採用活動だけは、中小企業が大企業に真っ向勝負できる経営活動である
■ 採用は「勝ち負け」
企業の業績は「勝ち負け」ではない。しかし採用の世界は「勝ち負け」である――。
こう言い切るのは、当社採用コンサルタントの酒井利昌です。酒井が上梓した『いい人財が集まる会社の採用の思考法(フォレスト出版)』には、
採用とは、限られたパイの奪い合いだ。
と記されています。
実際にそうなのか。リクルートワークス研究所の「大卒求人倍率調査」の結果を確認してみることにしましょう。2019年卒の調査結果からは、主に以下の2つのことが読み取れます。
● 全国の民間企業の求人総数が前年の75.5万人から81.4万人へと5.8万人増加している
● 学生の民間企業就職希望者数は、前年42.3万人とほぼ同水準の43.2万人である
つまり、求人に対して「38.1万人」の人材が不足していること。とくに、300人未満企業(中小企業)の大卒求人倍率が、9.91倍となっていることが読み取れるのです。(前年の6.45倍から+3.46ポイント上昇で過去最高)
このデータから、酒井が書籍『採用の思考法』に記した
採用とは、限られたパイの奪い合いだ。
というのは、それほど大げさな表現ではない、と言えます。とりわけ中小企業にとっては熾烈な戦いを強いられていると言っても、過言ではありません。
■ 変化する大学生の「価値基準」
それにしても、なぜ中小企業に、若者は行きたがらないのか。
つい最近のことです。私のクライアント企業の社長や人事担当に、「最近の大学生は、就職先企業をどんな基準で決めているか?」を尋ねたところ、
「安定している会社じゃないですか」
「やはり”働きがい”のある会社でしょう」
などと、適当に言う人が大半でした。
「企業は人が命」と豪語しながら、このように感覚的に求職者の価値基準を決めつけている人がほとんどです。データで分析することなく先入観で採用活動をするだなんて、時代錯誤もいいところ。企業の規模は関係ありません。こういう姿勢で採用活動をしているから、若者たちから選ばれないのです。
高校野球でたとえると、「相手はどうせこんなボールを投げてくるのだろう」だとか。「どうせバッターはこんな球に手を出すのだろう」などと決めつけて試合に臨んでいるようなもの。こrでは、いかなる戦いにも勝つことはできません。採用も同じです。前述したとおり、採用は「勝ち負け」なのですから。
毎年トレンドも変化しますので、必ず各種調査結果には目を通しましょう。たとえば、就職情報大手のディスコの調査結果をチェックすると、どんな事実が判明するでしょうか。
注目すべきは、大学生が就職先を選ぶ際に重視するポイントが、「就職活動を始める前の1月」と、「実際に企業選択をするタイミング」では、大きく異なっていること。
まず、就職活動を始める前の1月の時点で、企業選びに重視していたポイントは次のようになっています。
1位「将来性がある」(47.4%)
2位「給与・待遇が良い」(44.2%)
3位「福利厚生が充実している」(31.5%)
さらに4位は「休日・休暇が多い」(27.7%)など、労働条件重視の傾向が目立ちます。 この結果だけを見ると、中小企業は大手企業に敵わないでしょう。だから「中小企業だから採用できない」というロジックが成り立ちそうです。
では、実際に企業選択をするタイミングではどうだったのでしょうか?
1位「社会貢献度が高い」(32.1%)
※初期に比べ10ポイント以上増加(21.4%→32.1%)
2位「将来性がある」(29.9%)
※初期と比べポイントが半減(47.4%→29.9%)
3位は「仕事内容が魅力的」(27.5%)
※初期に比べ大きくポイントが増加(19.3%→27.5%)。
このことからわかるのは、就職活動をはじめる前は、企業の「外見」だけを見ていた学生が、就職活動を進めるにつれて、企業の「内面」を重視するようになっているということです。
どうでしょうか。着眼点を変えれば、中小企業にも「勝ち目」がありますよね?
■ 就職活動を通じて成長していく学生たち
就職活動をはじめたばかりの学生は、将来性があり、給与や待遇がよく、福利厚生が充実している企業(大企業が有利)を第一志望と考えるかもしれません。就職活動をし、早期に内定をもらえるような学生は、そのまま内定した企業へ入社することも多いでしょう。
いっぽう、なかなか内定をもらえない人や、就職活動を繰り返すうちに「本当に自分のやりたいことは何だろう」「どんな仕事が自分には合っているんだろう」と、自分に向き合って考えはじる人もいるはずです。
恋愛と同じです。
初恋の人と結婚する人もいるでしょう。しかし多くの人は、複数の人と恋愛をし、その恋愛を通じて自分という人間を知っていくはずです。自分はどんな人間なのか。どんな人と一緒にいると幸せを覚えるのか。安らぎを感じるのか。
最初は、かっこいい人、楽しい人がいいと思っていても、恋愛を重ねるうちに、自分と真正面から向き合ってくれる人、ダメなことはダメだとはっきり言ってくれる人のほうがいいなどと、好みは変わってくるものです。
企業の採用担当は、このように、就職する先で重要視する基準が、経験によって変化していくことを知るべきです。そして、就職活動をしながら壁にぶつかり、葛藤し、自分と向き合い、自己成長をした若者たちのことを、もっと知ってもらいたいと思います。
早期に内定をもらえない学生たちは、決して「余りもの」ではありません。社会に出る前から、しっかりと社会経験を積んでいるのです。世間の荒波にもまれ、それなりに成長を遂げています。
だからこそ「社会貢献したい」気持ちが強くなる。企業の「外面(そとづら)」ではなく、理念や風土、仕事の中身など、「内面」に目を向けるようになります。待遇や福利厚生のポイントが大幅ダウンしているのは、そのせいです。
■ 中小企業も、もちろん勝てる
ここ数年、大企業の不祥事が次々と発覚し、「大企業だから」といって、大企業へ入りたがる学生は激減しています。
にもかかわらず大企業に就職したい学生が実際に多いのは、単に「大企業が採用活動を死ぬ気でがんばっているからです」(※先述した『採用の思考法(フォレスト出版)』より)
大企業も中小企業も関係がありません。学生をはじめ、求職者たちが何を考え、どんな考え方で就職活動(転職活動)しているのかをしっかりと頭に入れ、一所懸命に採用戦略を練れば、企業の大小関係なく勝てるのです。
「どうせ勝ち目ない」と考えながら戦うチームに魅力はない。誰も応援しません。ですから企業側も気合いを入れて相手を研究し、攻める姿勢で採用活動をしましょう。企業がこれから生き残っていくために、絶対に必要なことです。とくに中小企業は、事業戦略と異なり、採用活動は大企業と真っ向勝負できる、唯一の経営活動だということを忘れてはなりません。
(※ 参考記事:深刻な「人手不足」時代に、中小企業が絶対にやってはいけないこと)