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園子温監督めぐる報道、著名作家の声明など、社会全体に波紋広がる芸能界の性暴力告発

篠田博之月刊『創』編集長
いまや週刊誌が毎週のように性暴力告発報道(筆者撮影)

『週刊文春』が火をつけた映画界における性暴力の告発が大きな反響を巻き起こし、いまや社会的問題になりつつある。これについては既に2回にわたってヤフーニュースに経緯を書いた。どういう流れなのか知りたい方は下記の2つの記事をご覧いただきたい。『週刊文春』も恐らくここまでこの問題が広がることは予想していなかったろう。この展開そのものが時代の流れの反映だ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20220330-00289110

是枝裕和監督らが声明を発表、『週刊文春』告発で映画界に#MeTooの大きな波紋(3月30日)

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20220403-00289614

女優たちの性暴力告発の波紋広がる。映画「ハザードランプ」公開中止、NHKドラマも修正(4月3日)

『週刊女性』の園子温監督告発の波紋

 当初、『週刊文春』がほぼ独走状態で告発を続けてきたが、局面を変えたのは4月5日発売の『週刊女性』4月19日号が「映画監督 園子温が女優に迫った卑劣な条件『オレと寝たら映画に出してやる!』」という記事を掲載したことだ。園監督と言えば日本を代表する監督のひとりとも言われており、この記事は波紋を広げた。

 実際には発売前日のウェブサイト「週刊女性PRIME」が速報を流して一気に拡散したのだが、『週刊女性』発売日の5日に、園監督は自筆の謝罪文を公開した。

 そこでは、関係者や視聴者にお騒がせしたことをお詫びいたしますと書かれ、「映画監督としての自覚のなさ、周りの方々への配慮のなさを自覚し、今後のあり方を見直したいと思っております」というコメントが書かれていた。ただ同時に、週刊誌報道には事実と異なる点が多いとして、「代理人を通じて、しかるべき措置をとって参る所存です」とも書いていた。

 これに対して反発も起こるのだが、その前に『週刊女性』4月19日号の波紋をもうひとつ紹介しよう。記事の中に性加害に関わった「俳優T」なる人物が出てくるのだが、5日に俳優の坂口拓さんがYouTubeチャンネルで、それは自分のことだと名乗り出て「不快な思いをさせた方がいたとしたら、この場を借りて謝罪します」と謝罪したのだった。

『週刊女性』も大きな取り組み(筆者撮影)
『週刊女性』も大きな取り組み(筆者撮影)

 さて、その『週刊女性』と同じ週の7日発売の『週刊文春』4月14日号はといえば、新たに映画プロデューサー梅川治男さんによる性加害を告発する女優の声を紹介した。見出しは「『ヒミズ』『蛇にピアス』プロデューサーが女優に強要した『局部写真』」だった。

 恐らくこの週の広がりを受けての動きなのだろう。多くの芸能人がSNSでコメントするなど波紋は一気に広がっていった。

柚木麻子さんら作家も声明を発表

 それを象徴したのは、12日に柚木麻子さんら作家18人が「原作者として、映画業界の性暴力・性加害の撲滅を求めます」という声明を発表したことだ。

「不均等なパワーバランスによる常態的なハラスメント、身体的な暴力、恫喝などの心理的な暴力等が、業界の体質であるように言われるなかで、今回、女性たちが多大なリスクを背負って性被害を告白したことは、業界の内外を問わず、重く受け止めるべきと考えます。声をあげてくださった方々の勇気に応えたく、私たちは、連帯の意志を表明します」

「外部にいて、なおかつ特殊な関係性を持つ原作者である私たちならば、連帯し、声をあげられるのではないかと考えたことが、このステートメントを発表したきっかけです。この声明が、閉じた世界で起こる性加害の抑止力になることを願います」

 声明の文責は柚木さんと山内マリコさんだが、賛同者には西加奈子さんや三浦しをんさん、湊かなえさんなど、そうそうたる作家が名を連ねていた。

 また是枝裕和監督らが3月18日に声明を出したことは前の記事に書いたが、その声明にも5日間で300以上の賛同メッセージが寄せられたとのことで、声明だけに終わらせてはいけないと監督有志は3月24日、文化庁にハラスメント防止に向けた要望書を提出した。

 問題は社会全体に波及していったのだった。

園子温監督の対応に反発の声も

『週刊文春』と『週刊女性』は、その翌週も告発を続けた。『週刊女性』4月26日号は「園子温 覚悟の『性暴力告白』に対して”法的措置“で威嚇 被害女性が憤怒『また傷つけられた』という記事を掲載。『週刊文春』4月21日号は「園子温に『性要求』を直撃した!水原希子が語る『芸能界の性加害』という記事を掲載。その中で、来年WOWOWで放送予定だった新作ドラマの監督を園監督が降板するという事態になっていることを紹介した。  

火付け役『週刊文春』は今も女優たちの告発を報道(筆者撮影)
火付け役『週刊文春』は今も女優たちの告発を報道(筆者撮影)

 また前号で告発した梅川プロデューサーが関わったネットフリックスのドラマに出演した女優の水原希子さんにも同誌は取材を申し入れたのだが、それに対して水原さんは自分の思いを文書で回答。同誌はその記事で内容を紹介し、文春オンラインで全文を公開した。

「もともと芸能界にはこういう(性加害のような)側面がずっと存在していて、私も男性監督から言葉のセクハラにあたるような言葉をぶつけられた事は数え切れないぐらいありました」

そうつづった有名女優のコメントは新たに波紋を広げた。

『週刊文春』は園監督に取材申し入れを行い、監督と代理人弁護士が応じたやりとりを誌面に掲載している。園監督が事実と異なると主張しているのはどういう点か、記事の中で弁護士がこう答えている。

「性的な関係と引き換えに女優を出演させたとか、主演したほとんどの女優と性的関係があるというのは事実とまったく異なります」

 事実がどうかというのは、こういう問題においてももちろん大事なことだが、#MeTooの大きな流れの中では、その園監督の対応に対する反発の声もあがっている。

 例えば『SPA!』4月19・26日号巻頭の鈴木涼美さんのコラムは「セクハラ告発に逆ギレする男の稚拙な被害者意思」と題して、園監督を批判。「報道が事実と違うことや性行為の解釈が両者で食い違うことはあっても、謝罪を欲しているであろう告発者に”一言も謝らないで良い”事態というのは現実的にありえないのだ」と書いている。同コラムは鋭い指摘が多く、私も愛読しているが、ここで彼女が指摘しているのがこの問題についての多くの女性の受け止め方かもしれない。

『フライデー』4月29日号も「渦中の映画監督・園子温が本誌直撃に語ったこと」と題して園監督へのインタビューを掲載。そこでも園監督は「事実と違う点が多いのは見過ごすことができません」と語っているのだが、最初の謝罪文と違うのは、その前にこう話していることだ。

「お酒を飲んでいたり、監督業などで精神的に追い込まれているときに、不用意な発言やメールなどで、相手を傷つけてしまったことは確かにあったと思います。それについては、相手の方に心から謝罪させて頂きたいです」

 まず相手女性に謝罪したうえで、事実の違いも指摘するという対応だ。先の5日付の自筆の謝罪文では、関係者に迷惑をかけたことを詫びていたが、告発した女性たちへの謝罪の言葉は見当たらなかった。

榊英雄監督の家族をも週刊誌が直撃

『週刊女性』はこの問題にかなり力を入れているようで、4月26日号では関連記事を何本か載せている。『週刊文春』に最初に告発された榊英雄監督への直撃も敢行して「性加害監督・榊英雄、うどん片手に涙の謝罪」という記事を掲載している。

 同誌は榊監督の自宅を直撃、近隣住民に取材を行ったり、榊監督自身はもちろんだが、離婚をほのめかしている妻にも心境を尋ねて直撃を試みている。この件はマンション中の話題になっているというのだが、ある意味で被害者とも言える妻にまで直撃を行うというのはどうなのかという気もしないではない。榊監督夫妻に2人の娘がいることも書いているが、妻や娘の心労は大変なものだろう。『週刊女性』記者自身は義憤にかられて行っているのだろうが、家族にまで直撃を行うというのは行き過ぎではないかとも思う。

 『女性自身』もウェブで水原希子さんの訴えを大きく報道したり、スポーツ紙を含めた芸能マスコミだけでなく、この問題は一般紙やテレビも大きく取り上げ、社会問題になっている。#MeTooの大きなうねりが、映画界のこれまでのある種の文化を大きく揺さぶり、それが社会全体に波及しているのだが、この動きはまだ続きそうだ。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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