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旅先での”食”が変わる!? ミシュランスター鮨職人が認めた寿司ロボットが描く寿司の未来

岩佐史絵トラベルジャーナリスト
ドバイの高級店『TAPASAKE』のお寿司は南米出身シェフによる”日系”寿司

グローバル化する日本食代表選手・寿司

海外で和食が恋しくなったことはありませんか?

このところ円安の影響もあり海外で食べるラーメンやうどんが高いと嘆く人が多い中、寿司はちょっと様子が違うと感じます。

寿司、今やちょっとした都市なら言葉どおり「どこにでもある」んですよ。

世界的な和食人気は今に始まったことではありません。数十年も前からカリフォルニアロール(カニカマやアボカドが入った太巻き)やバンクーバーロール(カナダの特産・サーモンが入っているのがデフォ)といったご当地寿司があったし、韓国のキンパもまた、起源は定かではないものの日本人から見ればご当地寿司といってもよいでしょう。生の魚を食べる文化がない国ではにぎりよりも巻きずしが人気になるのもうなずけます。

日系人が多いハワイではスパムむすびやポケ丼などごはんモノメニューは定番。最近はにぎりもスーパーに並ぶようになり、ネタの種類も豊富だ。@ワイキキスーパーマーケットのお総菜コーナー
日系人が多いハワイではスパムむすびやポケ丼などごはんモノメニューは定番。最近はにぎりもスーパーに並ぶようになり、ネタの種類も豊富だ。@ワイキキスーパーマーケットのお総菜コーナー

が、筆者のいう「このところどこにでもある」お寿司、それはにぎり。

以前はわりといいお値段の日本食レストランに行かないと食べられないものでしたが、近年ではスーパーやキオスクのお惣菜コーナーのようなところにタコスなんかと並んでふつうににぎり寿司が売られているのを目にするようになりました。それも、わけのわからないネタではなくて、日本のスーパーなどで見かけるようなごく”ふつう”のお寿司パック。ご当地ではなく日本のスタイルのまま、海外のスーパーで定着しているわけです。味も特に許せないようなものではなく、また、値段もほかの惣菜の平均値。日本のスーパーで買うのと変わらないお寿司がどこでも気軽に食べられるようになりました。

なぜなんだろう……? たとえば、鮮魚の流通がより早くなったこと、インターネットの普及により鮮魚の生食という日本文化がそれほど珍しいものではなくなったことなどが挙げられますよね。

ドイツ・シュトゥットガルトのスーパーではこのビッグサイズ(左側)でも約6.5ユーロ(1000円ちょっと)。チキンカツなど丼もののほうが高いところをみると、具の量に応じて値段が決まっているもよう
ドイツ・シュトゥットガルトのスーパーではこのビッグサイズ(左側)でも約6.5ユーロ(1000円ちょっと)。チキンカツなど丼もののほうが高いところをみると、具の量に応じて値段が決まっているもよう

進化型寿司ロボットを職人さんが絶賛

そんな折、寿司ロボットメーカー鈴茂器工株式会社の、新製品『S-Cube』のお披露目会にお呼ばれしまして。なぜトラベルジャーナリストの筆者にお声が? と疑問をもちつつも、おもしろそうだったので参加してまいりました。

なにしろお披露目会の場所はなんと、銀座の超有名鮨店『はっこく』。店主の佐藤博之氏は先に勤めていた鮨店にて赤酢を用いた独自スタイルの鮨を編み出しミシュランスターを獲得した、すごいお人。いわばシャリの巨匠のお店でお寿司ロボットのお披露目だなんて、なんてチャレンジャー!? だって、寿司ロボットってお寿司のシャリ玉を自動でポンポン作ってくれるあのマシンですよ? 鮨は、ネタはもちろんのこと、シャリがいのち。箸で持ってもくずれず、でも舌の上ではぱらりとほどけ、ネタと混ざり合うその絶妙なにぎり具合が重要なはず。新作のS-Cubeだって、にぎり加減を調節できるすごいやつであるとはいえ、修行してにぎりを習得した職人さんからはプイッとされてしまうのでは、と思うじゃありませんか。

見た目はちょっとコピー機っぽい、コンパクトなS-Cube。シャリの重さを12~20グラムまで変えられる。1時間に1200個のシャリ玉を作ることができるそう。せっせと働いていてかわいい。ほしい
見た目はちょっとコピー機っぽい、コンパクトなS-Cube。シャリの重さを12~20グラムまで変えられる。1時間に1200個のシャリ玉を作ることができるそう。せっせと働いていてかわいい。ほしい

が、そのイメージは佐藤氏ご本人によって見事一蹴。「これ使わないなんてもったいないと思う。職人がちょっとにぎり直しをしてあげれば済むことだから」と、絶賛していました。シャリの重さを変えることができて、ふんわりとしたシャリができるのですが、佐藤氏がちょちょいとにぎり直して、厳選されたネタを載せていきます。ずらりと並んだお鮨はまさに佐藤氏による逸品。ネタがいいのは当然として、シャリも軽く、ほどよくほどけ思わずほおが緩みます。

にぎり直しのテクニックが必要ですので、やはりロボットのみですぐさまはっこくレベルのお鮨ができるとは思いませんが、これ、お鮨事情をがらりと変えるものだと思うのですよね。

同じ重さのシャリ玉が出てくる、というだけでも仕事がかなりスピードアップ!
同じ重さのシャリ玉が出てくる、というだけでも仕事がかなりスピードアップ!

もしやアナタが火付け人?

お話をうかがってみると、鈴茂器工の寿司ロボットは日本のスーパーマーケットや回転すしなどに導入されていて、1時間に4800個のシャリをがんがん製造できるものだそうです。海外にも輸出されているとのことで、ここ数年は好調に輸出量も増えているとのこと。

……おお、それで海外でにぎり寿司を見かけることが多くなったのか? 和食ブームや食のグローバル化に伴って、”ちゃんとした日本のお寿司”が広く浸透したものの、すし職人の数が足りなかったけれど、寿司ロボットの普及で一気に気軽にできるようになったのでは……? これが答えだったのかっ!?

「弊社以外にも寿司ロボットの会社はありますから」と鈴茂器工代表の鈴木 美奈子氏は謙遜していましたが、寿司ロボットの導入が海外の食に影響を与えたことは間違いないでしょう。ちなみに、巻きずしを作るロボットもあるそうで、あ、なるほどね? と思わせられます。

ドバイのスーパーにも! アジア・パシフィックエリアではないところまで浸透するということは、本当にグローバル化しているということ。よく見るとこれ、バレンタイン向けパーティパック。寿司はごちそう扱い
ドバイのスーパーにも! アジア・パシフィックエリアではないところまで浸透するということは、本当にグローバル化しているということ。よく見るとこれ、バレンタイン向けパーティパック。寿司はごちそう扱い

フィンランド・タンペレのスーパーでは自由に詰め合わせできるようになっていた。アボカドや野菜のみというのはベジタリアン向けか? サーモンはまちがいなくおいしいに違いない。
フィンランド・タンペレのスーパーでは自由に詰め合わせできるようになっていた。アボカドや野菜のみというのはベジタリアン向けか? サーモンはまちがいなくおいしいに違いない。

旅先での食事情が変わる!?

佐藤氏は言います。「お鮨がどんどん世界に広がって、気軽に食べられるようになるなら、マシンでもなんでもいいんじゃない?」。佐藤氏のもとには欧米から来たトレイニーも働いていて、佐藤氏ご自身が寿司のグローバル化に貢献しているといえるでしょう。

海外で食べる和食って、それほどおいしくないのに高い、ということがままありましたが、量産型ではないちょっと”いいシャリ玉”ができるS-Cubeがお目見えしたことで、お寿司レベルも底上げされるのでは、と期待できます。また、海外ではポーションが大きくていつも大量に食べ物を残すことになってしまっている人にとっても、食べたいだけ注文するスタイルの寿司店が増えればありがたいのでは。

日本で徹底的に修行したすし職人でなくてもシャリ玉が扱えるとなれば、日本人が思いつかないようなすごいご当地寿司が登場するかも? 以前、マレーシアでにぎり寿司の天ぷらを見たことがありますが、どんなにぶっ飛んでいてもおいしければいいかな、と思います(すし天ぷらは食べなかったけど)。

基本的に魚介類がメイン、しかもなにを載せてもOKの寿司は、宗教的、または信条的な食の制約がある人にも受け入れられやすいという側面があります。今はアルコールを用いずに発酵させるハラール(※イスラム教徒も安心して口にできる食品)認証されたお酢もありますし、ますます寿司がグローバル化することは想像に難くありません。

オーセンティックで質の良いお寿司を海外で気軽に、または、想像の斜め上を行く新しいご当地寿司に出合えるかも? そんな寿司の未来を思わせる寿司ロボット。海外での食事がまたちょっと楽しくなるかもしれません。

すし職人・佐藤博之氏は柔軟な考え方ですしの未来を見据える。鈴茂器工(代表・鈴木美奈子氏(右))の寿司ロボットにも大きな期待を寄せている
すし職人・佐藤博之氏は柔軟な考え方ですしの未来を見据える。鈴茂器工(代表・鈴木美奈子氏(右))の寿司ロボットにも大きな期待を寄せている

トラベルジャーナリスト

旅活歴は四半世紀以上のフリーランス トラベルジャーナリスト。3か月ごとに拠点を変えながらのノマドライフを夢見て、「この町に住んだなら」を妄想しつつ旅を続けます。その土地のリアルな文化を知ることで、旅はぐっと楽しくなるもの。じんわり心地よい旅先探訪中に出合ったいろいろをご紹介します。

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