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朝霞市の女子中学生無事保護のニュースの見方:監禁事件被害者の二次被害を防ぐために

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(写真:アフロ)

世間はしばしば女性被害者に注目しがちです。しかし犯罪の二次被害を防ぎ、被害者と家族を支援しなくてなりません。

■女子中学生を無事保護

2014年3月から行方不明になっていた埼玉県朝霞市の中学生の女子生徒(15)を27日、都内で無事保護した。〜

「男に監禁されていた。今日は長時間、男がいなくなりそうだったから隙を見て逃げ出してきた。ずっと監視されていた。車に無理やり乗せられた」〜

男は中野区に住む23歳の男とみられ、男は女子中学生と一緒に住み、女子中学生は家から出られないようになっていたとみられている。

出典:保護された少女「男に監禁されていた」 日本テレビ系(NNN) 3月27日

2年間、ご両親をはじめ関係者が必死に探していた少女が、無事保護されました。

NHKの報道によると、少女は、「これまでずっと部屋に閉じ込められていたわけではなく、外出することもあったが、その際も男に監視されていた」と話しています。(NHK NEWS WEB 2年前に行方不明 女子生徒を保護 23歳男の行方捜査 3月27日 19時44分)

■少女はなぜ逃げなかったのか:逃げなかったのではなく逃げられなかった

まだ情報はわずかしか入っていませんが、これまでの監禁事件の例から考えれば、被害者は逃げなかったのではなく逃げられなかったのです。人は、体が鎖で繋がれなくても、心が繋がれれば逃げられなくなります。長い監禁生活や恐怖にかられることで、客観的には逃げられそうな場面でも、逃げられなくなる方が普通です。

ネットと世間に流れる「少女はなぜ逃げなかったか」に答える:岡山小5少女誘拐監禁事件被害者保護のために

■少女はなぜ逃げられたのか

報道によれば、2年間の監禁生活を経て、今回逃げることができました。これも、今までの監禁事件の例から考えると、被害者が希望を失わなかったからだと思います。

これまでの例を見ると、監禁生活が長くなると、監禁の仕方がゆるくなります。それでも、脱出に失敗すると罰を受けますから、簡単には逃げられないのですが、表面上は従順な態度をとりつつ、脱出のチャンスを狙い続けていた被害者が脱出に成功しています。

■長期監禁犯の心理

長期監禁は、営利誘拐や人質などの短期の監禁事件とは質が異なります。外国の例では、被害者にかなりひどいことをする犯人もいます。しかし、日本の長期監禁事件の事例を見ると、犯人は少なくとも主観的には被害者を大切に扱うケースが多く見られます。

もちろん凶悪な犯罪であり、誘拐時の行為や監禁中に指示に従わなかった時の罰はひどいのですが、それでも犯人の気持ちとしては、被害者と仲良くなりたいと考える場合も多くあります。

長期監禁事件の典型的な犯人は、歪んだ幻想を持っています。女性(少女)と素晴らしい人間関係を持って、本人が思い描く理想の生活をしたいと感じます。通常、そのような思いは、空想や小説ビデオで満足するのですが、稀に実行してしまう人がいるわけです。

■犯罪報道

犯罪被害者が若い女性の場合、他の犯罪よりも世間の注目を集めます。さらに、世間の目は被害者に集中しがちです。こうして、女性犯罪被害者は、犯罪で傷つき、さらに報道や世間の目によって傷つく二次被害を受けてしまいます。

ある女性長期監禁事件のさいも、多くのマスコミが被害者宅を訪れ、庭の中まで無断で立ち入る人が続出し、被害者の父親がマスコミ向けに自制を促したことがありました。

また、一部メディアは、ずいぶん無責任でひどい報道もあったように思います。女性誌の中にも不愉快に感じる報道がありました。女性誌が、女性被害者をこんな風に描くのかと思いました(記事やイラストを描いたのは、男性なのでしょうが)。

犯罪報道自体が悪いわけではありません。しかし、すべての犯罪報道は、何らかの形で被害者保護や犯罪防止につながらなくてはならないでしょう。

■私たちの態度:生きのびた被害者は力強いサバイバー

被害者に関心を持つなとは言いません。多くの善良な市民は、被害者保護のニュースを聞いてホッとしていることでしょう。また被害者やご家族の苦しみに共感の思いを持つことでしょう。

ただ、下手に同情して、あわれて惨めな被害者として見すぎてしまうのは、逆効果だと思います。犯罪被害者は、しばしば自分を責めたり、自分が小さくなってしまった感覚を持ってしまいます。長期監禁の心の傷は深く、回復に時間はかかるかもしれません。しかし同じ注目するなら、被害者の勇気に注目したいと思います。

被害者は、極めて困難な環境を乗り越え、力強く脱出に成功した、サバイバーなのです。被害者自身も、すぐにできることではありませんが、「自分は少しも悪くない、自分は弱い人間ではない、自分は強く勝利を勝ち取った」といつかは思えるようにと願っています(「あなたは、弱い被害者ではなく、強いサバイバー:犯罪被害、いじめ被害、辛い目にあってきた人へ」Yahoo!ニュース個人有料)。

欧米では、長期監禁事件の被害女性が、実名を出し、記者会見に応じたり、本を出版したりもしています。文化の違いもあるでしょうが、周囲の態度の違いもあるでしょう。いえ、被害者個人の問題よりもむしろ、社会の問題の方が大きいでしょう。

アクションで映画で、人質になっていた女性が解放され事件が解決すると、映画の中の欧米のマスコミ人は、犯人を逮捕し人質を救出したヒーローに殺到しています。これが日本だと、女性被害者に殺到したりはしないでしょうか。

アメリカで18年間の監禁悲哀を受けた女性は、州から莫大な補償金が支払われています(裁判で州の責任が認められた)。お金だけではなく、様々な支援も受けています。そのような状況での、実名による記者会見です。

しかし日本の現状では、やはりプライバシーの保護が必要でしょう。

犯罪ですから、一番悪いのは犯人に決まっています。しかしその犯罪は、私たちの社会の中で起きました。その被害者を、社会全体で守りたいと思います。周囲の無理解から二次被害を被るなど、あってはなりません。

犯人逮捕は警察が行いますが、被害者保護は私たち全体の力が必要です。

長期監禁事件の犯罪心理学:アメリカ監禁事件、オハイオで10年監禁の3女性保護:加害者の心・被害者の心

<被害者女性に「温かな無関心」を:女性監禁事件から>

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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