無業の若者 就活止まり、メンタル悪化
新型コロナウィルス感染症が、どのようなひとたちに、どのような影響を与えたのか。認定NPO法人育て上げネットでは、就労支援を通じてつながった、現在仕事に就いていない若者にアンケート調査(N=69名)を行いました。
新型コロナウイルスが若年無業者のメンタルヘルスや就職活動に与えた影響についての調査結果を発表
結論からお伝えすると、若年無業者(学校等に在籍しておらず、仕事にも就いていない者)への影響は大きく二つみられました。ひとつはメンタルヘルスの悪化、そしてもうひとつが就職活動の停止です。
若年無業者の6割がメンタルヘルスの悪化を自覚
外出や他者との交流がなくなるなかで、働いていない若者たちも心身に大きな影響がありました。そのなかでもメンタルヘルスの悪化については、6割もの若者に自覚が見られました。
「働いていない自分と自宅で仕事をしている家族を見て比べて、自分はダメな人間だと自己肯定感がより低くなり、否定的な思考になってしまった」
私も、就労支援プログラムに参加している若者に話を聞きました。これまで日中は家族が学校や仕事に出ているため、気持ちが安らぐ自分だけの間がありました。
しかしながら、学校がなくなり、在宅ワークが広がるなか、24時間家族と同じ空間にいることになります。勉強や仕事をしている家族のかたわらで、居づらさと申し訳なさが本人を襲います。
ある若者は「邪魔をしたくないけれど、どこにも行くことができないのがつらかった」と話してくれました。自室を持っていても、トイレやリビングに行くことにも気をつかってしまい、物音を立てないように緊張し続けていたと言います。
「引きこもっていると内省的になりがちで、学生時代や会社でのことを思い出し、攻撃的な感情が湧き上がる」
出口のない思考のループ、どんどんネガティブになってしまうことは、無業の若者から比較的よく聞く話ですが、気晴らしのための外出もしづらく、図書館なども閉まりました。そのため、このコメントのようにネガティブな感情の発散がより難しくなったものと受け止められます。
家族の密度が高まり、それぞれがストレスを抱えるなかで「働いていない」自分自身を責めることと、家族の視線やプレッシャーを強く感じる環境が、若者のメンタルヘルスの悪化につながっています。
就職活動を止めた若者が3割に
これまで就労支援プログラムを受けていた若者は、プログラム参加頻度が下がりました。また、企業側の採用活動が止まり、先行きが不透明ななかで就職活動に何らかの影響を受けた若者が9割になりました。
「働くことに対して動き始めようとしたところでコロナによって予定の全てが白紙になった。働き始めることに対して多少は緊張や不安があったため、白紙になってホッとした気持ちになってしまった自分に嫌気がさした。」
一度、社会との距離が空き、時間が経つと、就職活動をスタートさせるのにも十分な準備が必要です。働きたいけれど働けない状態が続いた若者にとって、就職活動をスタートさせるまでにも小さなステップアップを刻んでいることがあります。
今回のコロナの影響で、就職への気持ちの張りがほどけてしまった若者もいます。先行きが不安定ななかで、改めて不安や緊張ともに就職活動をスタートさせるには、一定の時間が必要になるかもしれません。
自分ひとりで就職活動をされている若者と異なり、今回アンケートに協力いただいた若者は支援機関を活用しています。就職活動の多くは自分自身で行いますが、就活準備や就活過程で支援者などの伴走を選択した若者たちです。
育て上げネットでも、急いで個別相談や支援プログラムをオンライン化しました。しかしながら、対人支援は「対面」を前提に理論と実践が前提となっており、また、支援者もコロナ禍にあります。
既存プログラムの縮小・中止はもとより、職場体験やインターンシップの延期などが重なり、就職活動を止めたと回答する若者が3割となりました。
失業者が増え、休業中のひとも多くいます。これから先、若者に限らず「働きたくても働けない」状態となるひとたちは増える見込みを持っています。
そのなかで、少なからず本調査に協力してくれた若者と同じように就職活動の停滞やメンタルヘルスの悪化につながるひとたちが増加すると考えます。
現在、育て上げネットにも相談やプログラム参加の若者が非常に増えており、また、ご家族の相談も同様です。少しずつ支援機関、支援施設が活動を再開していますが、感染症対策との兼ね合いで相談枠は限られ、ワークショップやインターンシップなどの開催も難しい状況です。
その余波もあるのか、オンラインでの支援プログラムに期待を寄せる若者も増えています。これまでの対面相談は自宅から通える範囲であることや、交通費など移動コストをかけられるなど、若者側にも条件がありました。
オンラインでの相談やプログラム参加の環境がある若者からは、エリアを選ばず、コストも重ならないオンラインでの参加がたくさんあります。
しかしながら、彼ら、彼女らからは対面のかかわりもしたいという声があり、対面とオンラインを、若者自身が環境や状態によって選択できるようにしてほしいという期待が寄せられています。これに対して民間も、行政も早急に手を打つ必要があり、メンタルヘルスの悪化を自覚する若者がこれだけいる以上、緊急性は非常に高いものであると考えています。