自意識過剰の日本を尻目に、本格的ジャパン・パッシングに走る習近平政権
「中国、日本人の短期ビザ免除再開を発表 30日から 滞在期間も拡大」(『毎日新聞』 11月22日)
日本のメディアが一斉に報じた中国政府によるビザ免除再開。
この少し前には、ペルーのリマで行われたアジア太平洋経済協力(APEC)の非公式首脳会議にあわせて、石破茂首相と習近平国家主席の会談も実現した。
一連の報道を受けて、日本では日中関係が改善へと向かい始めたとイメージする読者は少なくないはずだ。
こうした中国の動きについて11月16日付『日本経済新聞』は、「中国『対トランプ』で日本に接近 米中対立の拍車に備え」という見出しで理由を解説した。
要するに、トランプを恐れ日本に秋波を送ってきたというのだ。
中国経済がバブル崩壊で日本の「失われた30年」と同じ道を進んでいるとの話を疑わない多くの日本人にとって、これは耳に馴染む物語なのだろう。
日中首脳会談は6番目
だが、現実の外交の場で起きていたことは、そんな旧態依然とした見立てなど通用しない深刻な日本軽視だった。
例えば、中国メディアの日中首脳会談の取り上げ方だ。
わかりやすいのは中国中央テレビ(CCTV)の夕方のニュース『新聞聯播』だ。
言うまでもないことだが習近平がAPECで会談したのは日本だけではない。同じタイミングで6カ国首脳との会談をこなしている。
そして問題は、この6回の会談の報じられた順番だ。
CCTVの報道は、国の重要度と関係の好悪など総合的に判断した上で決められるので、中国がいまどの国をどの程度重視しているのかが一目瞭然となる。
結果、日本の石破首相との会談は何番目だったのか。
まず韓国の尹錫悦大統領との会談を長い時間を割いて報じた後、チリのガブリエル・ボリッチ大統領との会談が流れた。続く3番目にはタイのペートンターン・シナワット首相との会談。4番目はシンガポールのローレンス・ウォン首相。5番目にはニュージーランドのクリストファー・ラクソン首相との会談で、6番目にやっと石破首相だったのだ。
信じられないことに最後尾だ。
紙幅の都合でここでは詳しく書けないが、朝鮮半島でいま中国が懸念する事態が進行していることもあり、韓国との会談が重視された点は考慮すべきだが、それでも以前であれば、韓国よりも先に日本が報じられていた。それが韓国に先を越されるだけでなく、最後尾だったのだ。
これを、新聞が書いたように、「日本に接近」というステレオタイプなとらえ方をして大丈夫なのだろうか。
ビザ免除でも
事の深刻さは、冒頭のビザ免除再開の話題でさらに顕著となる。
というのもこの日、定例会見に臨んだ外交部報道官は、ビザ免除再開について、こういう言い方をしているからだ。
「2024年11月30日から2025年12月31日まで、ブルガリア、ルーマニア、クロアチア、モンテネグロ、北マケドニア、マルタ、エストニア、ラトビア、日本の一般旅券(パスポート)所持者に対し、ビザ免除措置を試行することを決定した」
なぜかここでも日本を一番後ろにしているのだ。
ビザ免除再開は、日本のビジネス界からの要望が強く、日中の話し合いの場では何度も俎上にのせられてきた。
今年9月には日中友好議員連盟が訪中団を組み北京を訪れた。その時にも、ビザ免除再開の要請が日本側から出されたのは記憶に新しい。
グローバルサウス重視の徹底
日本に新政権が誕生したことで、そのトップとの会談を機に、中国側も新しい雰囲気を作り出そうとした意図は感じられた。しかし、それはもろ手を挙げてという感じではないのも確かだ。
発表前までビザ免除の対象国は29カ国だった。そこに今回9カ国を加えて38カ国にまで対象国を拡大したわけだが、日本はそのなかで38番目だったということだ。
これが政治的な意図を含む、いわゆる「嫌がらせ」であればまだしも、現実はそういう話でもなさそうだ。
中国は9月に「2024年中国アフリカ協力フォーラム首脳会議」を北京で開催し、続く10月には李強首相が「第23回上海協力機構(SCO)加盟国首脳(首相)会議」に出席。続いて習近平がBRICS首脳会議に出席し、11月には「APEC(アジア太平洋経済協力)会議」、「G20」に出席した。
この流れを考えれば、中国がどっちに向かい、何に力を入れているかは明らかだ。
新興・発展途上国との揺るぎない連帯だ。
米中対立がもたらした日本の「モテ期」は無為無策のうちに過ぎてしまったようだ。