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「選挙はまるでクリスマスイブ」デンマーク

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
(写真:アフロ)

デンマークでは11月16日に地方選挙が開催される。北欧諸国の中でもデンマークの投票率は高い。2019年の国政選挙では投票率は84.6%。地方選挙においては、前回の2017年で70.8%という数字を叩き出している(参照)。地方選挙では1970年代から70%前後を維持している。

各地では候補者のポスターが貼られ、選挙の盛り上がりを見せている。一方で、新型コロナウイルスの感染者の増加により、コロナ規制が再導入され、予定されていた政党の討論イベントなどのキャンセルも相次ぐ。

「デンマーク人にとって、選挙はもちろんクリスマスイブのようなものです」とデンマークの政治メディア「Altinget/Mandag Morgen」Jakob Nielsen編集長の言葉に、私は思わず目を丸くした。

確かに北欧諸国の選挙期間中の雰囲気は「祭りのようだ」と私はよく例えるが、「クリスマスイブ」とまで言うか。あなたたちにとって、1年で1番大事な家族との時間ではないか。

「それはどういう意味でしょう?幸せで大事な祭りのような期間ということですか」と突っ込まずにはいられなかった。

Nielsen編集長は笑いながら説明した。

「選挙となると大きな注目を集めるので、私たちは選挙を愛しているのです。デンマークでは選挙は祭りのような時期だと思われているでしょうね」

投票は家族イベントだからネット投票をしたくない

「世界的にはネット投票が話題を集めていますが、デンマークでは投票をデジタル化したくないという風潮が強い。先日、ある自治体の議員はこう話していました。『社会的なイベントを残しておきたいから、ネット投票はしません。家族と一緒に投票に行くことで、子どもも投票に行くことを学ぶことができます』とね。『家族イベントのままにしておきたいから、ネット投票はしたくない』とはオールドファッションだとは思いますが、デンマークとはこういう国なのです」

南デンマーク大学の政治科学科のUlrik Kjaer教授は2つの理由を指摘した。

「地方議会には大きなお金があり、市民は政治家に言いたいことがあるので、投票所に足を運びます」

低い投票率の議論が市民の意識を変えた

「2009年の地方選挙で支持率が低下し(65.8%)、欧州で普通レベルとされる40~50%になると自治体はあせりました。2013年の次の地方選挙では、たくさんのキャンペーンを行い、投票に行くようにと若者の教育活動をしました。この低い投票率の議論が市民の意識を変え、投票に行く義務感を後押ししたのだと私は考えています。『地方選挙は国政選挙と同じくらい大事なものだ』と市民は繰り返し毎日聞かされたことに効果があったのです」

「2013年と2017年の地方選挙の報道の在り方も明らかに変わりました。メディアの報道レベルが格段に上がったのです。世界的に見ても稀でしょう」とKjaer教授は話す。

今年の地方選挙のポイントを聞いてみた。

「国政選挙だ」という思いで地方選挙で投票する

デンマークの国際プレスセンターの記者会見で。Nielsen編集長(左)とKjær教授(右)。私はノルウェーからオンラインで参加した。
デンマークの国際プレスセンターの記者会見で。Nielsen編集長(左)とKjær教授(右)。私はノルウェーからオンラインで参加した。

Kjaer教授は、デンマーク独自のものとして、「市民がまるで国政選挙かのように、地方選挙で投票しようとする」傾向が起きていると説明する。

「国政選挙だという思いで地方選挙で投票する市民が増えているために(10人中3人)、国会に座る党首や政党にとって緊張する選挙となるでしょう」

「通常は選挙期間中は福祉制度が議論されるのですが、今年は候補者も市民も環境・気候のテーマを話したがっている傾向があります。自治体は環境政策における鍵だという認識が浸透しているからです」

ミンク殺処分は選挙にどう影響するか?

コロナ禍の政府の対応で大量のミンクを殺処分した一件は、首相にとって悩みの種となっている。首相や関係者のやりとりが記された当時のメールが自動削除されていたことで、批判の声があがっている。デンマークのミンク騒動は他国にとっては「奇妙な事件」であり、国際メディアからも選挙にどう影響するか質問があがった。

「ミンク騒動は地方選挙とは関係ないが、首相には影響する」「首相はそもそも権力が強すぎます。党内でも物議となる政策を強行できるのが彼女。成功してきた彼女ですが、ミンク騒動は、首相としてのターニングポイントになるかもしれません」というのが Nielsen編集長の見方。

ミンク騒動で法廷に立つことはないだろうが、「毎日カオスなニュースが報道されていて、政治的な信頼を落とすだろう」と見られている。

首都で首相の政党はどれほど支持率を落とすか

今選挙では「首都コペンハーゲンで結果に注目!」と2人の専門家は語る。

首相のデンマーク社会民主党は、地方政策に力を入れてきた結果、首都での支持率が下落中。首都で首相の政党がどうなるかが今選挙の大きなドラマのひとつだが、支持率を落とす可能性は高い。

ミンク騒動なども含めて、フレデリクセン首相が首相になって以来の初めての大きな危機となり、彼女の手腕が初めて大きく批判されることになるだろうとNielsen編集長は語る。

どうやら今年の地方選挙は、首相にとっては嬉しいクリスマスプレゼントにはならなさそうだ。

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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