NATO加盟国トルコ、F35の代わりにロシア戦闘機スホイ35を購入か。注目集まる米トルコ首脳会談
トランプ米大統領とトルコのエルドアン大統領が11月13日、ワシントンのホワイトハウスで会談する。トルコ軍によるクルド人攻撃や、アメリカによるF35戦闘機のトルコへの売却凍結問題で、両国の確執が深まるなか、両首脳間での厳しいやり取りが予想される。
両大統領が対面で会談するのは、トルコ軍が10月9日にシリア北部のクルド人勢力に対する攻撃を開始して以来、初めて。アメリカ議会では、「トルコによるクルド人攻撃は民族浄化(エスニック・クレンジング)だ」との批判が高まっている。
また、北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるトルコがロシアの地対空ミサイル防衛システム「S400」を購入したことに対し、トランプ政権幹部は強く反発し、トルコがこの購入を止めなければ経済制裁も辞さない構えを示している。
トランプ大統領は2019年7月、トルコが実際にS400の搬入を開始したことに対抗し、米ロッキード・マーチン製の最新鋭ステルス戦闘機F35のトルコへの売却を凍結する方針を示した。
これに対し、エルドアン大統領はF35の代わりに、ロシア製戦闘機の「スホイ35」と「スホイ57」を購入する可能性を再三にわたって示唆し、アメリカを強く牽制している。エルドアン政権に近いトルコのデイリー・サバ紙は10月、トルコがロシアと36機のスホイ35の調達で合意間近と報じた。イギリスの軍事週刊誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーも11月1日、トルコがF35の代わりにスホイ戦闘機を購入する方針だと報じた。
トランプ、エルドアン両大統領ともマッチョな強権的指導者で気が合う面もあるが、気が強いだけに互いに一歩も引かない面もある。万が一、今回の米トルコ首脳会談が決裂した場合、トルコのロシア傾注が強まり、トルコのNATO離脱危機が起きる可能性がある。
●米トルコ首脳会談の議題とは
今回の米トルコ首脳会談の議題として、アメリカのオブライエン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は11月10日のCBSの報道番組のインタビューで、トルコがロシアからの購入を決めた地対空ミサイルS400の問題が取り上げられることを明言した。
オブライエン大統領補佐官は、トルコのS400購入について「私たちはとても憤慨している」と述べ、「NATOにS400が入り込む隙間などない。ロシア製の重要な軍事兵器購入はNATOにとって禁物だ。これが、エルドアン大統領がワシントンに来た時にトランプ大統領がはっきりと彼に伝えるメッセージだ」と言い切った。
一方のエルドアン大統領も先週、「トランプ大統領との会談ではロシア製地対空ミサイル、アメリカ製ミサイルや戦闘機について話し合う」と述べ、トルコの軍事調達が重要な議題になることを明らかにしている。
●トルコによるS400購入決定の経緯
シリアやイラク、イランなどと国境を接し、防空体制に不安を抱えるトルコはもともと、オバマ政権時代の2009年にアメリカ製地対空ミサイルシステム「パトリオット」の購入を希望していた。しかし、トルコ側が自国での部品の一部生産といった技術移転を求めたことに対し、オバマ政権が難色を示したため、より好条件を提示したロシアのS400にトルコは飛び付いた。
トルコとロシアは2017年12月、4基のS400をトルコに供給する合意を締結した。契約金額は25億ドル(約2730億円)。
トランプ大統領は2019年7月、トルコのS400導入について責任はオバマ前大統領にあると主張。トルコ政府に対してS400の代わり、パトリオットを購入するよう改めて説得し続けている。
これに対し、エルドアン大統領は11月5日、「私たちがS400を購入した際、誰にも許可を求めなかった。なので、私たちが決定を下せば、スホイ35もそのように(誰にも許可を得ずに)購入する」と述べた。エルドアン大統領はロシア戦闘機を購入するかどうかはアメリカの対応次第であると主張し、今もアメリカにトルコへのF35売却を認めるよう求めている。
そもそも、トルコは、アメリカ、イギリス、イタリア、オランダ、カナダ、オーストラリア、ノルウェー、デンマークの8カ国とともに、国際共同開発パートナーとしてF35のシステム開発実証(SDD)の段階から参加し、降着装置やコックピットに搭載されるディスプレイなどの部品を供給してきた。トルコは本来、100機のF35の購入を予定していた。トルコにしてみれば、途中からF35の共同開発計画から排除され、売却も不可になるのはやり切れない思いがあるだろう。
一方、アメリカは、F35が当初予定通りにトルコに売却されたうえで、トルコがロシア製400Sを運用すれば、最新軍事機密の固まりのF35のレーダー信号などがロシアの手によって丸裸になってしまう事態を恐れている。
●トルコはNATOにとって戦略的要衝
とはいえ、アメリカもトルコをあまり追い詰めることができないジレンマを抱えている。トルコは1952年にNATOに加盟して以来、NATOにとっては黒海と地中海に面する戦略的要衝だ。また、シリアとイラクと国境を接し、対「イスラム国」軍事作戦でも重要な戦略拠点となってきた。さらに、トルコはNATO加盟国29カ国の中ではアメリカに次ぐ2番目に大きな軍隊を持つ軍事大国であり、NATO内ではアルバニアとともに珍しくイスラム協力機構正規加盟国でもある。
トルコ南部にはアメリカ軍のイスラム国掃討作戦の拠点ともなったインジルリク空軍基地や、トルコ西部のイズミルにはNATO連合陸軍司令部と連合航空部隊司令部といった重要拠点も存在する。
●勝者はプーチン露大統領か、エルドアン大統領か
アメリカとトルコの軋轢(あつれき)に乗じて一番の利益を上げられるのはロシアのプーチン大統領になるだろう。特に、インドが2018年にスホイ57の共同開発から撤退したため、トルコがその穴埋めの代役をしてくれるだけでも、ロシアにとって財政的な後押しとなる。また、アメリカがクルド人武装勢力への支援をやめ、シリア北部から撤退することで、ロシアがその空白を埋める形でシリアとトルコへの影響力を急激に拡大してきている。
その一方で、エルドアン大統領も勝者かもしれない。アメリカとロシアを両手でうまく手玉にとることで、最新鋭のミサイル防衛システムや戦闘機を低価格で調達しようとしている。
13日の米トルコ首脳会談は何らかの落しどころを見つけ、うまくまとまるのか。あるいは、喧嘩別れか。注目度の高いガチンコの首脳会談になりそうだ。