一方、日本では日本経済新聞が、4月15日に衝撃的な記事を掲載した。その記事によると、日本政府は最終段階まで、「G7からの参加国はない」と考えていたという。3月12日に、英国が参加表明するまで「英国が参加する確たる情報はない」と、外務省は安倍首相に伝えていたという。

また、3月9日、来日したドイツのメルケル首相に、安倍首相は、参加を見送るように要請していたという。安倍首相は、「3月末までに申請するようせかされるが、中国にはいろいろな条件をクリアしてもらわないといけない。一緒に頑張りましょう」と言い、それにメルケル首相は「そうですね」と応じたというのだ。しかし、それからわずか1週間後に、ドイツのショイブレ財務省は参加を表明した。

欧州国間では、すでに水面下で話はついていた模様で、日本だけがそれを知らなかった。要するに、日本には情報がまったくなく、「G7からの参加はありえない」という希望的観測しかなかったという。

■大手メディアはみな「参加すべきだ」

このようななかで、日本では「やはりAIIBに参加すべきだ」「安倍外交は失敗した」という論調が強くなっている。

なにしろ、現在までのAIIB参加表明国は57カ国(中国発表)。G7からはカナダも参加する見込みとなり、残ったのは日本とアメリカだけになったのだから、「バスに乗り遅れるな」論は、勢いづいている。これまでの新聞論調を見ると、みなこのトーンで書かれている。

朝日は「中国主導のAIIB参加で日米孤立」「アジアのリーダー的な地位を中国に奪われつつあることは明らかである」と書き、毎日は「外交の完全敗北」と書いてきた。日経ですら、「AIIBの否定や対立ではなく、むしろ積極的に関与し、関係国の立場から建設的に注文を出していく道があるはずだ」と社説で主張してきた。

しかし、本当にそんなことをしていいのだろうか?

■誰も中国経済の本当の姿を知らない

「バスに乗り遅れるな」論が見逃している大きな問題がある。それは、誰も中国経済の本当の姿を知らないことである。

中国は誰もが知るように共産党による強権政治国であり、その経済は計画経済である。したがって、発表されるGDPなどの各種統計数字は信用できない。これらは計画経済の

「目標数字」に過ぎないのだから、その裏づけはどこにも存在しない。

だから、これまで多くのメディアがこの点を指摘し、中国はじつは深刻な経済的な曲がり角に来ているという報道をしてきた。つまり、中国は自国経済をドレッシング(粉飾)しており、本当は深刻な過剰生産と過剰在庫に陥っている。国内では不良債権が積み上がっていると言ってきた。

そこでもしこの指摘が正しいとすれば、中国当局は、過剰生産と過剰在庫を解消する必要がある。ところが、不良債権でいっぱいの国内では、これを収容することができない。とすれば、中国はその収容先を国外に求めなければならなくなる。

AIIBはアジア諸国へのインフラ投資を目的としている。つまり、アジア諸国がその収容先ではないのか?

中国の経済統計が信用できないと書いてきたのは、主に欧米メディアだ。欧米メディアのなかでも「エコノミスト」などの英国メディアは、とくにこの点を強調してきた。中国の金融システムが途上国と変わらないこと、不良債権がどれくらいあるかわからないことを書いてきたのも、主に英国メディアだった。その英国が真っ先にAIIBに参加表明したのだから、欧州の政治家はお人好しなのかと思う。

■中国の外貨準備高の摩訶不思議

中国の摩訶不思議な経済統計は、外貨準備高に現れている。

中国当局の発表によると、2014年12月末の中国外貨準備高は3兆8400億ドルとなっている。ところが、アメリカのFRBが発表した2014年12月末の中国保有の米国債残高は1兆2443億ドルである(ちなみに日本は1兆2309億ドル)。とすると、その差、約2兆ドルを中国はいったいなんで持っているのだろうか?

中国の外貨準備高に占める米国債の割合は32.4%にすぎない。

日本の外貨準備高のほとんどはドルである。ドルが基軸通貨なのだから、これは当然だろう。しかし、中国は違うのだ。普通に考えて、中国は外貨準備の5割以上はドルで持っていなければおかしい。

いったい、中国はこれまで稼いできたドルをどこにやってしまったのだろうか?

■中国は不誠実な「為替操作国」である

中国の人民元はいまだにドルに半ペッグ状態にある。変動相場制に完全に移行していない。そのため、自国経済を守るために、為替操作を容易に行える。

主権国家が自国の経済的な利益を確保するため、為替操作を行うのは一種の権利であり、悪いことではない。日本もこれまで何度も行ってきた。ただ、2000年代になってからはほとんど行っていない。

日本が為替介入をしたのは、2011年10月31日から11月4日にかけてが最後である。このときは円高が進み、円が史上最高値を付けたために行われた。

アメリカ財務省は、年に2回、議会に「為替報告書」を提出している。最新の為替報告書によれば、アメリカは中国と韓国の為替操作を厳しく批判している。それは、中国と韓国が介入実績を公表しないことにある。外貨準備などから推定すると介入しているのは間違いないのに、それを公表しないことを非難している。

その結果、両国の通貨は、割安に評価されているとしている。

アメリカの警告を無視した場合、アメリカは「為替操作国」の認定を下し、場合によっては、懲罰的関税をかけることがある。

■北京発のバスに乗る必要はない

中国、韓国の為替操作により、円とウォンが不当に安くされてきたことで、いちばん被害を受けたのは日本である。日本のものづくり産業は大打撃を受け、国外に出る選択しかなくなってしまった。

現在は円安に戻ったとはいえ、まだ完全には立ち直れない状況になっている。

中国はG7に入りたくても入れない。ただ、G20に入って新興国の代表として振舞っている。G20では、2013年2月のモスクワでの会議により、原則として加盟国の為替介入は禁止された。

しかし、中国と韓国は、この原則違反をたびたび行ってきたのは確かだ。

AIIBは、資本金1000億ドルの約半分を中国が出資するという。本部は北京に置かれるという。それでもなお、欧州各国やそのほかの参加表明国は、中国マネーや中国市場とのつながりを強化すれば、自国の経済的繁栄を確保できると考えている。この思惑がはたして実を結ぶかどうかは、わからない。

銀行内における発言力は、出資金の大きさで決まる。とすれば、日本はAIIBへの参加、資金提供は絶対に止めるべきである。これには、日本の安全保障の問題もからんでいる。

日本が、北京発のバスに乗る必要はまったくない。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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