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総裁選も終わっていないのに、トランプとの首脳会談をお約束した安倍首相。いい加減見限ったらどうか。

山田順作家、ジャーナリスト
口止め料を払えば大丈夫だろうと考えたノーテンキすぎる思考力(写真:ロイター/アフロ)

 8月23日、フォックステレビの朝の情報番組『Fox and Friends』のインタビューで、「オレを弾劾してみろ、株価は暴落するぞ」と、国民を脅かしたトランプ大統領。

 顧問弁護士マイケル・コーエン、元選対本部長ポール・マナフォート、司法長官ジェフ・セッションズ、アメリカン・メディアCEOデービッド・ペッカーなど、次々に側近や友人に裏切られて、完全に窮地に陥っている。

 さんざん「フェイク」と呼んで「国民の敵」(the enemy of the people)とまで言ったため、もはや弁護してくれるメディアもない。身内の共和党も、重鎮だったジョン・マケイン議員が他界して、「もうトランプ降ろしをするしかないだろう」というムードになってきた。

 

 それにしても、トランプの以下の発言はない。

「(オレみたいに)グレートな仕事をしている人間を、どうやったら弾劾できるのか、オレにはわからん」(“I don't know how you can impeach somebody who’s done a great job.”)

「そうだな、もしオレが弾劾されるようなことがあったら、おそらく市場はクラッシュして、みんなものすごく貧乏になると思うよ」(“I tell you what, if I ever got impeached, I think the market would crash, I think everybody would be very poor.”)

 さらに、自分の頭を指差して、こう言い放った。

「このアタマがなかったら、あんたらは信じられないような数字が真逆になるのを見るよ」(“Because without this thinking, you would see numbers that you wouldn't believe in reverse.”)

 毎度のことだがトランプは、自分は“天才”(genius)で常にすごい仕事をしていると思い込んでいる。ウォール街では誰も信じていないのに、NYダウが上がったのも自分のおかげだと思い込んでいる。もはやつけるクスリがない。

 この発言の翌日、トランプはポンペオ国務長官の4回目の北朝鮮訪問を止めさせた。ところが、それは彼が「本当にオープンでとても立派」と評価した金正恩に、完全に舐められていることだと自覚していない。

 日本政府によると、こんなトランプ大統領と安倍首相は、8月22日21時30分過ぎから約40分間、電話会談を行ったという。しかし、これはどう見ても電話会談ではなく、トランプからの“電話連絡”だろう。

 その内容を記者団に聞かれた安倍首相は、「北朝鮮問題に関して話した」とだけ語り、外務省のHPにも、「概要は以下のとおりです」とあって、次の3点が掲載されている。

《1、両首脳は,米朝間での最新のやり取りを含め,北朝鮮の非核化をどのように達成するかについて今後の方針を綿密にすり合わせました。

2、拉致問題に関し,安倍総理から日本の取組を説明し,引き続き拉致問題の解決に向けて,北朝鮮に対し日米で協力して働きかけていくことで一致しましました。

3、安保理決議の完全履行に向けた具体的行動を北朝鮮から引き出すべく,引き続き,日米の首脳,外相及び国家安全保障局間等,様々なレベルで協力していくことで一致しました。》

 しかし、内容は北朝鮮問題だけではなかった。大事なことが抜け落ちていたのである。それを埋めるように、朝日など各紙は、ベタ記事で次のような報道した。

《米ホワイトハウスのサンダース報道官はその後の記者会見で、「(電話協議で)両首脳は、国連総会で会談するのを楽しみにしていると表明した」と述べた。サンダース氏によると、両首脳は電話協議で北朝鮮に対する強力な経済制裁を維持することを確認。ニューヨークで行われる日米首脳会談は北朝鮮問題のほか、通商問題が議題となる見通しだ。(ワシントン=園田耕司)》(朝日新聞8月23日)

 ここで大事な点は、「通商問題」であろう。トランプはいま、中間選挙の点数稼ぎで、世界相手に関税をふっかけ、貿易赤字を減らすための譲歩を引き出している。日本もそのターゲットで、理不尽すぎる自動車関税をかけられようとしている。つまり、国連総会後の日米首脳会談で、「シンゾーよ、なんらかの譲歩案を用意してきてくれ」というのが、トランプが電話をかけてきた最大の理由と推察できる。

 しかしもう日本は十分に譲歩している。あんなに米国の条件を飲んだTPPを袖にされ、イージスアショアなどの高額兵器の購入を約束し、鉄鋼アルミ関税もある程度受け入れさせられた。それなのに、まだなにかお土産を持っていかなければならないのだろうか。

 自民党の総裁選は9月20日にある。毎回、会場がガラガラの安倍首相の国連総会でのスピーチは9月25日に予定されている。つまり、安倍首相は総裁選で勝つのは鉄板として、トランプとの首脳会談を約束しているわけで、そこで、またトランプのご機嫌をとらなければいけないという“哀しい”役割を演じなければならない。

 そこで思うが、もういい加減、トランプの言うことを聞き流すだけにすべきだ。この大統領と約束することほど虚しいことはない。しかも、彼はもう“死に体”に近い。11月の中間選挙で民主党が勝ち、共和党もこれはまずいと弾劾賛成に回れば、米国史上、初めて弾劾される大統領になる可能性がある。

 そうなったら、日曜には必ず礼拝に出席し、ポップコーンが大好きで、ウサギを飼っているマイク・ペンス副大統領が大統領に昇格する。この元インディアナ州知事で親日家と付き合ったほうが、はるかにましで、日本の将来は開ける。

 

 ちなみに、どこのブックメーカーでも、トランプの弾劾オッズは上昇している。たとえば「パディー・パワー」(Paddy Power)では2対1から4対6にまで上昇し、ほとんどベットする意味はなくなった。

 よって日本政府もそろそろトランプを見捨てるべきだろう。トランプはディープステート(影の政府)と戦っている。ロシア疑惑は、ディープステート側の陰謀などと唱える「Q Anon」といっしょになって、この人物と付き合っていくと、日本国民はますます貧しくなるだけだ。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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