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あなたの愛犬もちゃんと言葉を理解している! 最新の脳科学研究でわかった犬の言語理解力の秘密

いわさきはるかサイエンスライター
PhotoAC 犬と話す女性

犬を飼っていると「言葉を理解しているのでは?」と感じる場面に遭遇しますが、実はそれが科学的に実証されたのは最近のことです。これまでは一部の「天才犬」を除き、犬の言葉への反応は単なる訓練の結果で、言葉の意味を理解しているわけではないとされてきました。

ところが先日、ハンガリーの研究チームがその定説を覆す画期的な論文を発表しました。犬の脳波測定によって、言葉の意味を理解する能力が一般的な犬にも備わっている可能性が示されたのです。

今回は、この論文の概要をサイエンスライターの視点からわかりやすく解説します。

参考:Neural evidence for referential understanding of object words in dogs

人間と違う?犬が言葉を「理解」するということ

Pixabay 犬と人間の子どもでは言葉の「理解」が違う?
Pixabay 犬と人間の子どもでは言葉の「理解」が違う?

例えば犬が「お手」と言われて手を差し出す行動は反復訓練による音声と行動の結びつきであり、犬が「お手」という言葉そのものを理解しているわけではありません。言葉を「理解」するとは、言葉の意味を理解し、頭の中でその概念を表現できるようになることを指します。

たとえば私たち人間は、「ボール」という言葉を聞くと、実物が目の前になくてもボールを思い浮かべることができます。一方、犬が「ボール」と言われてボールを取ってきたとしても、それは言葉の意味を理解しているからではないと考えられてきました。

確かに、言葉を覚える才能に長けた一部の「天才犬」なら、人間のように言葉からイメージを思い描ける可能性を示す研究もありました。しかし、それはあくまで例外的な存在。一般的な犬の言葉への反応は、「ボールと言われたら、この丸いものを持っていくとご褒美がもらえる」といった経験則に基づく条件付けの結果だと考えられていたのです。

脳波で判明!言葉を聞いた犬は頭の中で対象物をイメージしていた

Pixabay 犬は「ボール」という言葉で頭にボールをイメージできる
Pixabay 犬は「ボール」という言葉で頭にボールをイメージできる

この研究では、18頭の飼い犬を対象に、言葉の理解力を調べる実験を行いました。実験では、飼い主が普段使っているおもちゃの名前を犬に聞かせ、その言葉に合う物を見せる場合と合わない物を見せる場合について、それぞれ脳波を測定しました。

例えば、飼い主が「ボール」と言った後、ボールを見せる場面と、別のおもちゃを見せる場面を比べるといった形です。もし犬が言葉を理解しているなら、「ボール」と聞いた時、頭の中でボールの映像を思い浮かべるでしょう。そして飼い主が見せたものが、頭の中のイメージと違っているものであった場合、脳波に変化が表れると考えられます。

実験の結果は予想通り、言葉と違うものを見せられたときに犬の脳波に大きな変化が現れていました。しかも、この変化は犬がよく知っている言葉ほど大きかったのです。

このことから犬が聞いた言葉から頭の中にイメージを思い描き、それと実際に見せられたものを比べていることが示されました。犬は人間と同じように言葉を理解することができたのです。

言葉を理解しているかどうかは犬の語彙力と無関係

Pixabay 言葉の理解は犬種や語彙力によらない
Pixabay 言葉の理解は犬種や語彙力によらない

また、実験にはボーダーコリーなど言葉を覚えるのが得意とされる犬種以外にもさまざまな犬種が参加しましたが、どの犬も同様に脳波の変化が観察されました

実験に使われた言葉も特別な訓練によって覚えたものではなく、犬たちが飼い主と過ごす中で自然に覚えたものです。犬たちの語彙数についても、事前に飼い主から聞き取りを行っていましたが、犬の語彙数によらず、犬たちは脳波の変化を示しました。

つまり、たくさん言葉を覚えた賢い犬でも、あまり言葉を覚えていない犬でも、同じように覚えた言葉を「理解」していたことがわかったのです。これはあらゆる犬が、経験則による条件付けではなく、人間と同じ形で言葉そのものを理解している可能性を示しています。

教えていない言葉でもちゃんと伝わっているのかも

犬は特別な訓練をしなくても、飼い主が日常的に使う言葉の意味を理解し、頭の中でイメージを思い浮かべているのではないでしょうか。

もしかすると、私たちが何気なく話している言葉の多くを、犬はちゃんと理解しているのかもしれません。「お散歩」「ごはん」「おもちゃ」といった犬にかける言葉はもちろん、「スマホ」や「鍵」など人間がよく使うものや、「明るい/暗い」「暑い/寒い」など環境を表す言葉も犬の頭の中ではそれぞれの具体的なイメージと結びついている可能性があります。

今回は犬が言語を理解しているかどうかということしかわかっていませんが、今後さらなる研究が進めば、犬の言語理解の仕組みや、どの程度複雑な言葉まで理解できるのかといったことが明らかになるでしょう。

とはいえ、現段階でも犬が「言葉がわかる存在」であることはほぼ間違いないと言えます。人間の幼児と同じようにたくさんの言葉を投げかけて、よりいっそうコミュニケーションを深めてみてはいかがでしょうか。

サイエンスライター

保護猫2匹と暮らす理系ライター。猫や犬などペットとして身近な動物の研究をわかりやすく発信します。動物に関する研究は日々進んでいます。最新研究を知っておくと、きっとペットとの生活がより豊かなものになるはず。読めば人も動物もWin-Winになるような記事を書いていきたいと思います。

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