いつ止めても遅くない「禁煙成功」の極意とは
喫煙者の4割は「タバコを止めたい」と思っている。タバコに含まれるニコチンは強い依存性があり、身体的にも心理的にも喫煙習慣を止められなくなる。タバコという製品自体、そう作られているわけだが、いったいどうやったら禁煙できるのだろうか。※:記事の最後に禁煙支援機関などのwebリンク・リストがあります。
禁煙はいつ始めても効果がある
喫煙者によくいるのは「タバコが健康に悪いことは百も承知だ。放っておいてくれ」というタイプだ。一生このままタバコを吸い続けると言い張り、太く短く生きるなどといきがる。人間、誰しもいつか必ず死ぬが、死ぬまでタバコを吸い続けるという人もいるだろう。
だが、タバコを吸うと病気になるリスクが上がるのは事実だ。タバコが原因かどうかわからないが、病気になるなど健康を害したことがきっかけで禁煙する割合は高い(※1)。がんや心筋梗塞などの病気にかかった喫煙者の14〜50%が禁煙するという。
タバコ関連疾患によって寝たきりになるリスクが高くなるという点でいえば、自己責任でタバコを吸うと言い張る喫煙者が介護する家族や社会に迷惑をかけるリスクも高くなる。自分が病気になるだけだから放っておけ、という言い訳が通用しないのはわかるだろう。
自分の健康や寿命について根拠のない自信を持つ喫煙者は多いが、肺がんやCOPD(慢性閉塞性肺疾患)といった呼吸器系疾患、心血管疾患などの循環器系疾患といった喫煙に関連した病気にかかってしまってからでは遅い。
タバコはいつ止めても健康には良い効果が期待できる。もちろん、喫煙歴が短いうちに早めに止めたほうがいいのは言うまでもない。
英国のタバコを吸う男性医師を50年間にわたって追跡調査した研究では、35歳で禁煙すれば平均余命が約10年、40歳からで約9年、50歳からで約6年、60歳から禁煙しても約3年は寿命が伸びることがわかっている(※2)。
禁煙を始めた年齢と70歳の生存率の違い。タバコを吸い続けた場合よりもかなり長生きできることがわかる。Via:Richard Doll, et al., "Mortality in relation to smoking: 50 years' observations on male British doctors." the BMJ, 2004
米国における喫煙継続と禁煙、たばこを吸わない人の生存率の違い。30代で禁煙を始めれば、ほぼ喫煙経験のない人と同じになり、60代で禁煙を始めても大きな影響があることがわかる。Via:Prabhat Jha, et al., "21st-Century Hazards of Smoking and Benefits of Cessation in the United States." The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE, 2013
禁煙をサポートしてくれる機関
禁煙にチャレンジした人は多い。有名なのは作家のマーク・トウェイン(Mark Twain)で「Quitting smoking is easy. I’ve done it a thousand times.(禁煙は簡単だ。私などこれまで何千回もやってきた)」というセリフもある。
喫煙者が、咳や痰、息苦しさといった自覚症状から禁煙を決意することは多いが、その動機は多種多様だ。
子どもや孫が生まれたなどの環境変化、家族や周囲の受動喫煙への配慮や自分自身の健康、喫煙環境の悪化など、きっかけは多いはずだがなかなか難しいのが禁煙だ。タバコを止めたい人の多くは、マーク・トウェインのように何度かチャレンジしているだろう。
最初は自力で禁煙しようとするが失敗し、次に禁煙本のたぐいを読んでも失敗、禁煙外来へ行って治療してもしばらくして再喫煙してしまうという人も少なくない。禁煙したいと思ったら、どうすればいいのだろうか。
まずは情報収集だ。行政や医療機関など、無料で禁煙を支援する組織や施設がある。地域の自治体に電話をかけてみてもいいし、県の保健所、市町村といった自治体には健康相談の窓口がある場合が多く、禁煙サポートをしている組織もあるからだ。
記事の最後にリストがあるが、インターネットに接続できる環境にあれば「禁煙」というキーワードで検索してみよう。すると、禁煙外来や禁煙サポート薬局などの情報が出てくる。そうした情報発信元へ連絡し、自分なりの動機や環境などを相談をしてみたらいいだろう。
これらのサポート機関の中に禁煙外来という医療機関がある。近所の禁煙外来へ行って受診するのも有効な手段だろう。
禁煙治療や禁煙外来について教えてくれる地元の薬局や薬店も多い。厚生労働省は地域の薬局の機能を『健康サポート薬局』という一種の『かかりつけ薬局』にしようとしており、健康サポート薬局は禁煙支援もできることになっている。
禁煙外来での治療には、保険(公的医療保険)が適用されている。本数や期間といった喫煙の度合いや禁煙の意思表示など一定の条件があるが、3割負担で保険診療が可能で、処方される薬にもよるが8〜12週間で13,000円〜20,000円(保険適用の場合)ほどだ。
保険を使わない完全自己負担では6万円以上となるが、前回の治療の初回診察日から1年経たないと保険を使った禁煙治療はできない。再喫煙し、また禁煙外来を使う場合には要注意だ。
ただ、保険適用した費用を期間で割れば、1日約230円、ほぼタバコ半箱分となる。8〜12週間分のタバコ代に比べれば、保険で禁煙治療を受けたほうが安くなるだろう。
禁煙治療は適切なカウンセリングと
治療期間は、初診時から約2週間後、約4週間後、約8週間後、約12週間後など、3ヶ月間に5回ほどの通院が必要だ。初診時には患者の環境の説明や相談など、また治療方針などの説明があったりして時間がかかるが、2回目以降は体調チェックなどの診察、アドバイス、禁煙補助薬などの説明と治療へ入る。
禁煙外来の治療には、完全遠隔治療が可能となったので、初診時だけ対面治療すればその後の通院はオンラインによるものにできる可能性もあるが、ただ遠隔治療の場合は保険適用できない。
禁煙外来の治療では、喫煙者の患者と医師が副作用の懸念を考慮しつつ、最も効果がありそうな治療方法を一緒に行う。ニコチンパッチやニコチンガムといったニコチン治療になることもあるだろうし、チャンピックス(バレニクリン)といったニコチン代替薬を使うケースもあるだろう。カウンセリングとアドバイスだけにすることもなくはない。
これまでの研究では、治療薬とカウンセリングを併用すると禁煙が成功する割合が増えることがわかっている(※3)。
ニコチンパッチやニコチン代替薬だけでは禁煙できない危険性があり、喫煙者個々人に応じて適切なカウンセリングと継続的なアドバイスをしてくれる禁煙外来を探すのがコツだろう。これは口コミなどを活用したり、事前に電話で治療内容などを聞いてみるといい。
家族や友人、周囲の人の協力がなければ難しいのが禁煙だが、本人がタバコを止めたいと主体的に行動することも重要だ。加熱式タバコから再び紙巻きタバコへ戻ってしまう例も少なくない。禁煙外来や禁煙サポート機関を利用しながら、この際きっぱりとタバコとは縁を切ることをお勧めする。
※2018/07/03アクセス
※1:Dorothee Twardella, et al., "The diagnosis of a smoking-related disease is a prominent trigger for smoking cessation in a retrospective cohort study." Journal of Clinical Epidemiology, Vol.59, No.1, 82-89, 2006
※2-1:Richard Doll, et al., "Mortality in relation to smoking: 50 years' observations on male British doctors." the BMJ, Vol.328, 1519, 2004
※2-2:Prabhat Jha, et al., "21st-Century Hazards of Smoking and Benefits of Cessation in the United States." The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE, Vol.368, 341-350, DOI: 10.1056/NEJMsa1211128, 2013
※3:Gary E. Swan, et al., "Behavioral Counseling and Varenicline Treatment for Smoking Cessation." American Joural of Preventive Medicine, Vol.38(5), 482-490, 2010
※2018/07/05:14:27:資料「2-2」とグラフを追加した。