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「いろいろいたほうが面白い」と言うDMM亀山会長が始める「高卒者向けアカデミー」

湯浅誠社会活動家・東京大学特任教授
顔出しNGのDMM亀山敬司会長と(本文中の写真はすべてDMM提供)

会長の「不満」

DMM.comの亀山敬司取締役会長は、最近不満に思っていることがある。

若手社員たちがお利口さんすぎて、面白くない。「良い子すぎて、ガツガツ感がない」。

会社はアダルトビジネスでの安定的な収益を原資に、次々と新規事業を始めている。

FX(外国為替証拠金取引)、オンライン英会話、3Dプリンタ事業などで成功も収め、IT分野では5本の指に入る人気企業となった。一流と言われる大学からの就職希望者が増えた。

大学卒はもちろん優秀だ。利口でソツなく仕事をこなす。ただ失敗や恥をかくことをおそれる。会社内がそういう種類の人間にばかりになることに不安を感じる。

そこで考えついたのが、高卒者向け「DMMアカデミー」の創設。

亀山会長が目指すものは何なのか。ご本人に聞いた。

きっかけはトランプ

――高卒者向け「DMMアカデミー」は、アメリカ大統領選がきっかけと聞きましたが

トランプが勝ったのは、アメリカの格差の問題が大きいと思うんだ。多少の格差はいいんだ。でも大きすぎると、諦めるか、ヤケっぱちになるしかない。

今の日本も、他人事じゃない。このままだと貧乏人の子は貧乏になるしかない。「カネがなくても学べる仕組みがないかな」と思ったんだよね。

それにアメリカみたいに異質なものを排除していく傾向が強まるなら、今後は成長しないだろう。短期的には株価が上がるかもしれないけど、このまま内向きになっていく世の中が、良くなるとは到底思えない。

いろいろいたほうが面白い

――異質なものを排除しないという考えから?

異質なものが好きでね。業種だけでなく働く人も。学歴でも最近ではハーバードや東大などエリートが増えたけど、オレは専門学校中退で、幹部連中も高卒のたたき上げが多い

外国人もアメリカなど先進国だけじゃなく、中国系やアフリカ系の人たちを積極的に雇ってる。LGBTも増えてるし、気合いの体育会系もいれば、プログラミングばかりやっているオタクもいる。

いろんなキャラのヤツらが交じり合いながら、一緒に仕事をしている。「いろいろいたほうが面白い」というのが実感としてあるからね。ついでに、いろんな学校があってもいいよね。

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面白い才能のあるヤツはたくさんいるはず

――なぜ高卒を入学させたいのですか?

最近入った大学新卒に聞くと、奨学金の返済が大変だと言う。奨学金ってもらえるものだと思ってたから、びっくりした。「え、返すの?」って(笑)。

そんなにお金がかかるなら、大学進学を躊躇する高校生もいるだろう。

世の中には、家にお金がなくて大学進学が難しい人や、頭がよくても学校になじめない人もいるだろう。

でもそんな連中の中にだって、面白い才能のあるヤツはたくさんいるはずだと思ってね。

社会に出てからの教育次第

立派な学歴がなくても、ビジネスができるようになるやつはたくさんいる。うちではビデオレンタル店の高卒店員に「これからはITだ」とか言って勉強させてきた。

初めて「ネットビジネスの本読んで勉強しろ」って言った時には、ネットワークビジネスの本買ってきたりしてたけどね。「違う、それじゃない」って(笑)。でも、その後は実戦で力をつけていってGAMEやITを仕切る役員になってる。

だから、社会に出てからの教育次第で人はドンドン育つと俺は思っている。

何かハマるものが見つかればいい

――アカデミーということは、学校の授業みたいな?

いや、教科書はないよ。働きながら学んでもらう。働く中でしか学べないことも多いからね。だから給料も月額30万出すよ。地方からも来れるように、保証人とか困ることがあれば、それも手伝う。

――カリキュラムの中身は?

ウチの強みは社内に多様な業種があること。ECサイトやゲームアプリ、英会話や太陽光発電などいろんな仕事がある。それらの部署で、営業や経理やプログラミングなどをいろいろ回ってもらって、何かハマるものが見つかればいい

秋葉原にはものづくりスタートアップ支援拠点になっているDMM.make AKIBAというのがある。最新機材をそろえて、大企業含めてものづくりのハブになってる。そこから次のiPhoneやロボットが出てくればと思ってやっている。そこを活用してもらってもいい。

フィリピン支社くらいなら

――仕事だけですか?

社内での勉強会もいろいろやる、優秀な経営者や専門家も来るから、そこに参加してもらえばいい。ビジネスイベントなどにもボランティアで派遣するつもりだ。いろんな業界の人との、新しい出会いがあるからね。

途上国とかも見といたほうがいいから、フィリピン支社くらいなら行かせるかもしれない。アフリカはカネがかかるからちょっとキツいけど(笑)。

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――給料が出るなら、就職?

それもちょっと違うかな。ふつうに就職したら研修は1〜2ヶ月で、あとは決まった部署に配属されて徹底的にその部署の仕事を教え込まれる。

でもアカデミーではいろんな業種を経験してもらいたいから、2~3ヶ月くらいの単位で職場を変わってもらう予定。だから会社としては、作業ぐらい出来ても、ほとんど戦力にはならないと思う。それに、そもそも2年で卒業だしね。

給料を支払う以上は

――もう少し詳しく教えてもらえますか?

一般社団法人をつくるので、そこで雇って、そこからDMMグループの会社に出向させる形をとる。生徒とは1年更新の社員契約。

そうやって2年間働いて、認めたヤツにはアカデミーの卒業証書を出すけど、世間的には学歴にも資格にもならないからね。本当の意味で実力をつけないと意味がない。

そのあとは、DMMに就職してもいいし、他社に行ってもいいし、起業してもいい。もちろん、なるべくみんなに残って欲しいけど、DMMが採用するか、本人がそれを希望するかはそれぞれの自由だ。

ざっと計算して、卒業までの2年間で1人1000万円以上はかかるだろうから、最初は無理せず10~20名くらいから入れて、増やしてくつもり。

その意味では、就職というよりは学びの延長だけど、給料を支払う以上は学生気分では来てほしくない。無駄なんじゃないかと思うこともやってもらう。

大学とは違うチャンスを

――大胆ですね。

どこまで勉強して、何を身につけるかは本人次第。会社としては結果にコミットしない。学ぶヤツは学ぶし、ダラダラと済ますだけのヤツもいるかもしれない。夜にやる勉強会も残業じゃないので自由参加。強制はしない。

大学に行けなくても、大学とは違うチャンスを提供したい。そういう意味では、ある種の専門学校かな。

でも、何にハマって、何がやりたくなるかは人によって違うだろうから、最初から「専門」は決めないけどね。専門のない専門学校。「専門ない学校」だな(笑)

「投資です」って言っておきたい

――この事業は会長にとって社会貢献ですか、投資ですか?

う~ん…。それがなんともねえ。最初は社会貢献っぽい話から始まったんだけど、やっぱり「投資です」って言っておきたいかな。民間企業だからね。投資と思わないとやってられないところはある。

会社の立場的にもそうだし、入ってくる連中も投資と言われる方がいいんじゃないかな。結果として、卒業生がウチの会社に入って力を発揮したり、他社でもひっぱりだこになれば、いろいろ広がって、それが成功モデルになるんじゃないかな。

成功させるためにも、入学資格を途中で広くした。もともとは18才、高卒、貧乏、限定だったのを、18〜22才にした。高専卒とか大学中退もアリにね。貧乏も、定義が難しいのでナシにした。だから18〜22才までなら誰でもOK

10年くらいはかかるだろうけど「DMMアカデミーで学んできたヤツはヤバい」と言われるようになりたいね。有名大学出るよりも就職率よくなったりしてね(笑)。

おれは実業家だから、社会事業であってもカネが回る仕組みにしたい。同情だけでは続かないからね。

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愛情を受けて育った子を

――どんな人材を求めていますか?

学歴とか、家が金持ちか貧乏かとか、国籍とか人種とか、一切関係ない。

ただ…こう言うと世間から叩かれるかもしれないけど…。

――けど?

やっぱり、愛情を受けて育った子を入れたいね。

――…ご経験がないと言えない条件ですね。

オレの仕事は、露天商から始まって、飲み屋、雀荘、フルーツパーラー、旅行代理店、ビデオレンタル屋、アダルトビデオ…と、なんでもやってきた。だから、ウチには結構いろんなヤツがいた。いわゆるDQN系もいっぱいいたよ(笑)。

そんな中で、あくまでオレの経験だけど、幼い頃から愛情を受けられなかったヤツは、何度も人を裏切ることがあった。

何度も人を裏切る。店の金盗んだりして許しても、しばらく経つとまたやる。どこまで自分を許してくれるんだろうって試してくる。まぁ、親への絶対的愛情を求めてくる感じなんだ。

――大変でしたね。

クビにしたあとでも、たまに飲むヤツもいる。仕事は一緒にできないとしても、元は仲間だし気になるからさ。

中にはそいつにとってオレが一番の友達なんじゃないかと思えることもある。でも、それでもオレのことも最後までは信用してないっぽいんだよな。どこか心の奥の方で「こいつもそのうちいなくなる」と思ってる。

そこらへんってどうしても無力感を抱くところがあってね…。

それが大事なのはわかっているが…

――おっしゃっること、よくわかります。

その闇には、オレごときでは手が届かない。ましてや現場の社員が下手に触ればヤケドすることもある。

だから、親でも、ばあちゃんでもいいから、愛情をいっぱい受けているヤツがいいなあ。人が好きで、自分が好きなヤツ。

世間を恨み「見返してやりたい」じゃなく、自分を許して、心が安定しているヤツ。そういう人に、アカデミーで「生きる力」を身につけさせたい。

「生きる力」には当然「稼ぐ知恵」も入ってくるからね。世の中を怨んでいるヤツが「稼ぐ知恵」だけを身につけちゃうと、厄介なんだよ。

昔、ヒネくれたヤツに権力を与えたばっかりに、多くの人に迷惑をかけた痛い経験もあるからね。

その闇の深さに手をかけることが大事なのはわかってるけど、今は無理だな。一期生が良くないと、二期生三期生に与える影響も大きいしね。

やれるところからやる。それがおれの主義。だから今のところは無理なく、素直なヤツ限定でやってみるよ。

――でも、会長にはいつかその領域にも手をかけてほしいですね。

いつか、ね。

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尖ってて面白いヤツ、募集

――どうやって選考しますか?

難しいよね。家庭訪問でもしようかなって考えているところ。とりあえず最終面接はオレがやろうと思ってる。今は各部署に任せているんだけど、今回はさすがにオレがやるしかないかな、と。それでも判断は難しいだろうけどね。

今年はさすがに学校推薦は受けられないだろうけど、推薦は大歓迎。湯浅さんの周りに誰かいいヤツいない?尖ってて面白いヤツ、推薦して(笑)。それから、ついでに客員講師にもなってくれない?

やりながら一緒に考えよう

――わかりました(笑)。あたってみます。募集はいつからですか?

DMMアカデミーのホームページを開設して、今年から採る。時間がなかったから4月入学のギリギリまで募集する

たいていはもう就職や進学が決まっちゃってるだろうから、遅いのはわかってるけど、とにかくやってみようかなと。準備不足だけど、来年まで待ってられない。

一期生には、二期生以降にどんなプログラムをやればいいかを考えてもらおうと思ってるんだけど、それもとりあえず入ってもらわないことには始まらないし。

そんな感じでカリキュラムも明確じゃないから、やりながら一緒に考えようぜっていう感じ(笑)。だから、指示待ち人間には向かないよ。

社内には「ウチの部署に3ヶ月だけ研修に来られても…」という戸惑いも正直ある。金払ってまで手取り足取りやってられないよというのが現場の感触。

だから、何から何までおぜん立てということはできない。過剰な期待は困る。進路としてはリスクだらけよ。それでも「学ぶことは自分で勝手に考えます」っていう、そんな覚悟のある子に来て欲しいかな。

(その後…)

年明け、DMMアカデミーのサイトがオープンし、数日で100名を超える応募があったと言う。

私が今まで出会った貧困家庭の子で、もっとも優秀だった子は、絵が得意で文部科学大臣賞をとっていた。

しかし彼女は、基本的に大学には行けない。生活保護家庭だからだ。学費の高い美大など、夢のまた夢だった。

「貧乏でも、きちんと愛情を受けてきた子」と会長は言った。「自分を許して、心が安定している子」と。正直、シビアな条件だ。

それでも、それで芽が出る子は必ずいる。そうした子たちに、この情報が届くことを願う。

社会活動家・東京大学特任教授

1969年東京都生まれ。日本の貧困問題に携わる。1990年代よりホームレス支援等に従事し、2009年から足掛け3年間内閣府参与に就任。政策決定の現場に携わったことで、官民協働とともに、日本社会を前に進めるために民主主義の成熟が重要と痛感する。現在、東京大学先端科学技術研究センター特任教授の他、認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長など。著書に『つながり続ける こども食堂』(中央公論新社)、『子どもが増えた! 人口増・税収増の自治体経営』(泉房穂氏との共著、光文社新書)、『反貧困』(岩波新書、第8回大佛次郎論壇賞、第14回平和・協同ジャーナリスト基金賞受賞)など多数。

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