Yahoo!ニュース

チーム・チャイナ。侍ジャパンを知る男たち【WBC】

阿佐智ベースボールジャーナリスト
WBC中国代表

 幕まであと1週間を切ったWBC。プールAで侍ジャパンと対戦する各国の内、大阪でエキシビションマッチを行う韓国以外の中国、オーストラリア、チェコの3カ国の代表チームは、各キャンプ地から先日まで侍ジャパンが調整を行っていた宮崎に集合。アマチュアチームと最後の練習試合を行い決戦に備える。

 侍ジャパンの初戦の相手は中国。これまでWBCでは4度対戦しているが、すべて日本が勝っている。

WBCの他、2003年に国際大会にプロが本格参入して以降、その年秋に開催されたアテネ五輪の予選を兼ねたアジア選手権、2008年北京五輪でも日本の「ドリームチーム」は中国代表と相まみえており、これらでも日本は勝利している。スポーツ大国の中国だが、こと野球に関しては日本は大きな壁というべき存在である。

 今回のチーム・チャイナにとっても侍ジャパンの背中はまだまだ遠いものだろう。しかし、相手チーム、取材陣、スタンドのファン誰もが、彼らのひたむき、前向きな姿勢に舌を巻いている。そのポジティブ思考は、本気でジャイアントキリングを狙っている。

 鹿児島・湯之元でのキャンプには、10年前にチームに参加した岡村秀さんがボランティアとして参加していた。現在キャンプ場経営と俳優という二足の草鞋を履いている岡村さんは日中のハーフで、名門青森山田高校を卒業後、WBCの舞台に立った。

彼が「もう、あの頃の選手はほとんどいないんですけど」と言うほど、中国野球の歩むペースは早い。そんな若さ溢れるチームだが、そこには、侍ジャパン、日本野球との対戦経験豊富なベテラン選手、コーチの姿もあり、若きチャイナスターたちに経験を伝えている。

中国系マイナーリーガーの草分け、レイモンド・チャン

 「なにせ6年ぶりだからね。プレーすると翌日に疲れがくるんだ」

と若い選手のバッティングをネット越しに見ながら快くインタビューに応じてくれたのは39歳になるレイモンド・チャン選手だ。「選手」と言ってもマイナーリーグでプレーしたのは2016年までですでに引退している。

大学を中退してパドレスと契約。以後、パイレーツ、レッドソックス、ツインズ、レッズのマイナーを渡り歩くジャーニーマン生活を送った中国系アメリカ人だ。両親とも中国人で、張宝樹という中国名ももっている。

WBCには2009年の第2回大会から中国代表の一員として参加、以後3大会連続で出場している。WBCでの通算成績は34打数11安打6打点。チームチャイナの打線の中核を担ってきた。2009年大会の対台湾戦では8回に勝利を決定づけるソロホームランを放った上、ショートゴロをさばいて試合にピリオドを打ち、2013年大会のブラジル戦では逆転タイムリーツーベースを放つなど、WBCでの2度の勝利で主役を演じた。

マイナーでは3Aまではたどり着いたが、あと一歩メジャーには及ばず。プロ12シーズンで26本塁打を記録して前回2017年大会を区切りに現役生活に別れを告げた。最後となった侍ジャパン戦では3番サードで出場。武田翔太(ソフトバンク)からライト前ヒットを放っている。

 引退後はMLBの中国オフィスの責任者として当地での野球普及活動を行っていたが、今大会を前に、雇い主のMLBから現役復帰要請を受けてメンバー入りした。

「参加を言われてからトレーニングは再開したんだけど、実際のプレーからは遠ざかっていたからね。久しぶりに打席に入った時はピッチャーの球があんまり速いんでびっくりしたよ」

打席での貫禄は十分だ
打席での貫禄は十分だ

とは言うものの、2月28日の九州アジアリーグの大分B-リングス戦では、7回に代打で登場すると、左中間を軽々と破るツーベースを放ち、9回の打席は凡退したものの、鋭いファールをサード戦に返していた。独立リーグクラスの投手の球には全く振り負けしておらず、本番ではDHで十分いけそうだ。

中国野球のレジェンド、王偉コーチ

 ベンチではひときわ存在感を醸し出しているのはその堂々たる体躯のためだろう。まさに筋骨隆々というその躰はすぐにでも現役復帰できそうだ。中国野球のレジェンドと言っていい王偉(ワン・ウィー)は44歳になる現在指導者としての道を歩んでいる。

 2006年の第1回大会。中国は日本相手に18対2と屈辱的な大敗を喫したが、この時のエースであった上原浩治から一時は同点に追いつく2ランを放った。以降、第2回大会は故障のため欠場も、第3回、第4回大会でもチームチャイナの司令塔としてホームベースを死守した。

 1998年、20歳のときアジア大会で代表デビュー。北京五輪を見据えた中国野球リーグが2002年に発足すると、2004年に同リーグの北京タイガースに入団した。2007年にはマリナーズと契約し、2009年までアメリカで武者修行に励んだ。

 この間も、代表チームの大黒柱として活躍。2003年秋に行われたアテネ五輪予選を兼ねた札幌でのアジア選手権でも日本と相まみえている。2005年にアジアのプロリーグによる国際チャンピオンシップ、アジアシリーズが始まると、中国はこれに代表チームを「チャイナスターズ」として派遣するが、この代表チームが参加した東京での2005~07年大会と、韓国・釜山での2011年大会にも出場するなど、日本のチームとの豊富な対戦経験をもつ。

2011年韓国で開催されたアジアシリーズにも出場した
2011年韓国で開催されたアジアシリーズにも出場した

 現在は、古巣北京タイガースのコーチをしているという彼だが、その北京からは多くの選手が代表チームに名を連ねている。

 代表デビュー以来、ずっと日本の背中を追いかけてきた。その背中が少しづつだが近づいていることは確かだろう。いまだチームチャイナの監督はMLBから派遣されたアメリカ人が務めているが、いずれはこのレジェンドにバトンを渡す時が来るはずだ。

 中国代表は、今日3日、現在参加しているアマプロ交流戦大会「おいどんカップ」の最終戦、対ENEOS戦を鹿児島県薩摩川内市野球場で行った後、宮崎に移動。中部ガス、宮崎梅田学園とのテストマッチに臨んで東京へ移動する。

(写真は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

阿佐智の最近の記事