「運命の日韓戦」ア大会男子サッカー決勝 日本が勝ったら韓国に起きること
杭州アジア大会の男子サッカー決勝が7日21時にキックオフとなる。
日本対韓国。
韓国内の盛り上がりが"ハンパない"。試合に際しソウル市内のホンデ地域にてパブリックビューイングが行われる予定で、警察官380人が警備に投入される。
オーバーエイジ枠で参加するDFのソル・ヨンウは試合への意気込みをこう口にしている。
「勝たなければならない理由があまりにも多い」
いっぽう現地メディア「ノーカットニュース」は「日本はすでに言い訳をしている」という見出しの記事を掲載した。日本でのネット上での反応を拾い、今回の日本代表について「オーバーエイジもいない、大学生も多いメンバー構成」である点について多く言及している、と。
- 現地記者によるYouTubeでは「待望の韓日戦決勝」とも
また、韓国メディア「イー・トゥデイ」はずばり、日本のメンバー構成をこう評している。
「全22人のエントリーの中で、大学生選手が8人、13人のプロ選手の中で海外組はサトウ ケイン(ヴェルダー・ブレーメン2軍)とマツオカ ダイキ(グレミオ・ノヴォリゾンチーノ)だけだ」
同じファイナリストに”2軍”も何もない。大会をここまで勝ち抜いてきたという意味では対等だ。そこまでのキャリアでの実績が何だったかも関係ない。今、そのピッチで何をやれるのかだけが問われる。
ここでは「日本が勝てば韓国に何が起きるのか」について大展望を。韓国の立場から「勝つべき理由があまりにも多い」ということは、日本が勝てば想像を絶する状況が起きるということだ。
徴兵免除がなくなる=選手の欧州移籍に影響大
韓国の男子サッカー競技では、アジア大会での優勝とオリンピックのメダル獲得が「国威発揚に貢献した」として兵役免除の対象となる。今回の韓国U-24代表のエントリー選手全22人のうち、19人がこの対象だ。
しかし、7日の決勝戦で日本が勝てば、免除は施されない。
こうなると、どんな影響があるのか。この世代のトップ選手たちの欧州移籍を巡るキャリア設定に大きなマイナスとなる。
まずは、クラブ側の事情。欧州のクラブは一般的に兵役未了の選手の獲得を望まない。契約期間中であっても、いつ自国に戻らざるを得ないのか、予測がつかないためだ。
もちろん、選手側の事情の方が影響が大きい。欧州でじっくりとキャリアを積み上げる時間が無くなる。兵役により大きな「中断」が生じるからだ。
韓国の男性は国民の義務として30歳までに兵役に行かなければならない。欧州クラブに在籍するサッカー選手とて、例外ではない。
さらに細かく言うと、欧州移籍を果たした選手は、徴兵に応じる1シーズン前にKリーグクラブに完全移籍する必要がある。そこからレンタル移籍で国内に複数ある軍隊チームのいずれかに移籍するのだ。欧州にいる選手たちはおよそ国内のトップだから、通常は現在Kリーグ2部の金泉尚武(キムチョン・サンム)へと移る。
これが何を意味するかと言うと「時間がなくなる」。20代前半でベルギー、オランダ、フランスなどのリーグに渡り、その後5大リーグに移籍、という流れが作りにくくなる。これは近年、韓国でも「日本と欧州組の数で差がついた原因のひとつ」と考えられており、深刻な問題だ。また韓国のトップ選手に中東や中国への移籍が多い理由の一つもこの点だ。20代後半で兵役による中断があるのであれば、確実に「多くの報酬を」と考えるのだ。
免除の恩恵として、日本でもよく知られる選手の例でいうと、パク・チソンが分かりやすい。21歳で徴兵免除(今は廃止となったW杯での一定成績での免除)となった。この年にしてオランダに移籍、2シーズンを過ごして24歳でマンチェスター・ユナイテッドに移籍した。仮に兵役免除がなく「28歳前後で帰国の可能性あり」という状況だったら、そのキャリアデザインは大きく変わったはずだ。
今後の日本との比較で考えてみても、「日本優位」の傾向がより強くなりうる、重要な一戦だ。
猛批判
周知の通り、各世代の日韓戦では「圧倒的に日本優位」の状況にある。
2021年3月(A代表) 日本 3-0 韓国
2022年6月(U-16代表) 日本 3-0 韓国
2022年6月(U-23代表) 日本 3-0 韓国
2022年7月(A代表) 日本 3-0 韓国
2023年7月(U-17代表) 日本 3-0 韓国
韓国側からも「もはや日本に負けても驚かなくなった」という声を聞く。9月に韓国のユース世代の指導者に会ったが「日本に抜かれたということはあまりにも明らかな事実」という話も聴いた。
だからこそ、今回、韓国側が「選手構成に格差」と見ている日本に敗れると、激震が予想される。再びかつてのような「韓日戦はじゃんけんですら負けてはいけない」と言われた時代の批判がぶり返すだろう。
ただでさえA代表のユルゲン・クリンスマン監督の「リモート勤務」が問題視され、代表チーム関連の雰囲気は決して芳しくない。韓国での滞在期間が短く、自宅のあるアメリカからのリモート会見が続き、9月のAマッチウィークの代表メンバー発表はプレスリリースで済ませてしまった。就任後の通算成績は1勝3分2敗となれば、当然世論も黙っていない。解任論が燻り続けている。
さらに言うと、前任のパウロ・ベント監督の下で「ポゼッション」を志向し、W杯でベスト16入りしたことに関するスタイルの継続性も曖昧な状況になっているのだ。
そこにきて、「弟分」たるU-24代表が結果を残せないとなると…一気に危機的状況がやってくる。日本と同じく、代表チームの好不調がサッカー全体の人気に強い影響を与える状況にあるからだ。
”貴重な存在”にキズ
監督たるファン・ソンホンにとっても運命のかかった一戦だ。
同学年で盟友かつ良きライバルのホン・ミョンボと、監督としてのキャリアも比較されることとなる。ホンは2012年ロンドン五輪3位決定戦で日本に勝って銅メダルを獲得。この世代の選手たちは兵役免除となった。これによって監督としても認められることとなった。
ただしホンの場合はそこまでに一ヤマあった。2010年の広州アジア大会では準決勝でUAEに敗れる失態を演じた。0-0で迎えた延長後半にPK戦を想定してPKに強いGKを投入したが…その後にまさかの決勝ゴールを許したのだ。
ファン・ソンホンはこの世代のチームが2度有する免除の機会のうち、最初のチャレンジ(つまり7日のアジア大会決勝戦)で日本と対戦することに。
ファンのような韓国社会での一般的な認知度も高い、スター選手出身の指導者は、大韓サッカー協会としては大切にしたい存在だ。クラブチーム監督としては、2016年以降なかなか結果の出ない中でも、パリ五輪世代の代表監督を任せる点からもこの点は伺える。7日の対戦で日本に敗れれば、「かつてのような猛批判」に晒されることになるのだ。
今晩の試合、確かに韓国にとっては「絶対に負けられない戦い」である理由が多すぎる。負ければ一気にこういった状況が巻き起こるのだ。
―兵役免除なし=欧州キャリアの「中断」の事態。
―かつての日韓戦敗戦時に巻き起こったような「猛批判」=A代表が不安定な中の「大きな一撃」、スター選手出身の監督への「深い傷」。
―ひいてはこれらは今後、「日本との差の拡大」に繋がりかねない。
ヒリヒリとした緊張感の感じられる戦いになるのは間違いない。日本としても、この相手に勝っての金メダル獲得は本当に大きな価値となる。
追記
韓国【徴兵免除が関係のない選手】
GK 1 イ・グァンヨン=22年シーズン序盤に膝の十字靭帯負傷により手術。同部位を手術すると免除となる
GK21 キム・ジョンフン=すでに兵役済み
MF10 チョ・ヨンオク=兵役期間中/軍隊チーム金泉尚武所属