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2020年、世界サッカーをリードする”3人のスター候補”は誰か?久保建英の資質

小宮良之スポーツライター・小説家
カンプ・ノウのピッチに立つマジョルカの久保建英(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

 2019年、アルゼンチン代表リオネル・メッシ(32歳、FCバルセロナ)は、史上最多の6度目のバロンドールを受賞した。リーガエスパニョーラ、チャンピオンズリーグで得点王を争い、そのプレーは今も輝きを放つ。比肩する才能は、今も見当たらない。

 唯一、好敵手となったポルトガル代表クリスティアーノ・ロナウド(34歳、ユベントス)は、過去に5度のバロンドールを受賞している。今もセリエAで有力選手の一人として活躍し、スターとしての風格は抜きん出ている。点取り屋としての能力の高さは健在だ。

 しかし二人とも、時代の流れには逆らえない。

「引退の日は近づいている」

 メッシ自身が言及したことがニュースになった。34、35歳はトップレベルでシーズンを通して活躍するのに、一つの境界線と言われる。二人に残された時間は限られているのだ。

 2020年、最高のフットボーラーとして頭角を現すのは誰になるのか?

 リーガエスパニョーラだけを見ても、20歳以下の選手はタレントぞろいだ。

次世代選手一番手は、ポルトガルの至宝

 メッシ・ロナウド時代を継ぐ最有力候補は、ポルトガル代表ジョアン・フェリックス(20歳、アトレティコ・マドリー)だろう。

 そのサッカーセンスは群を抜いている。際立ったボールコントロールとキックスキル。同時に神がかったプレービジョンで、スペースを見つけ、もしくは作り出し、決定的なチャンスを作り出せる。

 そしてドリブルは、常に相手の動きの裏をかく。体重移動まで見極めることで、魔法を使ったようにするするとすり抜け、スピードで上回れる。カウンタータイプのサッカーでも適応し、攻撃を引っ張れる。

 なにより、高い技術をゴールするために使える。ベンフィカ時代から、ストライカーのように裏に抜け出し、ボールを呼び込み、ゴールを量産してきた。アクロバティックなゴールも得意とし、“嗅覚”と“当て勘”に優れる。ファーポストへ逃げる動きでクロスに合わせるゴールが多い点は、フランス代表FWアントワーヌ・グリーズマンとも共通するだろう。

「ジョアン・フェリックスは、ルイ・コスタ、カカ、ジョアン・ピントを掛け合わせたような選手だ」

 ポルトガル史上最高のアタッカーの一人、パウロ・フットレは表現しているが、決して大げさではない。

 課題は体力面と言われる。メッシ、ロナウドは、拮抗した試合を最後の最後で決着をつけられる。ジョアン・フェリックスが90分間、その技術を出せるようになった時――。時代の旗手になっているはずだ。

バルサで台頭

 二人目の候補選手は、スペインU―21代表アンス・ファティ(17歳、FCバルセロナ)だろう。

 10歳の時からバルサの下部組織ラ・マシアで育ったファティは、次元が違う選手である。体の動きがしなやかかつダイナミック。もしペレが現代に生きていたら、こんな選手だったかもしれない。

 難しいプレーを簡単にやってのけるが、とりわけゴールを決められる。シューターとして生まれたようなセンスで、ゴールのためのボールコントロール、コースの作り方の巧みさ、足の振りの速さ、ボールのインパクトの強さと完璧。ジュニア時代は久保建英のパスを面白いようにゴールに放り込んでいたが、ケガさえなければゴール記録を作るのではないか。例えばレアル・マドリーのヴィニシウス・ジュニオールも大器と言われるが、得点力でファティは上を行くだろう。 

 ファティは2019年6月にバルサとプロ契約し、移籍違約金は1億ユーロ(約120億円)に設定された。8月にはクラブ史上2番目の若さでトップデビュー。同月の試合で、クラブ史上最年少得点を決めた。そして12月には契約を2022年まで延長し、違約金は1億7千万ユーロ(約200億円)にアップ。チャンピオンズリーグ、グループ最終節ではメッシが不在の状況で、インテル・ミラノの夢を打ち砕くミドルシュートを放り込んでいる。

久保の傑出したパーソナリティ

 そして最後のスター候補が、日本代表の久保建英(18歳、マジョルカ)だ。

 今シーズン、すでにリーガエスパニョーラで有力選手の一人になっている。マジョルカでは先発の座を確保しただけでなく、主力の一人。すでにレンタルバックや有力クラブへの貸し出しも検討されているほどだ。

 久保は左利きで、ボールタッチが多く、ステップも細かい。そのため、相手にプレーを読まれにくく、ボールを取られず、すり抜けられる。プレービジョンも明晰なため、選択、判断が良く、タイミングも間違えない。シュートセンスも備え、どん欲でもあり、ボックス近くでは突出した存在である。

 なにより、久保は周りに左右されていない。チームが不調な試合でも、彼は途中出場すると、“無理してもプレーを動かそう”と牙をむく。勝利に向けた覚悟が伝わる。

「Tirar del Carro」

 スペイン語で「一番つらい仕事を引き受ける、先頭に立ってやる」と訳されるが、それはエースの条件と言われる。直訳すると、「重い荷車を引く」で、リーダーとしてチームを引っ張るニュアンスか。マドリーでは過去に、ラウール・ゴンサレス、クリスティアーノ・ロナウドらがこの表現の象徴と言われてきた。

 その資質を、18歳の久保は少しの気負いも見せずに示しているのだ。

時代は流れる、12歳の新鋭

 他の候補選手としては、ブラジル代表MFロドリゴ(18歳、マドリー)、スペインU―21代表MFリキ・プッチ(20歳、バルサ)、スペインU―21代表FWペドリ(17歳、ラス・パルマス)などがいるだろうか。

 そして世界のビッグクラブのスカウトが注目しているのが、12歳のラミネ・ヤマルである。バルサの下部組織に所属し、「メッシの後継者」と言われる。左利きだが、天才肌の脆さはなく、守備もできるし、プレーメイクする才能もある。さらに、そのシュートは発想も威力も度肝を抜く。モロッコ系スペイン人で、同年代では無敵だ。

 一朝一夕に時代は変わらないだろう。しかし、ゆるやかに時は流れる。新たに生まれる者たちが出てくる。

 メッシ・ロナウド時代を継ぐ者たちは、密やかに腕を上げている。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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