災害ストレス:ゴールデンウイークの被災地で気をつけたいこと:早くゴールするためにゆっくり走ろう
■熊本地震発生から3週間:ゴールデンウイークの被災地で
熊本地震発生から3週間がたちました。世間では、ゴールデンウイークの楽しげな話題です。けれども、熊本、大分では、また多くの人が避難所や自動車の中で生活しています。いつもの年なら、楽しい時期のはずなのに。
まだ再開できない学校も多くあります。地震後、子どもたちの様子が変わってしまっことに不安を感じている親たちも大勢います。
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ストレスや疲労がピークに達している人もいるでしょう。ゴールデンウイークの楽しい話題が、辛いと感じる人もいるでしょう(みんなの楽しい様子が辛いと感じる「ゴールデンウイークうつ」になる人もいるほどですから)。
■災害ストレスのプロセス
ストレス反応は、時期によって変化していきます。
第一段階:衝撃期(茫然自失期)
突然の大地震と生活の激変で心身にダメージを受けます。泣き崩れたり、神経症的な症状が出る人もたくさんいます。
第二段階:反動期(英雄期)
災害の大きなストレスに、私たちは負けません。もしろ、とても頑張ろうとします。危機的状況だからこそ、高揚感が高まり、大人でも子どもでも英雄的に頑張る人々も登場します。
今回は、子どもたちもとても頑張りました。
<がんばった被災地の子ども若者を守れ:熊本地震での心のケア>
第三段階:ハネムーン期
みんなの努力によって、素晴らしい状況ができます。「災害ユートピア」と呼ばれることもあります。みんなで助け合うことができます。それは、感動的な風景です。
この時期は、とても素晴らしい災害コミュニティーが作られたりもするのですが、その中で、実は少しずつストレスもたまっていきます。しかし、本人にはストレスがたまっている意識がありません。充実感さえあります。
またハネムーン期の中でも、強者から少しずつ避難所を出て行くことになります。
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第四代段階:混乱期
ユートピアが崩れ始めます。みんな同じ被災者だと思っていた被災者間にも、格差が見え始めます。高揚感や幸福感が下がっていきます。
第五段階:減衰期・幻滅期
心身の調子が乱れます。抑うつ感、絶望感に襲われ、希望が持てません。ボランティアも少なくなり、マスコミ報道も減っていき、見捨てられた、忘れられたと感じることもあります。無力感、倦怠感に襲われます。
第六段階:再建期
街も心も人生も再建していかなくてはなりません。けれども、ここから先は人ぞれぞれです。
もう一度希望を見つけて、前に進む人もいます。レジリエンス(心の復興力、精神的回復力)を発揮し、前以上に素晴らしい人生を歩み始める人もいます(PTG:心的外傷後成長)。
一方、心の後遺症のようなPTSD(心的外傷後障害)に陥ったり、家庭でも、学校や職場でも、不適応を起こす人もいます。何年たっても、「あの地震さえなかったら」と後ろばかり見ている人もいます。
これらのストレス反応プロセスが進むスピードは、状況によりまた人によって異なります。英雄期からハネムーン期が1週間ほども場合もありますし、2ヶ月ほどのこともあります。
減衰期が2ヶ月後あたりから始まることもあれば、数年後から始まる人もいます。
4月が終わり、ゴールデンウイークという人の動きがある時期(大勢の人が来て、そしていなくなる時期)であり、避難所の統廃合、集約が始まる時期です(熊本市避難所を集約へ)。
この変化がきっかけで、ストレス反応が大きく出る可能性もあります。
■災害ストレス症状
災害ストレスは、私たちの心と体を蝕みます。うつ病、PTSD、精神障害の発症、睡眠障害、アルコール依存、心筋梗塞、脳梗塞などが増えやすくなります。
災害ストレスの問題は、命の問題であり、人生の問題です。
大災害後の不安や無力感は、次第に低下しますが、抑うつ症状は4年5年と続くこともあります。さらに、人間関係をうまく作れない対人関係困難症は7年8年と続くという報告もあります。
地震とストレスに関する研究によると、震度6を超えるとストレスは非常に大きくなり、PTSDの可能性も高まります。余震が続く状況は、心には辛い状況です。
■災害ストレスを乗り越えるために
ストレス対処法の基本は、とてもシンプルです。
まずは、寝ること、食べること、休むことです。睡眠不足は、私たちの想像以上に心身にダメージを与えます。ぐっすり眠れる環境作りは、とても大切です。
食べる
ストレスから食べ過ぎ飲み過ぎになっては困りますが、バランスのとれた美味しい食事は、体だけではなく心をも強くします。
これからは、ボランティアにもイベント性が求められるでしょう。芸能人やスポーツ選手が来て、バーベキューパティーといった楽しく美味しい食事が、ストレスを打ち負かします。
おしゃべり
ストレスがたまってっても、他の人とおしゃべりできる人は、問題が大きくなりすぎることを防げます。苦しい時に、一人になりたいと感じる人もいます(私もそういうタイプなので共感できます)。しかし、とても苦しい時に一人ぼっちでいることは、やはり危険なことです。
仲間の存在は大切です。ボランティアさんとおしゃべりすることも良いことでしょう。
初対面の人とのスムーズなコミュニケーションが苦手な人もいます。誰かが間に入って、会話を作り出せると良いでしょう。私は、学生たちと一緒に陸前高田にボランティアに行った時、学生とボランティア依頼主のおじちゃんとの間に入って、会話を盛り上げました。
その方は、片付けが進むこと自体よりも、若者たちが大勢来ておしゃべりできることを楽しんでいるように思えました。
リラックス・休む
休むためには、リラックスが必要です。仕事の手は休めても、いつも緊張して、いつも心配していたのでは、ゆっくり休めません。今まで頑張ってきた人は、人のことも頼りにしましょう。
足湯のようなリラックスできる方法を見つけましょう。
現実的問題の解決
ストレスは心の問題ですが、心だけの問題ではありません。大災害の後で、次々襲ってくる現実的問題が、さらに心を苦しめています。具体的な問題解決が、心の癒しを進めます。
被災者を支援し、現実的問題解決のために頑張る様々な職業、立場の人が、災害ストレスを減らすために重要な人々です。
ストレス症状への考え方
子どもも大人も、地震後に今までとは違う状態になっている人がいます。それをとても嘆いたり、とても心配している人がいます。でも、こんなにすごいことが起きたのですから、心や体がダメージを受けるのは、当然のことです。異常な状況で異常な反応が出るのは、正常なことなのです。
その人が弱いわけでも、悪いわけでもありません。誰でもそうなります。そして、そのストレス反応は、いつまでもは続きません。必ず、もとの明るく元気な人に戻るはずです。
■復興へ:1日も早く復興するために
復興はまだまだ長丁場でしょう。有能な頑張り屋さんは、大地震のような危機的状況ではいつも以上に活躍します。それは素晴らしいことです。みんなにも頼りにされるでしょう。けれども、復興は短距離走ではなく、長距離走です。
マラソンのコーチが話していました。
「マラソン大会では、みんなやる気を出していて、高揚感に満ちている。そのために、最初から走りすぎてペースを乱すことが多い。だから、早くゴールするためには、ゆっくり走ることが大切だ。」
家や道路が直っても、人間が倒れては何にもなりません。あなたの命と体が、最も大切なのです。
せっかくのゴールデンウイーク。頑張ることも大切ですが、休むことも大切です。