大谷翔平50-50の真の価値とは?上原浩治が前人未到の記録を分析
メジャーリーグ・ドジャースの大谷翔平選手がレギュラーシーズンで史上初となる50本塁打、50盗塁(50―50)を達成した。記念すべき現地時間の19日は、自身初の1試合6安打、10打点、3打席連続本塁打で、前人未到の記録を「51―51」へと伸ばした。昨年の右肘手術の影響で投打の二刀流を封印し、指名打者(DH)に専念した今季の本塁打と盗塁のインパクトは大きく、両リーグでのMVP獲得も確実視される。そんな大谷選手の本塁打と盗塁の「価値」を改めて考えたい。
大谷選手が昨季まで在籍したエンゼルスとは、チーム状況が全く違う。チームは試合終了時点でナ・リーグ西地区首位。2位のパドレスとは4差をつける。この日の勝利で、大谷選手にとっては、これまで無縁だったポストシーズン進出が決まった。チーム全体が同じベクトルで戦う中で、モチベーションの高さが良い結果へと向いているだろう。
50本塁打は圧倒的な数字である。かつての日本人野手のメジャーでのイメージを完全に覆す異次元のパワーが、本塁打量産の源だろう。多少のボール球もバットの軌道に乗せてスタンドへ運ぶ力があり、打ち損じても外野まで飛ばして安打にする。
攻略の糸口としては、インハイもしくはインローで内角を意識させて、外の変化球でフォームを崩したいが、死球と隣り合わせの内角に投げ込めるか。求められるのは、当てるのではなく、「当てないけれども、胸元や膝元のギリギリを狙える」という高い制球力だ。そんなコースへ投げる度胸もコントロールもない投手では、いまの大谷選手は抑えられないだろう。
一方、盗塁に関しては、メジャーの投手の牽制やクイックで投げる技術の低さを露呈している点も見逃してはならない。そこに牽制の回数などを制限するピッチクロックの導入も影響しているといえる。
メジャーの投手は牽制やクイックで投げることへの意識が低い。アメリカでは高校年代でこうした技術をまともに教えていない。プロになり、メジャーに昇格したからといって、練習をしてきていない選手が身につけることはできない。大谷選手の走塁技術に太刀打ちできないだろう。
ピッチクロックの影響に関しては、導入された昨季は、メジャー全体の盗塁数が前年比で大幅に増えており、今季はさらに上回りそうだ。
もちろん、すべてのメジャーリーガーが盗塁数を以前よりも積み重ねていけるわけではなく、大谷選手の走塁への意識、技術の高さが備わっていることが大前提の話になる。
50盗塁の価値が過去と同じとは言わないが、50本塁打と合わせて達成することは誰も想像できなかった記録だ。それぐらい大谷選手は異次元である。
史上初の「50―50」を達成したことで、MVPも確実といえるのではないだろうか。ライバルと目されていたメッツのフランシスコ・リンドーア内野手が腰の違和感で試合を欠場するなど、万全ではないことも影響しそうだ。
MVPは過去、DH専任の野手が獲得した例がないが、大谷選手の「50―50」は数字のインパクトに加え、セイバーメトリクスによる打撃、走塁、守備、投球を総合的に評価して貢献度を表す「WAR」でも、大谷選手は19日の試合を終え、報道によれば驚異の7.8まで浮上した。MVPの判断材料の一つとされる「WAR」でも、2位のリンドーア選手とは1.2の大差をつけた。
守備をどう評価するかという点は、確かに難しい問題ではある。守備の負担は当然ながら大きく、貢献度も評価すべきだ。この点はDHには不利となる。ただし、メッツは東地区2位のため、ドジャースがこのまま地区優勝を果たせば、大谷選手のチームへの貢献度という評価はさらに高まるはずだ。前人未到の記録の価値は、史上初のDH専任でのMVPによって証明されるだろう。
さらに言えば、今季の大谷選手は「50―50」ですら文字通りに通過点で、まだまだ数字を伸ばしている。大記録達成の翌日には「52ー52」へ上積み。これからも記録の更新はありそうだ。