「人手不足」で店舗を閉める外食企業が続出。人間と労働を尊重してこなかった証拠だ
●今朝の100円ニュース:「人手不足 企業が悲鳴」(朝日新聞)
朝6時前から夕方まで都内のマクドナルドで働き、夜は9時から深夜1時までフィリピンパブで接客――。フィリピン人のリサさん(仮名、32歳)の日常だ。早朝の仕事はさすがにキツイのだが、勤務するマクドナルドでは朝に店を開けられる「代わり」がいない。睡眠不足で一度だけ寝坊してしまい、「朝マック」が遅れてしまったと笑っている。
「フィリピンに帰りたい。でも、お父さんが病気なのでお金を送らないといけない。フィリピンには仕事がないし……」
リサさんは疲れでむくんだ顔で今日も働いている。
今朝の朝日新聞によると、外食や小売、建設、製造の現場で人手不足が広がっているらしい。「すき家」のゼンショーホールディングスは、今年2月~4月にかけて123店舗を休業した。「和民」も全店舗の約1割にあたる60店舗を閉鎖予定だ。
「ユニクロ」のファーストリテイリングがパート・アルバイトを「地域限定正社員」に転換するのも現場の人材確保が目的だ。ただし、実際に店舗で働くスタッフには響いていないと思う。正社員の大きなメリットの一つは「長く働ける」だが、ユニクロでは全国転勤が基本の幹部候補正社員ですら「3年で3割、10年で8割」が辞めていく。彼らの疲れ果てた後ろ姿を目の当たりにしている店舗スタッフが「正社員になりたい」と希望するとは考えにくい。
同社の柳井社長は今後も店舗のスクラップ&ビルドは推し進めていく考えを表明している。「地域限定正社員」が働いている地域のユニクロが数年以内にスクラップされる可能性は大いにある。当然、現場スタッフはそのことを肌で感じている。「ユニクロで長く働こう」と思っている人は少数派だろう。
ユニクロに限った話ではない。拡大志向の全国チェーン店の多くは、良くも悪くも「労働力の使い捨て」を前提に成長を遂げてきた。給料はマニュアル通りにきちんと支払う代わりに、無理ができる20代30代のうちだけ労働力を提供してもらう。先のことはお互いに知ったことではない。会社は従業員を愛さず、従業員も会社を愛さない。その場限りでお金と労働を交換するドライな関係だ。雇う側も雇われる側も気楽でいい、というメリットもある。
しかし、高学歴化が進んだ現代の日本人が好んで肉体労働に就くとは考えられない。前述の朝日新聞記事でも、「一般事務」の有効求人倍率は0.28倍で100人の希望者に28人分の仕事しかない。それに対して、飲食店で働く「接客・給仕」は2.64倍、「建設・土木・測量技術者」は3.97倍もある。人口の高齢化が進むと、各業界の現場で人手不足がさらに深刻化していく。冒頭のリサさんのように「働かざるを得ない」理由で来日する外国人に頼っていくしかないのだろうか。
地域で長く愛されている店にヒントはあると思う。家族経営のことも多いが、たいていは古株の雇われ店員もいる。何年通っても顔ぶれは変わらず、「スタッフ募集」の貼り紙を見かけることはめったにない。誰も辞めないから新規採用する必要がないのだ。仮に欠員が出たとしても、「働きたい」という人が口コミで見つかる。
グローバル化の時代にも、企業が従業員を本気で愛し、従業員も愛し返すことは可能だと思う。そのような企業では人手不足で店舗を閉じるような事態には陥っていない。今後、各企業が人間や労働をどのように捉えているのかが次第に明らかになってくるだろう。