大学アメフト頂上対決で行なわれた不可解で危険なプレー
私は現場へ出向いて取材していない題材を取り上げることは少ないのだが、5月6日に東京都調布市のアミノバイタルフィールドで行なわれた日本大学対関西学院大学の試合で、あまりにも不可解で危険なプレーが行なわれた。本来ならば、試合を現場で取材していたメディアが指摘するべき問題だが、軽く触れられた程度で問題提起はされていない。そのような危険なプレーを許していては日本のアメリカンフットボール界を滅ぼしかねないと危惧したために、アメリカ在住で、試合にも足を運んでいない私が僭越ながらも提言させて頂く。
なお、プロではなく、学生(アマチュア)の試合で起こった事件であり、選手個人を攻撃、批判する意図は全くないので、本文では選手の個人名を書くのは控えさせてもらう。
この試合はゴールデンウィーク最後の日曜日に開催され、しかも昨年の大学日本一を争った日大と関学の再戦となったこともあり、試合映像を見るとスタジアムには多くのファンが詰めかけていた。
日本ではマイナー・スポーツから抜け出せないアメフトだが、多くのファンが観戦した試合でこのような事件が起こってしまったのは残念でしかない。
試合は関学のキックオフで始まり、まずは日大が攻撃権を得た。日大は相手陣地に攻め込むことができずに、パントを選択。関学は最初の攻撃で、ショットガン・フォーメーションからのパスを狙う。ボールを受けたクオーターバック(QB)は右側にロールアウトしながら、パスを投げた。
アメフトではパスを投げた後のQBにタックルすることは禁じられている。ときには、QBに襲いかかるディフェンス選手が勢い余ってQBにぶつかってしまうこともあるが、このようなプレーでは故意でなくても反則を取られる。
このプレーでは、日大のディフェンシブエンド(DE)はQBがパスを投げた3秒後に、スピードを落とすことなく無防備なQBに危険なタックルをしている。
審判はアンネセサリー・ラフネス(不必要な乱暴行為)として15ヤードの反則を宣言。反則を犯した選手や日大のサイドラインに向かって、警告を発することもなかった。日大のサイドラインもこの選手をベンチに下げて、危険なプレーを注意することもなかった。
ルール上は審判の判定は正しく、試合を主催した関東学生アメリカンフットボール連盟に電話をして確認したが、連盟としても対象選手や大学にこれ以上のペナルティーを与えるつもりはないとの回答が返ってきた。
ルール上は正しくても、スポーツ――とくに学生スポーツ――では、勝敗よりも選手の安全とスポーツマン精神が先に来るべきではないだろか?
日本アメリカンフットボール協会の「アメリカンフットボール公式規則・公式規則解説書」のフットボール綱領のページにはこう記されている。
相手を故意に傷つける気持ちがあったのか、なかったのかは分からないが、スポーツマンらしかならぬ行為だったのは明らかである。
また、「パーソナルファウル」の章の第1条「ひどい反則」にはこう書かれている。
「ひどい反則」の定義は、「反則とバイオレーション」の第3条「ひどいパーソナルファウル」でこう記されている。
問題のプレーを2つの違う角度からの映像で検証した私は、日大のDEのレイトヒットは「身体の不正な接触を伴い相手に重大な負傷をもたらす危険がある,過度あるいは悪質な反則」だと思ったので、「資格没収」すなわち退場処分を受けるべきだと感じた。
日刊スポーツは試合後の日大・内田監督のコメントをこう報じている。
(記事では選手名が明記されていたために、引用記事のカッコ内は筆者が編集)
当該プレーは「激しくプレッシャーをかけている」のではなく、明らかな反則であり、相手選手に大ケガを負わす危険性が高い。「あれぐらいやっていかないと勝てない」とも言っているが、アメフトに限らず全てのスポーツはルールと相手との信頼関係の上に成り立っており、スポーツマン精神から大きく外れたプレーをしてまで勝利を追求するのは、スポーツではなく戦争である。激しいプレーと相手を壊すプレーは全くの別物だ。
関学のQBは負傷して試合途中でサイドラインに下がって交代。幸いにもケガは大きなものではなく、後半から復帰できたが、本来の調子にはほど遠かった。無防備な選手へのフルスピードでのタックルは、アメフト選手生命に関わるだけでなく、日常生活に支障をきたしてもおかしくはない危険なプレーだ。
この2つ後のプレーでは、QBからランニングバック(RB)へボールを渡すランプレーだったが、日大の同じDEの選手は自分の目の前でハンドオフが行なわれたにも関わらず、ボールをもらったRBには目もくれずに、ボールをもたないQBを目掛けてタックルしている。このプレーでも15ヤードのペナルティーが与えられたが、偶発的なプレーが続いたとは考え難い。主審は日大のサイドラインへ駆け寄り、コーチと話していたが、大きな事故が起こる前に、当該選手に対しても厳しく注意すべきだった。
故意でなかったとしても3回のプレーで2度のアンネセサリー・ラフネスで30ヤードも罰退を命じられた選手がいれば、コーチは選手をベンチに下げて注意をするのが普通だが、日大のベンチは当該選手をサイドライン近くに呼んで一言なにかを伝えただけ。
その2つ後のプレーで、日大のDEの選手は関学のオフェンシブライン(OL)の選手の身体をプレー終了後に何度か押す。審判は「相手のヘルメットを殴った」として資格没収を命じた。普通ならば考えられないような反則を続けた選手が退場処分を受けて、日大のサイドラインに戻ってくると、コーチは怒ることもなく、その選手の頭を軽く叩き、まるで労うかのように迎え入れている。
退場処分を命じた次のプレーが終わってから、レフリーは両チームの選手に対して注意を発している。審判を批判する意図はないが、警告を出すのが遅かったと感じたのは私だけではないはずだ。
今回の一件は日本でアメフトが発展、普及するためにも、見過ごすことのできないものだった。
アメフトは知力と体力をフルに使って戦う素晴らしいスポーツ。一連の行為はアメフトへの冒涜、相手選手に大ケガを負わせる危険性、そしてスポーツマンシップを踏みにじるものだった。
関東学生アメリカンフットボール連盟は、この一連の反則を試合で罰則ヤードを与えたことで、終わったこととして処理するのではなく、試合映像の検証と関係者への事情徴収をして、2度と同じようなことが起こらないように対処するべきではないだろうか?
続けて反則を犯したのも、退場処分を受けたのも1人の選手だったが、今回の件は1選手の愚行で終わらせるのではなく、日本のアメフトに関わる人間1人1人が真剣に考える問題だと感じる。とくに学生を指導するアメフト指導者たちには、アメフトの技術を指導するだけでなく、アメフトを通して学生の人間性を育てるような指導を強く望む。