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ハリウッドのセクハラ騒動:ワインスタインの妻は許されるべきなのか

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
スカーレット・ヨハンソンはワインスタインの妻のブランドを着てMETガラに出席(写真:Shutterstock/アフロ)

 セクハラ男の妻を責めるのは間違っているのか、あるいは正当なことなのか。今週、スカーレット・ヨハンソンとアナ・ウィンターが、ハーベイ・ワインスタインの妻でファッションデザイナーのジョージナ・チャップマンを支持する姿勢を表明したことから、女性の間で激しい論議が起こっている。

 昨年10月、「New York Times」と「New Yorker」がワインスタインの長年にわたるセクハラとレイプを暴露して以来、チャップマンのブランドであるマルケッサも、コラボレーション予定だったパートナー会社から切られたり、ニューヨーク・コレクションを中止したりするなど、大きな痛手を受けていた。チャップマンは、夫の行動を知らなかったと主張。離婚も申請したものの、マルケッサがセレブ御用達ブランドになった背景にはワインスタインの強引すぎるプッシュがあったことも改めて注目を浴び(ザ・ワインスタイン・カンパニーの未来は絶望的。妻のブランドも危機に)、このアワードシーズンでは、見事に誰もがマルケッサのドレスを避けている。

 そんな中、アメリカ時間9日、ヨハンソンが、METガラという重要なイベントに、マルケッサを着て現れたのだ。究極のファッションの祭典であるこのイベントにこのブランドを選んだのは、まさに彼女の意志の表明である。米「Vogue」の編集長で、このイベントの主催者でもあるアナ・ウィンターは、イベント翌日のテレビ出演で、「ジョージナは優れたデザイナー。夫の行動のせいで彼女を責めるのは間違っている。スカーレットが、こんな公の場で、彼女によるあの美しいドレスを着てあげたのは、素敵な思いやりの行動だったと思う」と述べた。ウィンターはまた、「Vogue」最新号でも、チャップマンの独占インタビューを掲載。チャップマンのことを14年前から知っているという彼女は、「編集長からの手紙」のページで、昨年10月にワインスタインのニュースが流れた時の彼女の反応を描写し、「ジョージナは夫の行動について何も知らなかったと私は確信します。そのことで彼女を多少なりとも責めるのは、間違っています。彼女が受けるべきなのは、思いやりです。この号が出る前に、私はまた彼女に会いました。彼女はまだ混乱状態にありましたが、愛する子供たちのために最善を尽くし、独立した女性として人生を歩もうとしていました。彼女は、今、未来を見据えようとしているのです」と書いてもいる。

怒りの矛先を加害者の妻に向けるのは間違っている?

 これら一連のマルケッサ支援行動は、女性たちの間で賛否両論を呼んだ。ソーシャルメディアには「ジョージナはちゃんと知っていたわよ。だけどハーベイがマルケッサにお金を使ってくれれば、それで良かったの」「頭がある人なら、知らなかったはずがないでしょう?」といった、一般人からのコメントが飛び交っている。

 Thecut.comのステラ・バグビーは、ウィンター自身がワインスタインと親しかったことを挙げ、チャップマンを許せと言うことで、ウィンターは自分も許せと大衆に訴えているのだと指摘。ウィンターが、もしもそのパワーを使ってワインスタインの被害者を「Vogue」の表紙に出したり、彼女らに映画出演の話を取り付けたりしたならば、彼女の努力を認めてあげてもいいけれども、と皮肉も付け足した。

 しかし、ツイッターにはまた、「ジョージナ・チャプマンは夫(それも、もうすぐ元夫になる)ではないのよ。彼が何をやったかは関係ないじゃない」といった、ヨハンソンやウィンターに賛同する投稿も見られる。そして、意外にも、その中にはワインスタインの被害者の声も含まれているのだ。ワインスタインがマスターベーションをする様子を見せつけられたテレビレポーターのローレン・シヴァンは、「ジョージナ・チャップマンは夫の味方をせず、彼と別れたのよ。どうして彼女が彼の間違った行動のせいで責められなければならないの?」とツイート。さらに、「The Hollywood Reporter」の取材に対して、「怒りの矛先はアナ・ウィンターやほかの女性にではなく、張本人であるハーベイ・ワインスタインに向けられるべき」とも語った。

 一方で、やはり被害者であるコメディアンのサラ・アン・マッセは、「The Hollywood Reporter」に対し、「ジョージナにもアナにも怒っていない。でも、まだ被害者に対する補償がなされていないのに、もうこの記事を出すのは早すぎたと思う」とコメントしている。完全にどちら側につくこともできない微妙な気持ちは、多くの人に共通するものかもしれない。

 いずれにしても、ヨハンソンとウィンターという強力な味方をつけたことで、マルケッサの将来には希望が差した。とは言っても、女優はもはや、以前のように、ハリウッドで最もパワフルな男に「俺の妻のブランドを着なかったらお前の主演映画に宣伝費をかけてやらないぞ」と脅されることもなければ、社交辞令として本当に着たいブランドよりもそっちを優先しないとというプレッシャーを感じることもない。そんな中でこのブランドが生き残っていく上では、実力がなおさら重要だ。

 ソーシャルメディアには、「ハーベイの強引な推しがなければ、そもそもマルケッサは存在しないのよ」というコメントもある。実際、このブランドは、これまでずっとそう見られてきた。ワインスタインから解き放たれるのは、今、ブランドのために必要。だが、その後独り歩きし、数あるライバルの中から選んでもらえる何かが、このブランドにはあるのだろうか?

 チャップマンを支持するのが正しいのか、間違っているのかの答は、今の混乱した状態の中ですぐには出ないだろう。しかし、それを待つまでもなく、このブランドが生き残るに値するかどうかの答は、もっと単純な視点から、きっと出てくる。判決がそのどちらになるかは、今はまだわからない。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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