なぜスタバの「アメリカン」はお湯で薄めただけなのに20円高いのか?
「スタバではグランデを買え!」というベストセラーがあります。これは、サイズのうち「ショート」「トール」「グランデ」(わかりやすくするためカタカナ表記とする)のうち、240mlの「ショート」より480mlの「グランデ」はサイズが2倍なのに、「ショート」が280円で「グランデ」は360円。量が100%アップしているのに、料金が30%未満のアップに留まっている。だから、お得感が最大になるので、このタイトル「グランデを買え」となったのです。
原材料のみならず、経済取引をするうえで発生する「取引コスト」に着目した話です。確かにコーヒーの量は2倍ですが、お店でコーヒーを作る手間(取引コスト)はサイズによってほぼ変化しないわけですから、料金のアップ幅を低く抑えられます。同じ量を飲むならグランデの選択はお得です。(お店側も取引コストを上昇させず、収益をアップさせることができ、お店側もお得です)
さて今回のテーマは「アメリカン」。
一般的に「アメリカン・コーヒー」とは、普通のドリップコーヒーよりも薄味のコーヒーを指します。浅く焙煎したコーヒー豆で入れたコーヒーのことですが、ドリップコーヒーにお湯を入れて薄めたものも「アメリカン・コーヒー」と呼ばれています。
したがって、このような知識だけでスターバックスの「アメリカン」を考えると、ドリップコーヒーよりも20円高くなるのはどうしてなのか? と思うのが普通でしょう。「取引コスト」はつまり【お湯を入れる手間】か? となるからです。
しかし調べてみると、意外とややこしい事実が判明します。スタバの「アメリカン」は一般的な「アメリカン・コーヒー」ではなく「カフェ・アメリカーノ」であり、「カフェ・アメリカーノ」は「アメリカン・コーヒー」とは別の飲み物であるという、少しばかり複雑な前提条件を知る必要があるからです。
「アメリカン・コーヒー」は普通のドリップコーヒーにお湯を入れて薄めたもので、「カフェ・アメリカーノ」はエスプレッソコーヒーをお湯で薄めたものだそうです。スタバで出している「アメリカン」は「アメリカーノ」であるため、ドリップコーヒーではなく、エスプレッソにお湯を入れています。
ドリップコーヒーの場合、一度に何杯分もの量を作って置いておきます。しかしエスプレッソの場合は、注文のたびに一杯ずつ作らなければなりません。この手間が「取引コスト」として発生し、すべてのサイズで「20円」ずつ高くなる、という原理なのでしょう。
私のように「アメリカン」と「アメリカーノ」は同じである、という認識があると、なぜ20円高いのか? ひょっとして、お湯が20円するのか? 自宅からお湯を持参して足したほうが安くて量の多い「アメリカン・コーヒー」を楽しめるじゃないか? などと勘違いします。しかし実際はそうではないのですね。
ただ、ここで疑問を抱くのが、スタバの「カフェ・アメリカーノ」の味に関してです。普通なら、苦みの薄いコーヒーを欲する人が「アメリカン」を頼むのでしょうが、この「カフェ・アメリカーノ」は、普通のドリップコーヒーよりも味が薄いのだろうか? ということ。ドリップコーヒーよりも苦いエスプレッソを薄めているわけですから、プラスマイナスゼロではないか、とコーヒーに関して素人である私は感じてしまうのです。スタバの公式サイトには「すっきりとしたのどごし」と書かれているので、もちろんドリップコーヒーとは違うテイストになっているのでしょうが、少なからず、スタバの「カフェ・アメリカーノ」は、ドリップコーヒーを単に薄味にした飲み物ではない、と認識する必要がありますね。
また、このことを考えていて、個人的に強く気になったのが飲み物の名称です。お客様を困惑させる名称になっていないか、気になるところ。「コーヒー」という名詞を前から修飾する形容詞「アメリカン」を、「カフェ」という名詞を後ろから修飾する「アメリカ―ノ」に変えたからといって、別の飲み物だと認識するのは、けっこう難しい。特に素人には、その違いはわからないだろうと思うのです。
「アメリカンフットボール」とは別のスポーツに「フットボールアメリカーノ」と名付けたら、アメフトの選手は抗議しないだろうか? 「アメリカザリガニ」とは別の生き物に「ザリガニアメリカーノ」と名付けたら、アメリカザリガニもしっくりこないではないだろうか? いろいろ考えたりしました。
スタバの「アメリカン」、いや「カフェ・アメリカ―ノ」が、普通のドリップコーヒーよりも高くなる「取引コスト」に関しては納得できます。しかし、商品は誤解されないネーミングをつけることが大切だと改めて思いました。今では日本人の多くがシアトル系コーヒーに接しており、私のように商品知識の乏しい人もスタバを利用するだろうからです。