どうなるW杯予選北朝鮮戦 直近で行った韓国が「平壌で受けた仕打ち」
森保ジャパンの2026年W杯予選の対戦国が決まった。
シリア&北朝鮮&ミャンマーとマカオの勝者。
勝敗はもちろんのこと、関心ポイントのひとつは「平壌でのアウェーゲームはどうなる?」という点ではないか。試合は来年の3月26日に予定されている。
まずは北朝鮮がこれを実施するのか。
北朝鮮は過去にもホームゲームを第3国開催としてきたことがある。さらに同国は新型コロナの防疫対策として、依然として中国との国境も封鎖している状況。第3国の入国を許可するのか。
7月26日、韓国統一省が北朝鮮の国境開放についてこんな見解を発表している。
「時間の問題。7月27日の朝鮮戦争休戦日に中国の代表団を招待し、コロナ関連の対策を緩和している。国際スポーツへの参加も再開する見通し」
次に、北朝鮮は外国チームを迎える際にどういった姿勢を示してくるのか。
日本代表は2011年11月に同地での22年ぶりの遠征を経験している。その際にも「平壌の空港での荷物チェックにかなり時間がかかった」といった話が聞こえてきた(逆に06年W杯予選時には北朝鮮代表監督に対して日本出国時に別部屋に呼んでの綿密なチェックが行われたという)。
いっぽう北朝鮮は、その時の当局の判断で外国への対応がかなり変わってくる国でもある。直近でサッカーのA代表平壌遠征を行った国のひとつが…実は韓国だ。
新型コロナのパンデミック前、2019年10月15日に行われたカタールW杯アジア2次予選H組の第4節で対戦。10月13日から17日の日程で平壌に向かった。ソン・フンミンも現地に行った。
この対戦の2か月前、組み分けが決まった際には韓国は大いに沸いたものだった。北朝鮮は2013年のウェイトリフティングのアジアカップを開催した際に、史上初の「北朝鮮での太極旗(韓国国旗)掲揚、国歌斉唱」を行っていた。それまで北側は、仕方なく国際大会の中継などで韓国国旗が映る際にはモザイク処理をしてきたという。韓国メディア「YTN」は当時の変化について「金正恩は権力継承から時間が経ち、国内の体制に自信を持った証では。海外に対しオープンな姿勢を見せるなか、韓国に対しても同様にあろうとしている」「ここから国際大会を誘致する意思の現れでは」と報じた。
さらに2017年4月7日には、サッカー女子代表が2018年女子アジアカップ兼2019年女子ワールドカップ予選のために平壌(集中開催)に遠征。選手23人、スタッフ50人、メディアも10人が同行した。この時は5万観衆の圧倒的応援のなか、相手のPK失敗もあり、”事実上の決勝戦”を1-1のドローで終えた。
しかし、2019年の秋、当時、ソウルでチームが遠征に向かう姿、戻ってきた後の姿を取材した時に見たものは…
相当キツい目に遭った様子だった。
協会スタッフとして現地同行したカメラマンに話を聞いても、多くを語らないほどだった。
ソン・フンミンは「まずケガをしないことを考えた」と言い、大韓サッカー協会スタッフは「現地ではホテルスタッフ含め、全員がタメ口で話してきた」と口にした。
「あのゲートから5万人が入場すると思っていたら」
試合前から北朝鮮側の厳しい仕打ちの前兆はあった。
試合5日前に「中国から空路での平壌入り」が決まった。当初韓国側は韓国側からは「38度線を超えて陸路での北朝鮮入り」のオファーをしていたが、北側からさっぱり返事がなかったのだ。
いっぽう「韓国サポーターが現地に応援に行けず」の方針が決定となったのは4日前。これも受け入れに関する返信がなかったため、韓国側が自ら決定したのだった。
◆10月14日(試合前日) 17時30分頃平壌着(北京発)。高麗ホテル入り。
選手たちは金日成競技場とホテルの往来のみで時間を過ごした。外出が許されたのは、ホテルのメインゲートまでだったからだ。
試合前の国歌斉唱、国旗掲揚などのセレモニーの予行練習は、試合前のスタジアム内のPCで行われたという。
「ホテルでも北側の(監視の)目があったので、我々も注意深く過ごすよりほかなかった。試合1日前の移動だったため、休みを取ることに集中した。睡眠を多くとった。個人的にはしっかり休めてよかったと思う」(ソン・フンミン/チームキャプテン)
いっぽう、韓国側の悩みは「現地からの連絡が遅い」という点だった。北からソウルへの連絡手段は「eメール」。しかしこれが「検閲を受けていた」ことが後に分かったという。
◆10月15日 午前9時30分から10時30分まで高麗ホテルで朝食。
◆午後1時 チームスタッフ9人が金日成競技場に先に到着。
◆1時20分 選手ミーティング。その後高麗ホテルで昼食。
◆3時30分 チームがスタジアムに出発。
「(ホテルから30分かけて移動し、16時に)金日成競技場に入って、『あのゲートが開いたら、5万人が入場してくるんだろうな』と思っていた。しかし、開かなかった。私も、選手も、パウロ・ベント監督もかなり驚いた。今回の試合はまるで戦争のようだった」(チェ・ヨンイル大韓サッカー協会副会長/今回の選手団長)
当日スタジアムにいた平壌在住スウェーデン大使館のTwitter投稿がその時の様子を伝えている。
◆17時頃 「観客が一人も入っていない」点が韓国でも報じられ始める。
ソン・フンミンは「無観客が分かった瞬間」の心境をこう口にしている。
「相手が韓国を”強いチーム”と認識していると感じた。北朝鮮が負けた場合の被害がかなり大きいだろうから。しかし選手としてはほとんど気を払わなかった。試合に集中しようと努力した」
◆17時30分 キックオフ。試合は0-0のスコアレスドローで終わった。
引き続きソン・フンミンの印象。
「勝ち点3を持ち帰れずに残念。100%の実力を発揮するのが難しい環境にあり、韓国自体の出来を残念に思う。いっぽうで負傷せずに帰ってきたことだけでも大きな収穫。ある程度のフィジカルコンタクトは理解できるが、北朝鮮の選手たちは他のチームよりもかなり敏感で、荒かった。北朝鮮と戦ったのは1試合だけなので相手の戦力がどうだったかと話すのは難しい。言い訳になるかもしれないが、負傷の心配が本当に大きかった。サッカーに集中するのではなく、ケガをしないよう最大限に注意するほどだった。ピッチのなかでかなりキツい言葉も投げかけられた。(内容は)思い出したくないくらいだ」(同)
また、当日スタジアムにいた平壌在住スウェーデン大使館のTwitter投稿により、試合中に両国選手が揉み合い、ソン・フンミンがこれを制そうとしている場面があったことが確認されている。キム・ジンス(全北/元アルビレックス新潟)はこう答えた。
「試合中、フィジカルコンタクトがあった際に北側がこれを深刻に受け止め、ファン・インボム(現オリンピアコス)が顔に一撃を食らった。相手に殴る意思はなかったようだが、そういった形になった。北の選手はずっとこちらに罵声をあびせていた。来年のソウルでの試合では、こちらもやり返して、強く出る」
当のファン・インボムは平壌遠征をこう締めくくった。
「ベンチからも激しい罵声、ののしりがこちらに浴びせられる状況だった。サッカーは結果で語らなければ。韓国でのホームゲーム(2020年6月)ではどういう姿を見せられるか、韓国の力がどれだけ上なのかを見せたい」
AFCとの「約束事」があったが…
この試合の前、AFCを仲介として南北が交わした約束事には「北朝鮮は、韓国を他国と同じ待遇で受け入れる」との項目があったという。
ちなみに当時の南北対決、翌年(2020年)6月にソウルでのリターンマッチが予定されていたが、結局行われなかった。北朝鮮は新型コロナのパンデミックのために予選への参加を放棄したのだった。
今回、日本と北朝鮮の対戦は以下の日程で行われる。
2024年3月21日(木)日本ホーム
3月26日(火)北朝鮮ホーム
どんな出来事が起きるだろうか。