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プールなど学校現場における水難事故の実態

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
(写真:アフロ)

 水難による中学生以下の子どもの死者・行方不明者数は昭和54年には年間で1,044人でした。それが令和5年には27人まで減少しました。学校プールの設置数は平成12年までは増えていて、学校での水泳教育が子どもの悲しい水難死を減らすために貢献したことは間違いありません。その一方で、プールを代表とした小中学校現場における水難事故は発生しています。その実態はどうなっているのでしょうか。

警察庁「水難の概況」データ

 中学生以下の子どもの死者・行方不明者数は昭和54年には年間で1,044人でした。翌年の昭和55年には1,000人を統計上はじめて割り986人、平成14年には100人をはじめて割って94人となりました。それが令和5年には27人まで減少しました。

 その令和5年中の子どもの死者・行方不明者の場所別数の内訳を見ると、海7人、河川16人、湖沼池2人、プール2人でした。プールでの死者・行方不明者の割合は総数27人のうちの7.4%に達しています。プールでの重大事故はそれなりの確率で発生するということになります。

 では、プールに限ってこの10年間の死者・行方不明者数はどのように推移したでしょうか。水難の概況から起こしたデータを表1に示しますのでご覧下さい。全年齢では毎年のように重大事故が発生していまして、人数は10人以下で推移しています。この10年間でその合計は45人に達しました。そのうち中学生以下の子どもの数は内数で12人となっています。子どもの数が占める割合は26.7%に達し、プールで重大事故に巻き込まれる子どもの割合は比較的高いと言えます。

表1 年ごとのプールにおける死者・行方不明者数(筆者作成)

学校プールの設置数

 スポーツ庁「令和3年度体育・スポーツ施設現況調査報告」によれば、全国の小・中学校に設置されているプール施設数は22,036か所でした。また、社会・人口統計体系 都道府県データ 基礎データによれば昭和50年度には水泳プールの数(設置率)が公立小学校13,564 (55.5%)、公立中学校4,801 (47.4%)であったのが、平成12年度にはそれぞれ20,223 (84.8%)、7,559 (72.3%)にまで増加しています。この時期に子どもの水難による死者・行方不明者数が1,000人台から100人台へと大きく減少していることから、学校プールが悲しい水難死の撲滅に直接的・間接的に貢献してきたことは明白だと言えます。

個別のプール事故

 令和5年(2023)を例に、個別の子どものプール死亡事故を見ていきましょう。この年の死者・行方不明者数は表1から2人であることがわかりますが、次の2件となります。

4月22日 スイミングスクールのプールで5歳男児が水深約120 cmのプールの底に敷かれた台の上で浮具を腰に着けて遊んでいたが、浮具が外れた状態で沈んだ。

7月26日 多目的施設の屋外プールで小学1年男児が水深1.1~1.3 mのプールの中央付近で浮かんでいた。

 上の2件はいずれも事故現場が学校プールではないことがわかります。学校プールでの重大事故について抜粋すると次の通りです。死亡(溺死)事故については、この10年間には見出すことができませんでした。次は、いずれも生還している例です。

令和元年(2019)8月 大分県小学校プール 小1 プール開放

平成30年(2018)8月 福島県小学校プール 小2男児 授業

平成30年(2018)8月 福井県小学校プール 小1女児 プール開放  

平成29年(2017)8月 三重県小学校プール 小3男児 プール開放

 これよりも以前に発生した学校プールにおける死亡事故については、独立行政法人日本スポーツ振興センターの災害共済給付実績を調査することで一覧を得ました。この給付は、義務教育諸学校、高等学校、高等専門学校、幼稚園、幼保連携型認定こども園、高等専修学校及び保育所等の管理下における災害に対し行われるものです。平成17年以降に発生した事故(溺死とされた事故)について示します。

平成24年(2012) 小1女児 夏季休業中、低学年プール指導の際の自由プールの時間。

平成23年(2011) 小5女児 夏季休業時のプール開放時、本児は25 mをクロールで泳いでいた。

平成23年(2011) 小3男児 水泳授業の泳力測定中。

平成22年(2010) 小2男児 水泳の授業中、大プールに移動し自由泳ぎをしていた。

平成19年(2007) 小5男児 低学年プールで泳力検定の練習をしていたところ、溺れた。

 次に、平成17年以降に発生した事故(溺死以外とされた事故)について示します。

平成30年(2018) 中1男子 大血管系突然死 体育の授業中、5分間のウォーミングアップ後、各自のペースで泳ぐ練習を行った。授業終了後に腹痛を訴え、保健室で休んでいた。

平成26年(2014) 小6女児 中枢神経系突然死 体育の授業中に、プールで25 mをクロールで泳いでいたところ、急に意識不明となりプールに浮かんでいる状態となった。

平成25年(2013) 中2男子 心臓系突然死 野球部の練習終了後、クールダウンを兼ねてプールに入った。自力でプールサイドにいき、もたれかかっていたので顧問が引き上げた。

平成25年(2013) 中2男子 心臓系突然死 体育の授業中に、プールで5分泳の3分が経過した段階で、水中に沈んでいた。

平成19年(2007) 小1男児 心臓系突然死 水泳授業終了時、本児童の体の具合が悪くなり、プールのオーバーフローのコンクリート部分に頭をもたれかけて動かなくなった。

平成17年(2005) 小5男児 心臓系突然死 プールの縦を使って50 mをクロールで泳ぎ出した。45 m付近に来たとき、本児童の泳ぎの動作が止まり、そのままの状態で浮いた。

プール以外で発生した水難事故

 災害共済給付実績データを登下校も含めた学校管理下全体に広げると、様々な水難事故が発生していることがわかりました。プール以外で発生した事故では平成17年度以降、小学生14人、中学生6人が溺死したと報告されており、河川等が事故現場として目立ちます。

まとめ

 プールを代表とした小中学校現場における水難事故について、様々な統計などを活用して解析しました。その結果を次のようにまとめます。

1.学校プールにおける溺死はこの10年で見出すことができなかった。

2.平成17年度以降では、小学校プールで5件の溺死があった。大事には至らなかったものの、意識不明になるなど大きな事故が続く年があった。

3.溺死以外の事故が高学年小学生から中学生にかけてプールにて発生している。

4.プール以外でも、登下校などの際の活動で水難事故が発生している。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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