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富良野は”第二のニセコ”なのか? 富良野初の外資系ホテルの挑戦

岩佐史絵トラベルジャーナリスト
秋の富良野も最高!土地の魅力を引き立てる、富良野初の外資系リゾートに惚れた!

「第二のニセコ」を探せ!?

国内外の旅行者に大人気の”勝ち組”デスティネーションといえば北海道。中でもニセコは戦略的に海外富裕層にターゲットを絞り込み、富裕層に向けた不動産投資物件の著しい開発、そして外国人向けに特化した施設の数々が観光客にもアツい視線を注がれていることで知られています。シーズンによってはまったく宿の予約が取れないというオーバーツーリズムに陥る人気ぶり。物価も地価もぐんぐん上がっているため、観光客にも不動産投資家にも「第二のニセコ」を求める声が高まってきています。

そこで注目されているのが、富良野。ファーム富田のラベンダー畑が有名で、一面に紫色のじゅうたんを敷き詰めたようなあの絶景は”北海道の景色”の代表格といっても過言ではないでしょう。ラベンダーで有名ではありますが、富良野にはスキー場もあり、その質の高さはアルペンワールドカップほかさまざまな国際大会が開催されていることからも明らか。国際基準の施設を備え、スキーリゾートとして国際的に知られた存在です。つまりグリーンシーズンとスノーシーズンと、1年のうち2度にわたってトップシーズンがある富良野は、確かにかなりのポテンシャルがあります。

秋になれば秋の花々が咲き乱れるファーム富田。ラベンダー畑のイメージもすばらしいけれど、これはこれでまた素敵。年を通じて旅行者が訪れる富良野のポテンシャルは大きな魅力
秋になれば秋の花々が咲き乱れるファーム富田。ラベンダー畑のイメージもすばらしいけれど、これはこれでまた素敵。年を通じて旅行者が訪れる富良野のポテンシャルは大きな魅力

外資系ホテル第一号は?

しかしながら、富良野のナンバーワン産業は依然として農業。人口の多くを農家が占めていることもあり、自然景観を残し富良野らしさを失わずにいます。

そんな富良野に昨年12月に初めての外資系ホテル『Nozo Hotel』が誕生。スキーリフトまで歩いて3分程度という好立地にある、かつてあった別のホテルをリノベーションしてできたこぢんまりとしたホテルです。ノゾホテル? 知らないなぁという人が多いでしょうけれど、それもそのはず。マレーシア資本の同ホテル、なんとこの富良野が第一号の展開なのだそう。この先、ほかの土地にチェーン展開する予定ではあるものの、「Nozo Hotel」と名を冠したホテルは今のところ世界にこの1軒のみなのです。

いよいよ外資系ホテルが参入してきたことにより、富良野は「第二のニセコ」への道を歩み始めるのか? そのような視線を浴びつつ2年目を迎えたNozo Hotel。実際に泊まってみると――。

2021年に閉館した『ニュー富良野ホテル』の建物をフルリノベーション。スキー場まで徒歩3分という好立地に、新たにマレーシア資本の『Nozo Hotel』が2023年12月にオープンした。
2021年に閉館した『ニュー富良野ホテル』の建物をフルリノベーション。スキー場まで徒歩3分という好立地に、新たにマレーシア資本の『Nozo Hotel』が2023年12月にオープンした。

シンプルでモダンな4つ星ホテル

まず、Nozo Hotelはラグジュアリーホテルではなく、わりとシンプルでカジュアル。全78室のブティックホテルで、部屋タイプは8つのカテゴリーがあり、ひとり旅からファミリーまで幅広い層に対応可能。レストランにバーラウンジ、宴会場やキッズルーム、ジムや大浴場などを備え、ホテル内だけでも充実した時間が過ごせそう。こういうラグジュアリーホテルではない、でもアッパースケールなホテルって近年のブームかも。ハードを飾り立てるよりも隅々まで行き届いた細かなサービスを提供することで居心地のよさを追求しています。

カップルやソロ旅行者に人気のスーペリアクイーンルーム。晴れた日には十勝岳を一望するそう。館内を歩き回ってOKの部屋着(パジャマ)と外履き用のスリッパがあり、こういうところは日本っぽいサービス。
カップルやソロ旅行者に人気のスーペリアクイーンルーム。晴れた日には十勝岳を一望するそう。館内を歩き回ってOKの部屋着(パジャマ)と外履き用のスリッパがあり、こういうところは日本っぽいサービス。

客室のバスルームにはバスタブなし(ジュニアスイートのみ、バスタブあり)だが、オーバーヘッドレインシャワーが。外国のラグジュアリーホテルっぽいなと思ったら、ボディタオルもあってまたも日本らしさに歓喜。
客室のバスルームにはバスタブなし(ジュニアスイートのみ、バスタブあり)だが、オーバーヘッドレインシャワーが。外国のラグジュアリーホテルっぽいなと思ったら、ボディタオルもあってまたも日本らしさに歓喜。

地元のクラフトビールなども扱うバー、暖炉を囲んでのんびりできるラウンジなど、ホテル内で豊かに過ごせる。客室はシンプルでもパブリックスペースが充実しているのは欧米のホテルにも近年よく見られるスタイル。
地元のクラフトビールなども扱うバー、暖炉を囲んでのんびりできるラウンジなど、ホテル内で豊かに過ごせる。客室はシンプルでもパブリックスペースが充実しているのは欧米のホテルにも近年よく見られるスタイル。

持続可能性を追求し、現在室内の掃除は2日に1度となっている。必要なものはレセプション横の棚から自由に持って行く。極力ペーパーレス、プラスチックを使用せず、水も各階のサーバーからくむことができる。
持続可能性を追求し、現在室内の掃除は2日に1度となっている。必要なものはレセプション横の棚から自由に持って行く。極力ペーパーレス、プラスチックを使用せず、水も各階のサーバーからくむことができる。

各部屋に1つずつスキーロッカーがある。スキーから歩いて帰ってきて、ロッカーに荷物を入れ、その足で同じフロアにある大浴場へ……なんて最高すぎるスキー休暇を妄想。大浴場には露天風呂とサウナも。最高か!
各部屋に1つずつスキーロッカーがある。スキーから歩いて帰ってきて、ロッカーに荷物を入れ、その足で同じフロアにある大浴場へ……なんて最高すぎるスキー休暇を妄想。大浴場には露天風呂とサウナも。最高か!

小さめながらジムも完備。富良野でジムを擁する宿泊施設はこのNozo Hotelだけとのこと。コインランドリーもあり、洗濯ができるのでがんがん汗をかこう。
小さめながらジムも完備。富良野でジムを擁する宿泊施設はこのNozo Hotelだけとのこと。コインランドリーもあり、洗濯ができるのでがんがん汗をかこう。

土地の魅力を地域とともに発信

……と、外国リゾートっぽさと日本らしいサービスを併せ持ったホテルという印象のNozo Hotel。スタッフもミックスカルチャーで、日本語はもちろん英語や中国語、インドネシア語などさまざまな言語で対応可能な態勢を整えています。オープンしたての昨年の冬は95%が外国からのゲストだったといいますから、まぁそこは当然でしょう。

ただ、Nozo Hotelのちょっと違うところは、地域一体となって富良野の魅力をゲストに伝えようとしている点です。前述したとおり、富良野の住民の多くは農家で、北海道でも有数の農業地帯でもあります。そんな富良野らしさをホテル内で体験できるよう、ファームトゥテーブルのダイニングを備え、朝食とディナータイムに地産の食材をふんだんに味わうことができるのです。

なにがすごいって、これ本当に「Farm to table(農家からテーブルへ)」で、ホテル開業時に経営陣はじめスタッフが自ら近隣の農家を訪ね、ホテルへの食材提供をお願いしてまわったということ。地元の農家から直接、農作物を買い取りしていて、まさに採れたてを提供できる利点だけでなく、農家を支援することもできるのが、大きなポイントです。

朝食ビュッフェも地元づくし。オムレツのソースまで地元野菜がごろごろ。ビーツのスムージー(右上)、冷製コーンスープ、ゆめぴりかのごはんにホテルから車で10分ほどの農家からの採れたて野菜サラダ!
朝食ビュッフェも地元づくし。オムレツのソースまで地元野菜がごろごろ。ビーツのスムージー(右上)、冷製コーンスープ、ゆめぴりかのごはんにホテルから車で10分ほどの農家からの採れたて野菜サラダ!

ディナービュッフェはお寿司または富良野牛のステーキをチョイスできるスタイル。こちらは注文式で、できたてをいただける。それ以外は季節の野菜や果物を狙い撃ちで。筆者が訪れた8月末にはまだ富良野メロンが!
ディナービュッフェはお寿司または富良野牛のステーキをチョイスできるスタイル。こちらは注文式で、できたてをいただける。それ以外は季節の野菜や果物を狙い撃ちで。筆者が訪れた8月末にはまだ富良野メロンが!

結論:富良野は富良野!

それだけでなく、Nozo Hotelでは周辺でのアクティビティを望むゲストに、積極的に地元でできる農業体験を紹介しています。今回筆者が体験したのは、ウレシパ・フラノが提供する富良野の一次産業体験。スノーシーズンにも地元農家さんが行っている農業アクティビティを体験できるというのがおもしろいところで、地元のサプライヤーさんたちの協力を得ることで単なる観光農園訪問ではない、独特な体験を提供しています。

ミツバチのコンディションに合わせて全国を移動する養蜂園、瀬尾養蜂園にお邪魔。瀬尾氏によるトークは、軽妙ながら富良野の農作物への蜂たちの貢献や人間が得ている恵みがじんと胸にしみわたる深さ。
ミツバチのコンディションに合わせて全国を移動する養蜂園、瀬尾養蜂園にお邪魔。瀬尾氏によるトークは、軽妙ながら富良野の農作物への蜂たちの貢献や人間が得ている恵みがじんと胸にしみわたる深さ。

はちみつの食べ比べ。味わいの違いに驚かされる。これだけテイストの違うはちみつを採取できるのも、花々や農家が多い富良野だからこそ。ここにしかない、ユニークな体験なのでマストトライ! ※5月~9月ごろまで
はちみつの食べ比べ。味わいの違いに驚かされる。これだけテイストの違うはちみつを採取できるのも、花々や農家が多い富良野だからこそ。ここにしかない、ユニークな体験なのでマストトライ! ※5月~9月ごろまで

8月末のこのときはウレシパさんのビニールハウスでいろいろな種類の甘いトマトの収穫体験。冬場には雪の中から冬越えキャベツを探して収穫するアクティビティもあるそうで、年を通じてその季節の農業体験が可能。
8月末のこのときはウレシパさんのビニールハウスでいろいろな種類の甘いトマトの収穫体験。冬場には雪の中から冬越えキャベツを探して収穫するアクティビティもあるそうで、年を通じてその季節の農業体験が可能。

こうした体験を経て感じる富良野は、まさにDown to earth(地に足がついている)。これが富良野。というその姿をホテルからも発信していて、訪れるゲストにより楽しい体験と、土地への理解を深めるきっかけを提供しています。

地元のかたから、「”ニセコがいっぱいだから富良野に来た”という観光客も多い」というお話をうかがいましたが、広大な農地、そこで働く人々と触れ合い、採れた作物をいただくことによって、富良野はニセコの代わりなどではないと実感することができました。

自然に囲まれ、シンプルでのんびりしているのが富良野。「そんな富良野らしさを、ゆったりリラックスして楽しんでほしい」という”望み”をもってつけられたのがNozo Hotelの名前の由来だと、同ホテルの運営を担当するNJWインターナショナルCEO ナタリア・ウィルソン氏。旅行業界が常に直面する、地元と旅行者との隔たりを埋める。そんなミッションをも念頭に置いた事業展開に、ぐんと好感度が上がります。

富良野に参入した外資系ホテル第一号は、土地への敬意と愛情をもって応援するホテルだったというのにちょっとした安心感。「第二のニセコ」などではなく、富良野は富良野です! Nozo Hotelの提供するアクティビティを通して、そんな強いメッセージを受け取ったような気がします。

ナタリア・ウィルソン氏。富良野ならではの魅力を伝えようという明確なビジョンをもって運営に当たっている。開業時には自らも農家に足を運び、ホテルの望みを伝え協働して富良野を盛り立てる下地を築いた。
ナタリア・ウィルソン氏。富良野ならではの魅力を伝えようという明確なビジョンをもって運営に当たっている。開業時には自らも農家に足を運び、ホテルの望みを伝え協働して富良野を盛り立てる下地を築いた。

ノゾホテル

北海道富良野市北の峰町14-38

info@nozohotel.com

+81(0)167-23-1088

※11月までキャンペーン料金あり(素泊まり1人税サ込14,850円~)

トラベルジャーナリスト

旅活歴は四半世紀以上のフリーランス トラベルジャーナリスト。3か月ごとに拠点を変えながらのノマドライフを夢見て、「この町に住んだなら」を妄想しつつ旅を続けます。その土地のリアルな文化を知ることで、旅はぐっと楽しくなるもの。じんわり心地よい旅先探訪中に出合ったいろいろをご紹介します。

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