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叡王戦ドリーム! 実力派若手棋士・出口若武五段(26)あと1勝で藤井聡太叡王(19)への挑戦権獲得

松本博文将棋ライター

 3月26日。東京・シャトーアメーバにおいて第7期叡王戦本戦準決勝▲出口若武五段(26歳)-△佐藤天彦九段(34歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は17時12分に終局。結果は147手で出口五段の勝ちとなりました。

 出口五段は挑戦者決定戦に進出。藤井聡太叡王(19歳)への挑戦権をかけて、4月2日、服部慎一郎四段(22歳)と対戦します。

出口五段、粘る佐藤天彦九段を振り切る

 段位別予選というシステムが採用されている叡王戦。本戦に進めるのは、最上位の九段からは3人です。実績十分の名棋士が並ぶトーナメントで、佐藤天彦九段は島朗九段、谷川浩司九段、永瀬拓矢王座を破りました。

 五段から本戦に進めるのはわずかに1人。出口五段は古森悠太五段、西田拓也五段、黒田尭之五段、本田奎五段と、若手精鋭を連破して本戦進出を決めました。

 本戦に入って、佐藤九段は糸谷哲郎八段、丸山忠久九段に勝利。出口五段は村田顕弘六段、斎藤慎太郎八段に勝って、準決勝に進出しました。

 佐藤九段は名人3期をはじめ、多くの実績を誇るトップクラスの棋士です。叡王戦ではタイトル戦に昇格する前の第2期(2016年度)で優勝を果たしています。

(2017年4月、電王戦でコンピュータ将棋ソフトPONANZAとの対戦に臨む佐藤天彦叡王)
(2017年4月、電王戦でコンピュータ将棋ソフトPONANZAとの対戦に臨む佐藤天彦叡王)

 出口五段はまだ棋戦優勝やタイトル挑戦の経験などはないものの、実力派若手棋士として知られています。勝率も高く、順位戦では現在、C級1組に所属しています。

 本局は振り駒で出口五段先手。佐藤九段が誘導して横歩取りに進みました。近年、この戦型は一般的に先手よしと見られています。しかし後手側を持って新工夫を示し続ける棋士もいて、佐藤九段もその一人です。

 41手目。出口五段は中段の飛車を切って銀と刺し違え、攻めていきます。形勢はほぼ互角のまま、難しい中盤戦が続きました。

 終盤、出口五段は2枚の龍(成飛車)を作って優位に立ちます。対して、粘りが身上の佐藤九段。自陣に馬(成角)を2枚引きつけ、頑強に抵抗を続けます。その辛抱が実って佐藤九段が巻き返し、チャンスが生じたようにも見られました。

 持ち時間は各3時間(チェスクロック使用)。109手目が指された時点で残りは出口5分、佐藤3分でした。コンピュータ将棋ソフトが示す評価値はほぼ互角です。

佐藤「ここでなにもないとダメだよなあ」(局後の感想)

 難しい局面で佐藤九段は2分を割いて、と金で相手の歩を取りました。結果的にはその一手が敗着になったようです。

 出口五段は2分を使い、歩を打って佐藤玉に王手。

佐藤「たたき、激痛でしたね」

 同じ筋の歩が切れたために生じた痛打で、出口五段がはっきりと優勢になりました。

 最後は出口五段が佐藤玉を即詰みに打ち取り、熱戦に終止符が打たれています。

 かくして叡王戦挑戦者決定戦に進んだのは、出口若武五段と服部慎一郎四段となりました。段位別予選で見れば下から2番目の五段と1番下の四段が快進撃を続けている状況は「叡王戦ドリーム」と言ってよいかもしれません。

 どちらが勝っても初めてのタイトル戦登場。藤井聡太叡王への挑戦をかけた決定戦は、4月2日におこなわれます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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