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『フォースの覚醒』以上に、カタルシスがもたらされる『ローグ・ワン』

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』ヨーロッパプレミアより(写真:ロイター/アフロ)

今週末、12月16日に公開が始まる『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』。スタジオ側は、シリーズの「アナザーストーリー」であり、コアなファンでなくても楽しめる作品を目指して作ったわけだが、完成した作品は……

シリーズファン、そこまででもない人、その両者へのアピールを強く感じさせる仕上がりだった。

「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」の直前の時代が舞台となる本作。メインのキャラクターたちが新登場とはいえ、物語はスター・ウォーズ(SW)の世界の中で展開されるので、最高のカタルシスが味わえるのは、「エピソード4」にどうつながっていくか、という部分だった。これはもう、シリーズファンにとって歓喜のレベルでもある。要所で流れるジョン・ウィリアムズのフレーズ、ダース・ベイダーの登場シーン、おなじみの名セリフ……。その他にも、あちこちに仕掛けられたファンへのサービスが詰まっている。シリーズファンには大満足だと断言したい。

では、作品単体としてはどうか。シリーズに過剰な愛着がない観客(筆者もそうです)にとっては、どんな面が楽しめたのかをネタバレを避けつつ紹介したい。

戦争映画としてのカタルシス

SWに限らず、終盤にド派手なバトルが用意されるのは、アクション超大作のお約束。とくに近年は、その「長さ」に重点が置かれており、この『ローグ・ワン』も例外ではない。デス・スターの設計図を盗み出すためのクライマックスバトルは、いくつもの視点から重層的に描かれるのだが、映像の編集や全体のバランス感覚がすばらしく、異様なまでの臨場感を味わえる。SWであることを忘れさせ、純粋に戦争映画を観ているような感覚になるのだ。“ならず者”集団である主人公のチームが、それぞれ自己犠牲もいとわず、任務を完遂しようとする壮絶な決意と勇姿は、あの『七人の侍』にも重なってしまう。舞台となる惑星スカリフが南国の楽園のようで、ベトナム戦争のようにリアルな戦場と重なるのも、臨場感の要因かもしれない。

「ヒロイン」の時代は終わった

『フォースの覚醒』に続いて、主人公は女性。しかし今回のジンは、あくまでも設定が女性というだけで、性別を意識させるエピソードはほとんど描かれない。もはや主人公が男であるとか、女であるとかを考えさせる時代は終わったのだ、とも感じさせる。ある意味で、時代の先を行く感覚だ。ジンと、幼い頃に離ればなれになった父との愛、再会が描かれるが、娘というより、「一人の子供」として、ジンは父の意思を受け止めようとするの。その姿は素直にカッコいい。

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キャラクターの魅力

この『ローグ・ワン』で、多くの人に最もインパクトを与えるのは、2つのキャラクターだろう。まずはジンに同行する警備ロボットのK-2SO。かわいさという点では『フォースの覚醒』のBB-8の足元にも及ばないが、あのR2-D2とC-3POを一体化したような、要するにボケとツッコミを一人に担ったような言動が楽しい。周囲にツッコミを入れるのだが、それが絶妙だったり、ボケだったりと、妙に味わい深い。そしてもう一人は、ドニー・イェンが演じるチアルートだ。盲目の僧侶で棒術の達人。ほぼ座頭市である。やたらと彼が「フォース」に関する言葉を口にするのはSWファンへのアピールとして、過剰なまでの華麗な戦いっぷりは、他のキャラの存在をかすめてしまう。その運命とともに、強烈な印象を残すのは間違いない。

メカへの愛

これは監督のギャレス・エドワーズの嗜好かと思われるが、戦闘機出動時の一瞬の燃料補給の見せ方など、あちこちに「メカ愛」を感じさせる映像が盛り込まれている。この点も戦争アクション映画としての魅力につながっている。

そして物語としての感動は……

ジンと、デス・スターを設計した父との関係が、中盤までのドラマチックな要素だが、このあたりは特別に胸に迫るレベルではない。まぁ、よくあるパターン。やはり心を揺さぶるのは、チーム「ローグ・ワン」のメンバーが、任務をまっとうしようとする戦う者の本能、そして犠牲的な精神だ。これもよくあるパターンかもしれないが、本作では一人一人の「相乗効果」がもたらす感動が用意される。その大きさも尋常ではなく、涙を流す人も多いだろう。

『フォースの覚醒』との大きな違いは、本作がひとつの物語として完結する点だ。その意味で、単体としてのカタルシスは大きいのではないか

一時、撮り直しのニュースが出るなど、その完成度に不安も与えた『ローグ・ワン』だったが、最終的にはうまくまとめきった感がある。『フォースの覚醒』は、日本での興収が115億円だった。今回はアナザーストーリーということで、半分くらいの数字が指標とされていたと聞くが、この仕上がりの良さで、さらに高い目標に向かうかもしれない。

『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』

12月16日(金)全国ロードショー

配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン

(c) 2016 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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