Yahoo!ニュース

「うつは心の風邪」の本当の意味。決して甘えなんかじゃない。

竹内成彦心理カウンセラー(公認心理師)

こんにちは。
精神医学と性格心理学に詳しい
心理カウンセラー(公認心理師)の竹内成彦です。


「うつは心の風邪」という言葉が流行ったことがあります。

この言葉は、「うつは決して珍しい病気ではなく、誰もがかかる可能性のある、比較的ありふれた病気なんですよ」というメッセージが込められたものです。このメッセージは、世の中に伝わり、この言葉が流行った意義は充分にあったかと思います。

けれど、「うつは心の風邪」という言葉で誤解を生んだこともあります。
それは、うつは軽い病気なので、ほうっておけば治る、家で寝ていれば自然に治るという誤解も、世の中に伝わってしまったのではないか、ということです。

うつは、誰もがかかる可能性のある、珍しくない病気ではありますが、
実際、10人に1人が一生のうちに1回以上罹ってしまう病気ではありますが、
風邪とは比較にならないほど、生活への影響はデカいです。

風邪のように数日数週間で治ることは少なく、生活の質を落とさざる得ない、自ら命を落としかねない、恐ろしい病気でもあるのです。
実際、自殺者の6割以上は、うつ病だったのではないかとも言われています。
ということは、うつ病で亡くなる人が、毎年、日本だけで2万人近くいるという計算になります。この数字を聞くと、本当にゾッとします。

うつ病の難しさは、うつ病患者の抱える苦悩は、周囲の人の無理解にあります。
誰だって、やる気が出ない時がありますし、落ち込むことだってありますし、食欲がない時、眠れない時、身体がだるい時などがあるので、その自分の感覚でもって、うつ病の方の辛さを測ろうとしてしまうのです。それが間違いのもとです。

事実、なかなか良くならないうつ病の方に向かって、「気合いが大切だ」「しっかりしろ」「病気に逃げるな」「頑張れ」「怠けるな」などと、無神経な、的外れな言葉を投げかけてしまう人は、世の中に大勢いらっしゃいます。

うつ病の辛さは、なったことのない人には、到底理解できないかもしれません。その辛さは、圧倒的であり、暴力的であり、あらがうことさえ困難です。「過去に、いいことなんてひとつもなかった」と思えますし、未来に1ミリの希望を見出せず、「自分には生きている価値などひとつもない」と思えてしまいます。

「死にたい」などという生易しい言葉ではなく、「死ぬしかない」「死ぬ以外の選択はない」とまで追い詰められます。うつ病の方の自殺は、未遂には終わりません。彼らは、ためらうことなく、キッパリ死んでいきます。遺書を書く気力さえなく、誰かに相談するという考えも浮かばないことが少なくありません。

よく「死ぬ勇気があったら云々」等とおっしゃる方がいますが、そんな言葉は、うつ病という心の病になったことがない人だから言える言葉であり、的外れ以外のなにものでもありません。彼らは、死ぬ勇気があるから自殺するのではないのです。「これ以上、生きていけない」と思うから死んでいくのです。

私は、過去、うつ病になったことがあるのですが、今となっては、その苦しさを思い出すことさえ困難です。どんなに辛い映画や小説、どんなに哀しい映画や小説を読んでも、あの頃の絶望感に近付くことすら出来ません。
そのくらい、うつ病の方の抱える憂鬱感は圧倒的だということです。

でも、ご安心ください。うつ病は、治療によって回復する病気です。
すぐには治らないかもしれませんし、時間はかかるかもしれませんが、適切な治療をすれば、基本、良くなる病気です。

ですから、今、苦しみのどん底にいる人も、どうぞ希望を持って生きて欲しいと思います。「希望なんてとても持てない」と仰るかもしれませんが、持てなくてもいいので、一歩ずつ回復の道を歩んでいって欲しいと思います。

そして、うつ病患者の周囲にいる人には、うつ病の方の抱える苦悩は、私たち健常者が考える苦悩とは桁が違う、想像を遥かに超えているということを、どうぞ理解して欲しいと思います。それが、うつ病になったことがある私の、そして心理カウンセラーである私の祈りにも似た願いです。


今日も最後までお読みくださって、どうもありがとうございます。
心から感謝申し上げます。

      この記事を書いた人は、心理カウンセラー(公認心理師)の竹内成彦です。

心理カウンセラー(公認心理師)

1960年、愛知県名古屋市で生まれ育つ。1997年06月、地元愛知でプロのカウンセラーとして独立開業を果たす。カウンセリングルーム「心の相談室with」名古屋 の室長。臨床歴25年、臨床数15,000件を超える。講演・研修回数は800回、聴講者は10万人を超える。【上手に「自分の気持ち」を出す方法】など、電子書籍を含め、20数冊の本を出版している。カウンセリング講座などを開催し、カウンセラーを育てることにも精力を尽くしている。

竹内成彦の最近の記事